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「お絵描き」がゴルフに効く!<後編>脳科学者が太鼓判! 距離感や集中力、マネジメント力も磨かれる

渋野日向子の専属トレーナー、斎藤大介氏は、渋野が移動中によく絵を描いていることにヒントを得て、自らもデッサンを勉強することで、ゴルフにもいい影響が出ることに気づいたという。実際に、絵を描くことはゴルフに役立つのだろうか。脳科学の専門家に話を聞いてみた。

PHOTO/Shinji Osawa、Blue Sky Photos、Takahiro Masuda

解説/瀧靖之

脳科学者。医学博士。東北大学加齢医学研究所にて脳の発達や加齢のメカニズムを明らかにする研究者として活躍。これまで16万人の脳のMRI画像を解析している。ベストセラー『生涯健康脳』(ソレイユ出版)など著書多数

>>渋野日向子も「お絵描き」好き
トレーナーが気づいた効用とは?

「お絵描き」は最高の“脳トレ”だった

子供のころ、誰もがやった「お絵描き」だが、どんな効果があるのだろうか? 脳科学者の瀧靖之教授に聞いた。

「健康な高齢者にデッサンを体験してもらい、やる前とやった後で、脳を比較したところ、空間認知能力や集中力が向上したという結果が出ています。ですから、スケッチやデッサンなど、絵を描くことは、脳にすごくいいと言われているんです。

空間認知能力とは、空間を把握する力のことです。この空間認知能力は視覚野という後頭葉や頭頂葉などを使って行われますが、ゴルフだけでなく、サッカー、テニス、野球、クルマの運転まで、あらゆるシーンで不可欠なものです。ですので、絵を描くことでスポーツの上達が早くなる可能性は十分にあるといえます。

球体をデッサンするとき、奥行きや影などを観察しながら立体的に対象物をとらえようとします。それが空間認知能力を高めてくれるわけです。まさに脳の“可塑性”と呼ばれる働きといえます」

脳の可塑性とは何か?


「ほんの10数年前まで脳は一度形成されると変化は起きず、後は衰えていくだけと思われていました。ところが、最近の研究によって脳はいくつになっても神経細胞のネットワークが組み替えられたり、作り替えられたりして新しく生まれ変わることがわかってきました。つまり脳には機能を回復させる“可塑性”という働きがあるのです。ですから、年齢は関係ありません。お絵描きという新たなチャレンジが、脳のパフォーマンスアップにつながるのです」

お絵描きの効果は、ほかにもあるのだろうか?

「お絵描きは芸術活動であり、趣味ともいえます。ただ前提として知的好奇心があるかどうかは重要です。『やりたい! 楽しい!』と思えなければ、脳も刺激されないからです。そういった知的好奇心があると、集中力や情報処理能力は高まりますし、創造性も養われていくでしょう。

この創造性とはクリエイティブな能力のことです。絵を描く(=アウトプット)には、インプットが不可欠ですが、デッサンであれば、対象物をじっくり観察したり、描き方を本で学ぶなどです。この創造性は、既存のものを組み合わせることです。自らが記憶した情報を脳内のネットワークでつなげることで創造性が生まれるわけです。ですから、絵を描くにはさまざまなアート作品に触れたり、本を読むことなどが必要です。ゴルフで考えれば、反復練習することでパフォーマンスを上げるようなイメージに近いでしょう」

空間認知能力や集中力が高まるお絵描きは、ゴルフにおいても最高の脳トレといえるだろう。

お絵描きで身につく4つの力

【空間認知能力】
距離感や力感がよくなる

何ヤード打つかといった距離感はまさに空間認知能力の働き。「3Dで理解する能力は自転車に乗るなど、日常生活においても不可欠です。絵を描くことで空間認知能力も高まるでしょう」(瀧)

【創造性】
イメージ力が上がる

お絵描きはアウトプットになるが、創造性が高いほど、クオリティも上がるという。この創造性は、ゴルフのイメージ力アップにつながる。ゴルフにもクリエイティブな能力は不可欠なのだ

【集中力】
ショットに没頭できる

お絵描きでも知的好奇心が高いほど、集中力は高まる。時間を忘れて没頭できるわけだ。この集中力がショットの精度にもつながっていく。「熱中するほど、脳は大きく成長していきます」(瀧)

【情報処理能力】
的確な状況判断

知的好奇心をもって絵を描くことができると情報処理能力は高まるという。ゴルフではコースマネジメントでスコアも大きく変わる。どうやって攻めるか、という情報処理能力もお絵描きで備わるのだ

山歩き、楽器の演奏
おしゃべりなどもゴルフ上達に有効

脳のパフォーマンスが上がる「お絵描き」だが、ほかにも“脳トレ”になるものはあるのか?

「すべての活動において脳のパフォーマンスを高めることが大事です。これは脳の健康を維持しようというものです。幸せに生きるということは、脳を健康に保つことと同じなのです。そのうえでおすすめなのが運動です。

たとえば、何かを突き詰める場合、別の何かをすることが重要です。野球とサッカーは違うスポーツですが、腰の使い方や踏み込む動きなど、共通点は多いです。これらは多様性学習と呼ばれるものですが、要はゴルフだけでなく、ほかのスポーツをやることも大事ですよ、ということなんです。そういう意味では、登山がいいかもしれません。有酸素運動ですし、頂上に立てば、やり抜いた達成感も味わえるので、脳にとってもいい体験になるでしょう。登山は行程が長く、次はここまでといった目標を設定するものです。そういった目標に向かって努力を積み重ねることは、ゴルフのトレーニングに近いといえるでしょう。

また楽器を演奏することもとてもいいと思います。私自身、ピアノとドラムをやっていますが、楽器演奏は空間認知能力が養われます。ドラムの位置を把握しながらリズムに合わせる動きは、まさに空間認知の領域です。楽器は手先を使いますから、クラブを扱うイメージにもつながりますし、ゴルフの上達にも役立つはずです。

楽器は難しそうと思われがちですが、努力すれば必ずできます。これは脳科学的な事実です。運動センスがないからテニスは無理、と考える人がいますが、脳には可塑性があります。ですから、やれば誰でもできるようになります」

瀧教授によると会話も脳のパフォーマンスを上げる大事な要素なのだという。とくに対面でのコミュニケーションが有効だそうだ。

「おしゃべりすることは脳にすごくいいです。会話は単に言葉のやり取りだけではありません。そこには表情の認知だけでなく、共感力や社会性なども含まれ、脳のネットワークが大忙しで働いてくれるのです。おしゃべりはゴルフにも生かされるはずです」

さらに瀧教授は、睡眠も大事なキーワードのひとつだと教えてくれた。なぜ睡眠なのか?

「睡眠は脳や体を休めるためのものですが、もうひとつ、寝ることで記憶が固定されるという側面もあるんです。徹夜で勉強してもテストの点数が悪いのは記憶が固定されていないからです。ゴルフの動きを体に覚え込ませる場合も睡眠が必要です」

登山や楽器演奏といった“脳トレ”はゴルフにも有効だが、瀧教授は、最後にこう付け加えた。

「脳のパフォーマンスアップにおいては“趣味”であることが大事です。ワクワクした気持ち、知的好奇心を持って取り組めることが重要です。これは感情(扁桃体=好き・嫌いを司る領域)と記憶(海馬=記憶の中枢)が密接に関係しているからです。ですから楽しいと思えることは、どんどんチャレンジしてほしいですね」

【ゴルフに役立つ脳トレ1】トレッキング
山歩きをすればやり抜く力が育つ

登山は脳にもいい。山頂に立つ達成感は「自分はできる」という自信にもつながるのだ。さらに成功体験も得られる。足腰が鍛えられるので一石二鳥だ

【ゴルフに役立つ脳トレ2】ドラムを叩く
楽器演奏は脳を刺激するのに最適
「楽器演奏は曲を覚える、リズムをとる、複雑な指の動きなど、脳にめちゃくちゃ刺激が入ります。お絵描きと比べるとハードルは、やや高めですが、ゴルフ上達にも大きく役立つでしょう」(瀧)

【ゴルフに役立つ脳トレ3】コミュニケーション
おしゃべりすると脳がよく働く

会話は単なる言葉のやり取りだけではない。相手の表情や仕草を読むなど、想像以上に脳が働くという。ラウンドしながらのおしゃべりは、脳のパフォーマンスアップにつながるのだ

【ゴルフに役立つ脳トレ4】フィッシング
釣りなどのアウトドア体験も効果が高い

釣りやキャンプなどのアウトドア体験は、脳のパフォーマンスアップに効果があるといわれている。昆虫採取や天体観測などもそうだ。「釣りなどのアウトドアスポーツが趣味にできると理想的です」(瀧)

週刊ゴルフダイジェスト2022年7月26日号より