いつまで経っても上達しない。それ“睡眠不足”が原因かも? ゴルフが上手くなる睡眠術
夜なかなか寝付けない、十分に睡眠がとれない、と悩む人も少なくないが、睡眠不足は健康面だけでなく、ゴルフの上達にも悪影響を及ぼすと脳の専門家は指摘する。いったいどういうことか……?
PHOTO/Akira Kato
解説/瀧 靖之
脳科学者。医師。医学博士。東北大学加齢医学研究所にて脳の発達や加齢のメカニズムを明らかにする研究者として活躍。これまで16万人の脳のMRI画像を読影、解析している。ベストセラー『生涯健康脳』(ソレイユ出版)など著書多数
スウィングを身に付けるには
“寝る”行為が不可欠
寝ることで体の疲れを取る。多くの人はそう考えるはず。だが、東北大学の医師であり、脳の発達やメカニズムを研究する脳科学者、瀧靖之教授によると睡眠にはもっと大事な役割があると語る。その真意を教えてもらった。
「睡眠には体を休めることもそうですが、もっと大切な役割があります。それが“記憶の固定”です。たとえば、テスト勉強のとき、一夜漬けで頑張ってもいい点数は取れないことが多いですよね。これは知識をたくさん詰め込んでも覚えられていないからです。そこで“寝る”という作業が必要になるのです。寝ることで脳の海馬の機能が高まる、つまり記憶が固定されることがわかっています。海馬は記憶の倉庫番という役目を持っているため、記憶の固定には重要な部位なのですが、睡眠時間と海馬の体積の関係を調べてみたところ、8~9時間寝ている子どもは、5~6時間しか寝ていない子どもより、海馬の体積が大きかったこともわかっています」
寝ることで記憶が固定されるというのはわかったが、それがゴルフとどう関係するのだろう?
「ゴルフ、テニス、野球、楽器演奏など、体の動きも記憶として脳に固定されます。ゴルフのスウィングもテニスのサーブも繰り返し練習することで脳に記憶されるのですが、勉強と同じように寝るという作業が不可欠なのです。寝ることで脳内のネットワークが強固になり、より効率のいい動きができるようになるのです」
知識と同様、運動も記憶として固定されるのだ。練習した技術を覚えるには睡眠が必須というわけだ。さらに睡眠の役割はまだまだあると、瀧教授は教えてくれた。
「寝ることで感情を安定させる効果があると言われています。これはストレスの解消に近いといえますが、寝ることでストレスを感じる脳の扁桃体の活動が抑えらます。さらに脳内にできた老廃物(アミロイドβ)を洗い流すこともわかっています。アミロイドβは認知症の原因物質のひとつと言われており、認知症を防ぐ効果も期待できるわけです」
Q. なぜ一夜漬けではいい点数は取れない?
A. 勉強した内容が脳に記憶されないからです
徹夜で勉強しても知識は増えない。「脳内の海馬で短期記憶が作られますが、寝ることでそれが長期記憶として固定されると言われています。ですから寝なければ短期記憶になってしまい、すぐに忘れてしまうのです」
Q. どうすれば記憶できるのか?
A. 寝ることで記憶の統合・固定が行われます
知識や動作は脳内のネットワークのつながりで実行される。「寝ることで脳内のネットワークは統合されます。これは不要なネットワークが壊され、より効率のいいネットワークが作られることと言えます。そうやって知識や動きが身に付くのです」
Q. ゴルフなどのスポーツでも記憶が必要なのか?
A. 体の動きが記憶として固定されない限り技術は身に付きません
「スウィングを繰り返し練習しても睡眠を取らなければ、記憶として定着させられません。ですから技術を高めるには、コツコツと練習し、しっかり寝ることが不可欠なんです」。スウィングを身に付けるには練習だけでなく睡眠も重要なのだ
最低6時間はしっかり眠る
スウィングの動きを身に付けるには睡眠が不可欠。そこで瀧教授にゴルフが上手くなる“睡眠術”をいくつか教えてもらった。
「睡眠にはレム睡眠(浅い眠り)とノンレム睡眠(深い眠り)がありますが、2つとも必要です。ですから最低6時間はしっかり眠ることです。レム睡眠は感情を整える効果があると言われていて、ノンレム睡眠が記憶の固定につながると言われています。どちらも得るためには6時間が大きな目安になります。最近は睡眠不足が社会問題になっています。6時間以下の睡眠では、十分な時間とはいえませんから記憶の固定も感情の安定も不完全になる可能性が高いといえます。まずは6時間しっかり眠ることを心がけましょう」
最近はテレワークが増えたことで睡眠不足に悩むサラリーマンも多いというが、6時間眠るためには、どうすればいいのか?
「いちばん簡単なのは日中の活動量を増やすことです。日中にしっかり動いておけば、夜はぐっすり眠れるものです。ですが最近はテレワークが増え、体を動かす機会も減っています。ですから意識的に活動時間を増やすことが必要でしょう。散歩やサイクリングでもいいですし、筋トレやストレッチなども有効です。ゴルフをした日ほど、よく眠れると思いますが、毎日体を動かす習慣を持つといいでしょう。
また朝の起き方も重要です。脳をしっかり目覚めさせるには、陽の光を浴びることが大切です。明るいところに出るだけでも効果がありますから、朝はカーテンを開け、太陽光を室内に取り込みましょう。脳が覚醒することで日中の活動も活発になりますし、それが結果として質のいい睡眠に導いてくれるはずです」
寝る前にスマホやゲームは控える
さらに睡眠の質を下げてしまう要素についても瀧教授がアドバイスしてくれた。
「最近はスマホやタブレットを見る時間が増えていますが、液晶から発せられるブルーライトが睡眠の妨げになるのです。ブルーライトは眠気を引き起こすメラトニンの分泌を抑えてしまうからです。何時間前といった決まりはありませんが、寝る前のスマホやゲームは控えたほうがいいでしょう。
質の良い睡眠には、眠気を引き出すちょっとした工夫も必要です。眠気は体温が上がって下がるときに促されます。ですから寝る前の入浴で体を温めたり、寝室を少し冷やしておくのがおすすめです。ここでひとつ注意したいことがあります。最低6時間の睡眠が必要だと言いましたが、寝なきゃいけないと思うほど、寝られないものです。無理やり寝ようとしても睡眠の効果は得られませんから、そういうときは本を読むなどして眠気が自然に起きるのを待ちましょう。逆に眠気があるのにスマホに夢中になるのもよくありません。眠いときに眠るのがいちばんですから」
Q. 昼寝はいいの?
A. 10~15分くらいのうたた寝ならOK
「昼寝はいいです。ただ部屋を暗くしたり、ベッドに横なるのは避けましょう。椅子に座って10~15分程度のうたた寝なら作業効率も上がるはずです。夕方以降の睡眠も夜の睡眠の妨げになるので注意しましょう」
週刊ゴルフダイジェスト2022年9月6日号より