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【林家正蔵の曇りのち晴れ】Vol.291「間の悪さの巻」

間の悪い経験をしたことは皆さんもあると思います。私の周りにも「うわっ、間が悪い人だな」という瞬間が何度もありました。今回はそんな間の悪かったときの話をいくつかしようと思います。両方とも間が悪いけど結果、落ちができたという感じで笑いになっているのですが、少し間違っていたら大問題になっていたかも……。そう考えると怖いことですよね。

ILLUST/アオシマチュウジ 日本音楽著作協会(出)許諾第2303385-301

前回のお話はこちら

和田アキ子の歌に一同助けられる

今回は蛇の話をしようと思う。演芸場の楽屋で私の携帯電話が、早く出ろよと言わんばかりにブーブーブーと震えながら鳴っている。一応楽屋の暗黙のルールみたいなものがあり、着信音が流れないようにマナーモードにしておくのが礼儀とされている。

でもたまーにいるんですよね。それすら忘れてしまい、突然、着メロを流してしまう人が。また誰かが合図を送っておるんじゃないかと思うくらい絶妙なタイミングで。

間の悪い例その壱。私より先輩の上方の落語家さんが東京公演をした折の話。お供についていたお弟子さんが足袋を入れ忘れたことに対して顔を真っ赤にして怒鳴りつけていた。そりゃ足袋を入れ忘れたお弟子さんが悪いのだが、何もそんなに怒鳴りつけなくてもいいのにというほど怒っていた。その怒鳴り声は高座に聞こえるほどの大音量。「ゆうたろ、出がけに! 確認したかって! アホ、ドアホ」。このフレーズを言っていたのは私の知っている限りでも5回目である。

「私のでよければ貸しましょうか」と言い出していいものなのか、悪いものなのか、大先輩には言い出しにくいものである。白い靴下ならばお客様にはわからないときがあるが、よりによってそのときの先輩の靴下は黄色地のアーガイル模様。とてつもなく渋めの色紋付きには派手すぎる。

怒鳴り疲れて一瞬、楽屋がシーンと水を打ったように静まり返った途端、その師匠の携帯がピカッと光り、大きな音で「笑って許して小さなことを」。あの和田アキ子さんの名曲が鳴り響いた。かの御師匠はアッコさんの大ファンで大阪出身のアッコさんをデビュー当時から応援しているとのこと。なおも携帯は怒り心頭の御大に語り続ける。

「笑って許してこんな私を」

楽屋の方々からクスクスクス……。「しょうがないわ! アッコに言われたら許すしかないわ!」とここで一同笑いに包まれて一件落着。


自信満々からの池ポチャに一同凍り付く

間の悪い例その弐。その日はゴルフ接待に付き合わされたのだ。間に入ったのが代理店の友人で、そのワンマンオーナーの鶴の一声で契約が取れるか取れないかがきまるのだそうだ。すがるような声で「頼む、ゴルフ付き合ってよ。その社長が大のゴルフ好き。たまたまゴルフダイジェストに連載している芸能人がおりますと言ったらぜひセッティングしてくれとのこと。この契約が取れたらうちの会社もやっと軌道に乗れるのよ。頼む、頼む」と繰り返す。

たまたまそいつの地元である仙台公演の翌日が空いていたので、その日にゴルフをすることになった。大好きなゴルフをして友人の助けになるならばこんないいことはない。その社長がメンバーという地元の名門コースへ。フサフサの白髪をオールバック。そして高価な銀縁メガネの80歳には見えないエネルギッシュな男性がごつい手で握手してきた。始めは魚の行商からリヤカーひとつだった店も今や東北に何十店舗のスーパーのオーナーにまでのし上がったそうだ。「まぁまぁ楽しみましょうか」と笑ってはいるが、実は怖いところもあると友人から事前に情報を得ていた。

その瞬間は8番のパー3でやってきた。「ここは得意のホールでね。池が手前にあるでしょ。メンバーになってから池ポチャは一度もないんですよ」。確かにグリーンギリギリというわけでもないし、ピンも奥だし、あまり池が気になるということもない。「では」と社長140ヤードを8番アイアンで打つ。カーンとトップして勢いのあるボールは池へポチャン。一同が一瞬にして凍り付く。ここで社長が「あらやっちゃったよ」と言ってくれればいいものの、打つ前に自慢した手前、顔を真っ赤にしてアイアンを地面に叩きつけようとしたがグッと堪えてブルブルと震えている。

和田アキ子の次は都はるみに助けられる

こんな一昔前の漫画みたいに怒る人がいるんだと笑いをこらえるのに大変。すると友人の携帯から都はるみの“好きになった人”が「さよならーさよならー元気でいてねー」と鳴り出した。あとで聞けば、前日のキャバクラのお姉ちゃんに「お客さんだったらこの曲かな」とセッティングされてそのままにしていたそうだ。その選曲も選曲だし、そのままにしている友人も友人だ。

流れてくる歌声に社長が一言。「私のボールにさよならと言ってくれたのかね。じゃあ君にもさよなら、さよならかな」と真顔で答えていた。また凍り付く一同。「なーんてね」とガハハと大きな声で笑う。そして一同も笑った。

その社長は器が大きな人で仕事の話はまとまった。おもしろ3噺として今でも語り継がれているそうだ。さて今回は蛇の話である。えっ、もう字数がない。では次号で話しましょう。

説教中 間の悪さで 着信音

月刊ゴルフダイジェスト2023年7月号より