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【陳さんとまわろう!】Vol.228「目で見て、覚える。いちばん、大事なことなんです」

日本ゴルフ界のレジェンド、陳清波さんが自身のゴルフ観を語る当連載。今回のお話は、陳さんがワールドカップに出場し学んだことについて。

TEXT/Ken Tsukada ILLUST/Takashi Matsumoto PHOTO/Tadashi Anezaki THANKS/河口湖CC、久我山ゴルフ

前回のお話はこちら

ワールドカップでの
一流選手のスウィングは
本当に勉強になった

――ワールドカップに初出場した1956年大会(英国ウェントワース)では優勝したベン・ホーガンに30打の差をつけられて、世界の大きな壁にはじき返された陳さんでしたが、その後もワールドカップの台湾代表として世界の一流選手のスウィングを観察研究して徐々に腕前を上げていきました。

陳さん はい。翌57年は霞ヶ関東コースでやった東京大会だ。ウェントワースで私は307ストロークでしたが、東京では295ストロークと12ストロークも縮めましたからね。1日あたり3打減らしたわけよ。

――ホーガンが日本に来なかったためにスコアの比較ができないのが残念ですね。


陳さん そうなの。どれぐらいのスコアで回るのか見たかったのにね。ホーガンは飛行機に長く乗っているのが嫌いなんだって。日本は太平洋を越えなくちゃいけなくて遠いからね。だからジミー・デマレが代わりに来てさ。ホーガンは東京の次のメキシコ大会には近いからちゃんと出ているんだよ(笑)。ここではホーガンと私が3日間同じスコアで並んだんだ。72、73、72でね。ところが最終日に2人とも崩れちゃってさ、ホーガンが74で私が76。負けました。

――でもたった2打差ですからね。陳さん大進歩ですよ。

陳さん いや実はね、アメリカチームはサム・スニードが腰を痛めて途中で棄権しちゃってさ。 そのため団体戦がなくなって、ホーガンに元気が出なかったのよ。本当ならもっといいスコアで上がれたはず。でもいま思い返してもワールドカップはとてもいい勉強になったね。ホーガンをはじめスニード、カナダのスタン・レオナルド(1954、1959年W杯個人戦優勝)、ベルギーのフロリー・ヴァン・ドンク(1960年W杯個人戦優勝)。こういう優れた選手を見つけて、彼らのフォームをしっかり目に焼き付けて、台湾に帰って再現に努めたのがよかったみたいよ。スウィングはね、目で見て盗むというか、吸収して身に付けるのがいちばんなんだねえ。いちいち教わっていたんじゃあ上手くいかないの。

――職人の間でよく言われる、目で見て覚えろ、ですね。

陳さん そうよ。手取り足取りされるより、目で見て感じたイメージをスウィングに再現させることを試みたほうが身に付くんだねえ。これは私の経験上、間違いないことよ。たとえばホーガンはリストアクションがきれい。トップからダウンスウィングへの切り返しが特にね。これをホーガンから「こうしなさい」って教えられても、そうやって形付けられたものは実際に見える形や動きとは違いがあるんですから、身に付けることは難しいですよ。

――言われてみれば確かに。

陳さん スウィングの動きはね、全部関連しているんだよ。その動きをやったときに他の部分がどう動いているか知らないと意味がないんだ。一カ所だけ切り取って真似しろと言われても、他の部分の動きと連動できていなくちゃ意味ないんだよ。動きにはリズムがあるし、これがとても大事。このリズムをどこでつくっているのかね。それを解明しないとそれぞれの部分の動きは成立しないんだねえ。だから私は目に焼き付けたスウィングのリズムを自分なりに再現させることを一生懸命やったんですよ。少しでも世界の一人前の選手に近づけるようにってね。

陳清波

ちん・せいは。1931年生まれ。台湾出身。マスターズ6回連続出場など60年代に世界で日本で大活躍。「陳清波のモダンゴルフ」で多くのファンを生み出し、日本のゴルフ界をリードしてきた

月刊ゴルフダイジェスト2022年9月号より