【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.763「イライラはするけれど次に向かうしかないんです」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
自分でも「いい歳をして」と思うほど、ミスすると頭に血が上ってイライラします。気持ちの動きは抑えるべきだと思いますが、岡本さんはどうやって感情のコントロールをしているのでしょうか。(匿名希望・52歳・HC3)
誰しも自分の感情の流れに翻弄されてしまうことはありますよね。
どんなピンチにもうろたえず、窮地でもビクともせず、理路整然と判断を下せる人がいたとしたらスゴイの一言ですけどね。
上手くいかないと気分は落ち込むし、ヤケにもなりますよ。
それが人間というものだと思います。
理由や原因がなく、どうにも気分が優れないなんて日もあるでしょう。
人間は感情の動物ともいいます。
その感情の起伏には周期があって規則的に巡っているという説があるそうです。
それがバイオリズムという理論だそうです。科学的根拠が確認されているわけではないみたいですが、わたしはこれをたびたび参考にしていました。
バイオリズム説によると、人の体調(physical)と感情(sensitivity)、知性(intellectual)にはそれぞれ周期性が備わっていて、その同期や相殺が人間の生理や行動の状態に影響を与えるそうです。体調は23日周期、感情は28日、知性は33日をかけてピークから底を通過してまたピークへと移り変わっていくそうで、人間は生まれると同時にこの3つの分野のリズムを刻み始めるのだということです。
その変化は周期の違う3つの曲線を重ねて描くことで、それぞれが干渉し合う様子を想像することもできる。
ですので、誕生日を起点に自分のバイオリズムが今どうなっているかをチェックすることができるわけです。
そしてその装置に誕生日を入力すれば、表示画面が3つ重なった曲線を見せてくれる仕掛けです。
1980年代の前半、LPGAツアーを転戦し始めたころだったかな。
知り合いからその装置を譲ってもらい、毎日の生活やプレーの内容、気持ちや体調の変化を突き合わせていたこともありました。
しかし、分かったことは、いくつかの曲線が好調な部分で重なっていたとしても必ずしもパフォーマンスが良くなるとは限らないことでした。
しかし、すべての曲線が低調を示している時は、低調なパフォーマンスしか出せなかったとしても納得できたことがありました。
そういう点で参考にすることができた便利な装置だったともいえます。
体調・感情・知性の3つがそろって絶好調で同期するタイミングは年に1回あるかないか。
そんな運頼りではゴルフになりません。
ただ、感情や体調、知性には高低があり、日々刻々と移ろいでいるものと考えに入れておくことは心の準備にはなります。
感情曲線を持っているのは誰もが同じです。
人間みんなそうなのだから、自然の流れに逆らっても疲れるだけです。
でもだからといって、何をしても無駄というわけでもありません。
自分のなかで3つの曲線の狭まりや広がりを自分なりに都合よく考えるようになりました。
バイオリズムをすべて信用しているわけではありませんが、参考にしながら世界を転戦するなかで、それが結果的に感情のコントロールになっていたのかもしれません。
たった一人で心細かっただろうと同情されることもありましたが、わたしにはむしろ孤独感より解放感のほうが大きかったかな。
そんなわたしには、良い意味で大雑把なバイオリズムの考え方が不思議とマッチしたのかもしれませんね(笑)。
わたしだって失敗すればクサりますよ。
だけど、その原因を作ったのは間違いなく自分です。
自ら犯したミスにイライラしてしまうのは、頭のなかで再現して「ああしなければ良かった」とないものねだりをしているからです。
ゴルファーにそんなヒマはありません。
スコアをまとめたいのなら、自分の感情がどうであれ、過去の失敗に付き合ってはいられないはずだと思います。
「“切り替え”の大切さって、ゴルフだけじゃなくて私生活にも通じますよね」(PHOTO by AYAKO OKAMOTO)
週刊ゴルフダイジェスト2023年5月2日号より
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