【陳さんとまわろう!】Vol.229「いいショットのときの体の動きやリズム。ぜんぶ覚えておきたいんです」
日本ゴルフ界のレジェンド、陳清波さんが自身のゴルフ観を語る当連載。今回のお話は、松山英樹のマスターズ制覇について。
TEXT/Ken Tsukada ILLUST/Takashi Matsumoto PHOTO/Tadashi Anezaki THANKS/河口湖CC、久我山ゴルフ
覚えておくことで
再現することが容易になる
――前回、発展途上時の陳さんが、これはと思われる先達のスウィングを勉強するときに、その人のスウィングをじっくり見て映像として頭の中にしっかり叩き込み、その映像を自分でスウィングしながら再現させることを一生懸命やったという話がありました。
陳さん はい。そのときに大事なことは、スウィングには必ずリズムがありますから、スウィングの全体像というかな、動きの一連の流れを覚えておくことなんですよ。そうすることで再現しやすくなるんだねえ。だから、私は自分のスウィングもコマ落としで再現することができるんですよ。アドレスからフィニッシュまで、それぞれのポイントでストップモーションのように動きを止めても、動きに余りが出たり、足りなかったりしないんだ。わかる?
――ような、わからないような。
陳さん アハハ……。つまりね、たとえばテークバックをゆっくりとっていきながら途中で止めて、また動かして止めて、ということを繰り返していっても、実際のスウィングと同じトップオブスウィングに収まるんだねえ。またダウンスウィングに入ったところで止めて、動かして、また止めてとやっても、インパクトでは実際のスウィングと同じ形になっているんだ。フォロースルーからフィニッシュまでやっても余ったり足りなかったりしませんよ。これ、やってみたらわかりますけどね、難しいんだよ。自分のスウィングが体と頭に刻み込まれていないと無理なんだ。
――刻み込まれていないとコマ落としの形が実際のスウィングと違ってくるわけですね。
陳さん そう。スウィングは結局、記憶なんですよ。体にも頭にも覚えさせておかなくちゃいけないものなの。だから記憶力の高い人はゴルフが上手いんだ。いいショットをしたときの体の動きやリズムを記憶できていれば、いい動きの再現性が高いんですからミスしにくいはずよ。私ね、あなたたちと一緒にプレーしたときのスコアをぜんぶ覚えていますよ。1番ホールから18番ホールまで。これはね、あなたたちがプレーしている映像が私の頭の中に記憶されているからなんだ。たとえば2番ホールでティーショットを右のラフに打ち込んだ姿、2打目でラフから出せずにヘッドを叩きつけた姿(笑)、3打目でフェアウェイに出して、4打目がダフリでしょ。で、5打目で乗せて2パットだからトリプルボギーだ、ってね。
――もしかして、こっちが覚えていないことまで覚えているんですかね。
陳さん アハハ……、何でもないことよ、そんなの。このごろは年のせいか無理になりましたけど、以前は試合に出たときの72ホールのショットをぜんぶ覚えていましたよ。初日の1番ホールから最終日の18番ホールまでの各ショットを使用番手からグリーンまでの残り距離、ピン位置、ボールを乗せた場所、パッティングのラインまでね。これはやっぱり映像が頭に残っているんですよ。でなきゃ、いいゴルフはできませんよ。
――そういうことをぜんぶ覚えようと努力するわけですね。
陳さん そう。覚えようとしなくちゃ覚えられないから。ショットの種類やボールの高さまで、ぜんぶよ。5番ホールの2打目はアゲンストの風の中でパンチショットで打ってピンの右下3メートルに乗せたとか、とにかく細部までのぜんぶよ。
陳清波
ちん・せいは。1931年生まれ。台湾出身。マスターズ6回連続出場など60年代に世界で日本で大活躍。「陳清波のモダンゴルフ」で多くのファンを生み出し、日本のゴルフ界をリードしてきた
月刊ゴルフダイジェスト2022年10月号より