【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.775「プロアスリートで“今”をないがしろにしている人はいません」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
目の前のことにガムシャラにがんばる人を見ると感動します。でも、スカしてがんばろうとしない人、明日やればいいと先送りする人など人間はいろいろ。プロでも今をがんばる人と、そうでない人はいるのでしょうか。(匿名希望・37歳)
この質問に接してすぐ頭に浮かんだのが、前に聞いたことのある血液型に関する性格診断テストのことです。
邪魔にはならないけど、自分の家の前にゴミが落ちていたとしたら、あなたはどうするか? という性格判断です。
気がついたら拾うのが一番いいですが、世の中にはいろいろな人がいます。
そのままにする、無視する、気にはなるので人に頼んで拾ってもらう……人それぞれですが、A型の典型的行動だとか、いかにもB型だなと言われたらどうでしょう。
言われてみれば、わたしにも心当たりがある。そう思わせるのが、この手のテストのよくできたところで話のタネになるでしょうね。
性格や行動診断は何種類もあって、その内容は忘れてしまいましたが、わたしは若い選手の指導をするにあたって、たまに参考にもしていました。
大勢の生徒を相手に同じことを教えるにしても、受け取り方は各人によって違うはず。
選手たちがどんな悩みを持っているかを探り、原因と課題があって、どうすればいいかを考え解決に導いていく。
その筋道の作り方は相手によって違います。
実際、何人かの若い選手を見ていた時、同時に練習をやってもらったら、初めはおとなしくボールに向かっていたとしても10球目には早くも違いが表れてきます。
A型の選手は一心不乱にマジメに黙々と続けますが、O型の選手は納得いくまで考えてから始め、B型の選手はある意味マイペースですね。
一人一人自分の“今”を何とかしたいという気持ちに変わりはありません。
ですから、こちらも真剣に対応します。
わたしとしては、それぞれの性格に合っていると思えるやり方で、彼女たち本人が自分で答えを見つけられるよう、ヒントを与え続けることを心がけました。
時には褒め、時には叱り、時には持ち上げ励ます──。
その場その場で気持ちと体の動きを観察し、相手を奮い立たせる感じですかね。
質問に「プロでも、今をがんばれる人と、そうでない人がいるのでしょうか」とありましたが、これにはちょっと、カチンときちゃいます。
毎月給料がもらえるサラリーマンと違って、プロアスリートは立場や身分、仕事と収入を維持し続けられる保証がありません。
自分の技術、実力に関する悩みは死活問題で悠長に先送りできるものではありません。
わたしに言わせれば「プロはいつだってがんばっている」。
問題が起きた場合、そのまま放置したり、他の人に解決させたりできない。
自分の代わりはいないのです。
つまりは、今、がんばるしかない。
明日やればいいと先送りしたり、スカしてがんばらないなどというのは、その人の性格がどうこうという問題とは無関係だと思います。
自分の立場が理解できていれば、がんばれないという概念もあり得ないと思います。
ただ目標がある練習の積み重ねの中で今日はここまで残りは明日という考えはあります。
もうやらなくていい、練習しなくていいと言われたらどんなに楽か。
何の縛りもなく、自堕落な身分に憧れを抱いてしまうのも、人間ですから……。
ですが、それで練習を休んでしまったら、停滞し失ってしまったものを取り返すには、余計な負担が増えることもわかっているはず。
自分が何を目標にしているか、そのために今、何が必要かがわかっている人なら、それが理解できるはずです。
大雨が降ってコースが使えないとわかっていても、隠れてでもラウンドしたい、じっとしていられない!
研修生として「今をがんばる」しかなかった当時のわたしが、そんな気持ちになったことを思い出します。
あなたは「今をがんばる人」になりたいのでは?
ただ、自分で自分を切羽詰まった“今”に追い込むのは、日常生活のままでは難しいかもしれません。
自己改革を断行するにはまず、目の前のゴミを積極的に拾ってみる。
そのあたりから始めてみてはどうでしょう?
「一日一善という言葉は、小学生のとき習いましたよね?」(PHOTO by Ayako Okamoto)
週刊ゴルフダイジェスト2023年8月1日号より
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