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【ゴルフ野性塾】Vol.1775「9アイアンの倍の飛距離を飛ばせているか」

古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。

前回のお話はこちら

窓の外、
晴れた空では

あるが、4月5月の暖かさを感じさせてくれる様な日射しではない。
今日3月14日、火曜日。
東の山も南の山も薄い輪郭を見せる初春の空だ。
「今日の昼の気温17度、4月中旬の暖かさになるんだってよ。外に出ましょうネ」と女房殿が言って来た。
だが15階の部屋から眺める街は空気の冷たさを感じさせる街模様だ。
「薄着して出るんじゃ風邪引くぞ。風は冷たい筈だ。歩道の風は3月中旬の風だ。幾等、4月中旬の気温と言ったって吹く風は4月中旬の風じゃないな。やっぱり3月14日の風だ」

現在時、午前11時55分。
ダウンジャケットのベスト着て本稿の執筆に入りました。
確かに人様よりは寒さに弱い体質と思うが、暑さにゃ強いので行って来いのイーブン体質じゃある。
これ迄、損も得も半々か、損得なしの体質と思って来た。
女房殿は私と反対の体質だ。
寒さにゃ強いが暑さには弱い体質である。
今、共に旅する時、ホテルの部屋は二部屋取る。
眠る時のお互いの最善の室内温度、3度から5度は違うので、同じ部屋で眠るのはお互いの苦痛であるが故にだ。熟睡優先の年齢に達した。

女房殿、今日も洗濯機、回している。
私は朝9時15分過ぎに起きたが、私の起きる気配を察知した直後に洗濯機を回し始めていた。
長男雅樹はズボンでもセーターでも半袖シャツ、下着類総て二日間続けて着る事はない。
雅樹は母親の趣味の協力者である。その日、着た物は洗濯機の前にポンと放り投げて夜の眠りに入っている。
私は協力者ではない。
頻繁の洗濯は服の生地を傷めよう。だから三日間連続で同じ服を着て来た。
昭和22年生まれの幼少時、豊かな生活過せた者は少ないと思う。
出された食べ物は残すな。米一粒であってもだ。米と食事を作ってくれた人に感謝せよ。
洗濯してくれる人の苦労を思え。毎日、同じ服を着て病気になる事はない。服が汚れるだけだ。
洗濯するお母さんに負担掛けちゃいけないと思えば、感謝の気持ちは行動に表れるものだ。
一石三鳥だ、と私の爺様は教えた。私が小学生になったばかりの時だった。
母の父は言葉の多い人ではなかった。
だから記憶に残っている。
言葉多き人の言葉、残るは少ないと思う。


「信弘は賢い。自分に必要な教えを選択出来る賢さを持っている」と爺様は私の父に言ったと聞く。
一年に一度か二度の爺様の言葉だったが、私の母はその言葉を父から伝えられた時、涙を流して喜んだらしい。
私も言葉少ない父親と爺様になりたいの願望は持つ。
ただし、女房殿へは我が身を守るが為に年々、言葉は少なくなって行く。
長男雅樹が言った。
「親父は自爆の発言が多いんだよな。どうして敵陣に頭から突っ込んで行くんだよ。これで又、2時間の説教、受けるんじゃないの?」と。
「後先考えて夫婦の会話出来ると思うのか? 何も考えず、会話出来るのが親子であり、夫婦であるんだ。恋人同士の時はそりゃ考えるさ。だけど、夫婦になったら後先考えての会話は疲れる。優しさあれば相手を傷つける言葉は出て来ないものだ。愛あれば尚の事、相手を傷つける刃先を持つ言葉は出ちゃ来ない。結婚すりゃ分る。どうだ、結婚する気になったか?」
雅樹、45歳。独身。
「結婚して独身時代以上に幸せになった男、見た事ない。だから結婚する気なしだ。それに面倒臭いしネ」と言い続けて来た独身男である。

しかし、近頃、雅樹の発言に変化生じている。
「一度はしてもいいかな。ま、するとすれば3年の間にやると思うが」
女房殿は喜んだ。
その勢いで雅樹の衣類の洗濯回数、増えた様な気はする。
窓の外を見た。
東の山、南の山、輪郭がはっきり見えて来た。
東の山の手前、飛行機が北から南へ飛んで行った。
今日の福岡の街風は南風だ。
冬の風ではない。
飛行機の離陸着陸の方向見れば風の方向が分る。
現在時、午後1時25分。澄んだ空になって来た。

左肩と左手甲のラインが飛距離を作る。

雅樹は今日、神戸へと向う。
大手前大学ゴルフ部員へのコースラウンド指導。
「まだスコアで負ける事はない。でもドライバー飛距離とショートアイアン飛距離では負ける事もあるよ」
「ショートアイアンの飛距離で負ける理由は振り抜きのスピードだ。大手前の学生にとってはいい事だ。振り抜けているんだから。恐怖があれば気持ちに躊躇、スウィングに緩み生じるが、ショートアイアンの振り抜きに躊躇なければ順調な練習出来ていると思うぞ。ショートアイアンの飛距離は己を知る一番の目安だ。私の経験で申すが、ショートアイアンの飛距離落ちていい事はなかったな」
「僕の飛距離は落ちていない。部員の飛距離伸びているだけだ。飛距離伸ばす簡単な方法あるのかな」
「トップ時の左肩から左手甲迄のライン、単純な形にすりゃいい。ドライバーだとスウィングスピード、クラブヘッドスピード上げなきゃ飛距離伸びないが、ショートアイアンの飛距離は左肩から左手甲のライン作りで飛距離は増す。

理想を申せば、9アイアンの倍の飛距離がドライバーの飛距離だ。若い時は理想生むスウィングは出来るが、老いる程に9アイアンの倍の飛距離とドライバーの飛距離差は大きくなって行く。特に70歳過ぎるとサンドウェッジの倍の飛距離とドライバーの飛距離が同じになって行くな。
淋しい事じゃあるが、それが現実だ。トップ時の左肩と左手甲の形、10球打って10球、同じ形で打てるスウィングを目指せ。それでキャリー5ヤードは伸びる。ドライバー飛距離は10ヤード伸びる」
「親父、今迄その理論発表した事あるのかい? 僕の記憶にはないんだが」
「ない。この1カ月、毎日、西新ゴルフセンターに通っているが、毎日100球から150球打って来て気付いた事だ。10球打って10球、同じ左肩と左手甲の形と位置で打てれば9アイアンの飛距離は伸びた。そして今迄使って来たシャフトより硬いシャフトで打てば、左肩と左手甲のラインは単純化する。今、俺はNSプロのスチールシャフトで打っているが飛距離は伸びたネ。球の高さも高くなったし、インパクト音も変ったぞ。聞きたくないか? 俺の9アイアンのインパクト音」
「親父のインパクト音じゃ眠くなると思うよ。大手前学生のインパクト音だと眼が醒めるが」
「そうか。俺の9アイアンじゃ眠くなるか。確かにそうだな。75歳と20歳じゃ音が違うのが当り前だ。そして中間の音が45歳のお前とゆう訳か。教えながら教わっている年齢が45歳なんだな」
「そうです。坂田雅樹、頑張ります」

現在時、午後2時5分。
書き上げました。編集部へ送稿します。
その後、大濠公園へ行き、西新ゴルフセンターへと行く予定。
大手前大学ゴルフ部は雅樹に任せました。
雅樹が福岡へ戻って来るのは2週間先か。
私は己のゴルフに向い合う日々を過す。
体調良好です。

坂田信弘

昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格

週刊ゴルフダイジェスト2023年4月4日号より