【林家正蔵の曇りのち晴れ】Vol.289「名古屋飯を堪能の巻」
今回は、名古屋の知り合いから名門コースで回らないかという連絡が来たので、急遽名古屋へ行ってきました。やっぱり名古屋といえばご飯ですよね。あの濃い味がたまらないんですよ。今回も友人に連れて行ってもらったのですが、鍋ひとつでもかなりの楽しみ方があって最高でした。ゴルフは散々でしたけど……。
ILLUST/アオシマチュウジ
大好きな名古屋飯を堪能
友人に誘われ名古屋の名門コースにてラウンド。桜満開で、しかも抜けるような晴天。まさにゴルフ日和のプレーである。
前日入りして名古屋飯をご馳走になる。人によっては名古屋の名物は味が濃いから苦手ということもたまにある。しかし私は、大好きである。たまらんですねえ。あの味噌味は。濃い見た目とは裏腹にキレのあるコクと甘み。味噌煮込み、味噌カツ、味噌おでん、土手煮。いわゆる牛や豚の内臓をやわらかくなるまでこんにゃくと一緒にグツグツと味噌で煮込んだもの。お店によっては卵を濃く色づくまで煮込み、白飯の上にぶっかけてかきこむ。どんなに酒を飲んでいてもこの締め飯だけは欠かせない。
その日は名古屋在住の知り合いの方のご招待。中村区にある、かしわ、ウナギの名店「宮鍵」へ向かった。噂には聞いてはいたが、伺うのは初めて。名物味噌鍋のコースを頼む。まずは、前菜がわりにかしわが二品。
ゆでたささ身に大根おろしをたっぷりとかけて三杯酢でいただく「かしわおろし」。東京でも大阪でも京都でもかしわ専門店に幾度となく行ってはいるが、このおろし三杯酢で、かしわのささ身を食べたことがない。厚みのある鶏肉は、実にしっとりとしている。湯がいたささ身は、パサつくことが多いのだが、官能的な舌触りに脳天をまさかりで割られたような感覚を覚える。
何を食べても一向に箸が止まらない
続いて「とりわさ」。通常ならば細く刻んだささ身に本わさ、刻み海苔と三つ葉を和えた醤油味。ところが蓋をとってみて驚いた。こちらにも厚めに切ったささ身が三切れ、刻み海苔が少々と実にシンプルなたたずまいでやってきた。口の中に入れ、身を噛むととても柔らかく舌にまとわりつく。後から本わさの辛みと海苔の香りで極上のうまみに酔いしれる。
と、ここでそのすごさに傷み入った。付き出しは、このささ身料理たった二品。つまりうちは、かしわにかけてはこのようにおいしく召し上がっていただきますという名刺代わりの付き出しだったのである。
歌でいえばイントロ。オペラでいえば序曲。落語でいえば枕にあたるのが前菜の二品ということだ。
食卓の鉄製の小鍋に仲居さんが火をつけて味噌鍋の支度にかかる。割り下で八丁味噌を溶き、かしわの各部位を煮ていく。いい頃合いを見計らって取り分けてくれる。もも、皮付きの胸肉、もつ、はつ、肝。ささ身に代わってやわらかくも弾力のあるかしわが口の中でダンスを踊る。もう箸が止まらない。
いつまでも食べていられるのだが、メニューにあった一品に目が止まる。かしわのマヨネーズ和え600円。名古屋は冷やし中華にマヨネーズを必ず加えるくらいの“マヨラー”の多い土地と聞いている。老舗でまさかのマヨネーズ和え。絶対にうまいはず。注文して出された小鉢を見て驚いた。純白なかしわに、これまた純白のマヨネーズ。多分自家製であろうものを和えただけなのに、実にうまい。美味の極上もの。甘、酸、塩味のトライアングルとその調和。やめられない、止まらない。これを挟んで味噌鍋に戻る。
酒はもちろん、日本酒の冷酒しかも辛口。進む進む。途中で芋焼酎を挟んで、また日本酒のかん酒で締める。
ご飯を堪能 しかしまさかのゴルフで大崩れ
さて鍋の締めはというと、ドロドロに沼化した味噌鍋のつゆの中にうどんではなく、きしめんを和える。ツルツルとすすると、これがまたたまらなく美味。ドロドロに煮詰まったかしわのうまみにたっぷりの味噌の汁をまとったきしめんが腹におさまっていく。
うどんよりもきしめんのほうが、つゆの絡み方がいいのか、鳥鍋のうまみをすべてが感じ取れるのだ。するとこの店に通っていた知人が「白飯」を注文。さらに煮詰まった味噌のつゆを、ぴかぴか光る炊きたてのご飯にかけて、ザクザク食べる。
白飯にしてみれば、まさか茶色のドロドロの液体をぶっかけられるとは思っていなかったのであろう。お構いなしにたっぷりと味噌のつゆをかけ、汁かけご飯をかきこむ。きしめんを食べているのにご飯が口の中にスイスイとおさまっていく。
炭水化物バンザイ。体重や成人病なんて忘れて、今日くらいはいいだろうと満腹になる。
さて翌日のゴルフは52、49の101。久しぶりの100叩き。スコアは鳥鍋のようにケッコー(結構)とはいかず。この名門コースにリベンジを誓い新幹線に乗った。
名物の天むすをお土産に。しまった! コパンの海老カツサンドを買い忘れた。あー。名古屋はうまし!
名古屋飯 食べ物に惑わされ 大叩き
月刊ゴルフダイジェスト2023年5月号より