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【林家正蔵の曇りのち晴れ】Vol.292「福島ゴルフの巻」

先日、久しぶりに福島のゴルフ場へ行く予定ができ、友人の車を家の近くで待っていると、始発に乗るために朝早くから歩いている人がチラホラ。それを見ているとなぜか申し訳ない気分になってしまいました。土日もしっかり働いて久々の平日休みだから堂々としていればいいんですがね……

前回のお話はこちら

休みのはずがなぜか申し訳ない気分に

久しぶりに福島でのゴルフ。早朝4時半に友人が我が家の近くまで迎えに来てくれた。この季節、この時間はだいぶ明るくなっており、ジョギングをする人、犬の散歩をする人、始発に乗るために駅に向かう会社員等々、結構人の行き来があるものだ。

大通りにたたずみ、ゴルフバッグと着替えの入ったバッグと、いかにもゴルフに行くいでたちの私は、出勤なさるみなさんが急ぎ足で歩いている様子を目の当たりにすると、少々申し訳ない気分が心の中でムクッと起き上がる。「スミマセン! ゴルフに行ってきます。本日は火曜日。たまたま今日がオフなので」とペコペコと頭を下げたくなると同時に、もう一人の私は「いいんだよ! 今日は休みなんだから。土曜、日曜も休みなく働いていたじゃないか! 胸を張ってゴルフを楽しめばいいんだよ」と開き直って文句を言いだす。

ゴルフの迎えの車を待つ間にもそんなことを考えてしまうのは、自分でも小心者だと情けなくなる。

今日行くコースは友人が紹介してくれた。あの大地震でこのコースも地割れができてしまい、大きな痛手を被ったそうだ。もちろんメンバーの方の中には、家や会社を失ってゴルフどころの騒ぎじゃないと、それ以来ゴルフをやめたという方も多いと聞いていた。

コースのほうは再開した矢先のコロナの影響でまたまたピンチ続き。最近になってやっとゴルファーも戻ってきたようだ。土日はかなり予約が埋まっており、平日のほうがよいというので今日になった。

前回は郡山で前泊して、のんびり地元のおいしいものを食べてから、翌朝ゴルフとなった。今回は皆の都合のいい日帰りのツアーだ。


木造の老舗焼肉屋で舌鼓

思い出すのは郡山で食べた焼き肉だ。とくに福島の会津牛のホルモンは想像力をはるかに超えるほど美味であった。地元の知り合いの紹介で、駅のガード下にあるお世辞にも綺麗とは言えないほぼ木造の老舗だ。床も脂でべたべたしているのだが、お掃除は行き届いているのでひと安心。都内でも、高級店風な店が多いものの、その真逆の古き良き昭和の香りが漂う店のほうがおじさんたちは落ち着くのだ。

メニューはない。おばちゃんに「4人」と告げてから席に案内される。たくましい二の腕のお兄ちゃんが七輪をテーブルの真ん中にドーンと置いて、タレ皿とキムチ、ナムル、韓国のりがドーン。おばちゃんが「はぁーいよ」とホルモンミックスをドーン。

「何飲む? ビール? マッコリ? 焼酎?」とタンタンタンのリズムで聞いてくる。友人が生ビールと言うと「ない! ない! うちは瓶しかないんだよ。」しかも瓶ビールはお客さんが大型冷蔵庫の中からセルフで取ってくるそうだ。あとの注文は食べたいものをメモ用紙に書くのがルールとのこと。といってもあるのは、カルビ、ハラミだけで、塩で食べるというチョイスもない。タレオンリーだそうだ。ビビンバと白飯。スープは玉子、野菜、テグタンのみ。

ホルモンを焼く。もみダレに絡まり、どこがなんの部位かわからず、もう焼けているかどうかの判断をして口の中に放り込んでいるうちに「あっシマチョウだ」とか「コロかな」とか「ミノのようだな」と区別がつく。

それにしてもうまい! べら棒にうまい! ホルモンミックスすぐにお代わりだ。

月刊ゴルフダイジェスト8月号林家正蔵

米は米でも米の水を堪能

そうこうしているうちに店は満席。予約は受け付けないらしく、ガラッと戸を開けて「なんだいっぱいか」とうなだれて帰るお客さんが続出。しかも女性のお客さんが一人もおらず、じいさん、おっちゃん、あんちゃんばかり。そのうえ換気が悪いのでしばらくすると煙のせいで目が痛くなるほどだ。

ハラミもうまい! 思わず白飯を注文しようとすると、地元の友人が「米よりも米の水、日本酒をやろうぜ」と白飯の注文を遮った。

福島は酒どころ。大型の冷蔵庫の中には、一升瓶もたくさん冷えて並んでいた。程よく焼けたハラミを食べ、冷えた日本酒をグビリ。「うわぁー」と大声が出てしまった。「ハラミで白飯もうまいけど、米の水だってよく合うだろう」と地元の友人に誇らしげに語られた。

なるほど都内では日本酒で焼肉を合わせたことがなかった。カルビの折に福島の米。しかも羽釜炊きのライスを食す。キレイに完食したのちに、おばちゃんが「うちの隣の畑で採れた桃だよ」と白桃を出してくれた。皮をむいてガブりつく。たまらんなぁー。

思い出にふけっていると友人の車が目の前に。焼肉屋の話をすると「あの店は閉店したよ」とのこと。おばちゃんが転んで大けがをして、それ以来やっていないのだという。「またいい店探そうぜ」。しかし、思い出は色あせない。

焼肉屋 小汚いが 味は一品

月刊ゴルフダイジェスト2023年8月号より