【ゴルフ野性塾】Vol.1715「ドローの音は低く、フェードの音は高い」
古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。
手順なるものの存在
意識する時もあれば意識なしの行動もあると思うが、長男雅樹とコースラウンドした時、ドロー打ってくれと頼んだ事がある。
後続の組はいなかった。
もう1球、と頼んだ。
雅樹は3球打った。
次のホールのティーショット、フェード打ってくれ、と頼んだ。
雅樹は打った。
ドローとフェードの違いはインパクトの音で分るものだ。
ドローの音は低く、フェードの音は高い。
私は飛び行く球の球筋を眼で追う事はない。
音で分る。
だからフィニッシュ迄、スウィングから眼を離さない。
進化論塾生の指導時、塾生の正面に立ち、振り終える迄、そのスウィングを眺め続けた。
そして、呟いた。いいドローだ、と。
気付いた者がいた。
「塾長はどうしてボールの行方見ないで球筋が分るのですか? それが不思議です」
バンプラGCの10番ティーだった。
14名が私の周りに立ち、スタートする者のティーショットを眺めていたが、皆、飛び行く球を眼で追った。
そして1人が気付いた。
「僕達がスウィング見てるのはインパクトの瞬間迄です。その後はボールの行方を追うのでフィニッシュの姿を見る事はありません。でも塾長はボールの行方を追われてません。そしてどっちに曲ったかが分っておられる。スウィング見てるだけで分るのですか?」
「分る。ただ、情報はインパクトの音の方が豊富だ。球筋、球質、スウィングの固着力、プレッシャーに強いか弱いかの違い、スウィング見ているだけでは憶測混じるが、音には混じらない。長所伸ばし、短所矯正の指導し、球の行方を見て追ってたんじゃ5球打って貰わないと分らないが、スウィングから眼を離さないで球の行方、音で追ってりゃ球3球でスウィングの癖迄分る。この球2球の違いは大きい。右か左、高い球か低い球、スピンの効いた球か、棒の球質か、眼で分るのは左右の球、上下の球、飛んでるか飛んでないかの球だけだ。指導に必要なのはその先だ」
進化論塾の合宿は3泊4日であり、年間3回、30回以上続いたと記憶するが、1回目の合宿のスタートホールで塾生は私を信用したと思う。
音だった。
指導には信じる力が要る。
指導してくれる人を信じる気持ちだ。この力、大きい程、個々の変化は大きいものとなる。
信じる気持ち、稀薄だと何も変わらずだ。
一つの合宿に60人が参加した。眼で球の行方、追ってたんじゃ午前中の指導3時間で60人全員を見る事は出来なかった。
私はジュニア塾生も音で指導した。
飛球線後方には立たなかった。スウィング正面に立った。
私は動かなかった。
塾生が動いた。
1球打ち、打席後ろに立つ者と交代した。
それで塾生の悩みとこれから目指す課題を与える事は出来た。
熊本、札幌、福岡、東海、神戸、船橋の各塾のジュニア塾生は多人数だった。
一度の指導で全員の指導出来るのか、と思う者がいた。
出来た。
眼で球の行方追えばスウィング眺める眼線を途中から球へ移さなければならないが、音であれば眼線の移動は必要なかった。
私が動かず、打つ者が動けば指導はスムーズだ。
私の指導は正対だった。
そして一言の指摘とアドバイス受けて塾生は自分の打席へ戻った。
1回目の進化論合宿、バンプラを去る夕刻、合宿参加者全員、手紙を書いた。
礼状だった。
20人強の者がベストスコアを出していた。凄いレッスンを受けましたと書いていた。
音の指導だった。
ニクラスだけが異質の音を出していた。
私は昭和60年のマスターズから観戦記執筆に入ったが、ニクラスのアイアンのインパクト音の高さに驚いた。
異質の音と思った。
芝生を削らないインパクトだからあの音が出るのかと思った。
しかし、芝生を削っても金属音に近い高い音は出ていた。
観戦記執筆は翌61年からマスターズ、全米オープン、全英、全米プロと広がったが私は音を求めて歩いた。
グレッグ・ノーマンの音も高かった。
しかし、ニクラス程の高さではなかった。
トム・ワトソンもバレステロスも芝生を削らぬクリーンヒットの音だったが、インパクトの音は低かった。
ニクラス1人の音が高くてノーマンが続き、他は然して変らぬ音だった。
タイガー・ウッズのインパクト音も低かった。
ウッズは芝生を削るインパクトだった。
高い音がいい音とは思わぬ。
ただ、どうすればあの音が出せるのかと思っただけである。
ニクラスの音から高さが消えた2年後、ニクラスは引退した。
己の音を知る者は己のスウィングを持つ者と思う。
己の感性の中で聞く音、変った時、スウィングも変るであろう。
飛距離が変る。
球の高さが変る。
今、想う。
ニクラスのインパクトの音、カキーンとゆう金属的であったのは高い球を打っていたからではないかと。
私の知る限り、ニクラスよりも高い球を打っていた者は1人もいなかった。
ノーマンの球も高かった。
長男雅樹の球は低い。
インパクトの音も低い。
雅樹が球打つ時の手順を追った。
アドレス時、首筋を立てて構えた時、ドロー打っている事が分った。
首筋を少し右に傾けて構えた時はフェード打っていた。
意識せずの手順であったと思う。
意識から始まり、意識がなくなって無意識の動きに入り、そして総てが自然態になった時、人は己の型を持つであろう。
長男雅樹は43歳。
周防灘でゴルフを覚え、日大のゴルフ部を経て30歳でプロテストに通り、アジアンツアーに参戦し、今は坂田ジュニア塾神戸校と大手前大学ゴルフ部を指導し、友人先輩等とのゴルフで過す日々なれど遅かったと思う。手順を己のものとする時間がだ。
ツアー参戦時期は早まっている。
己の手順持てばツアー参戦出来る。
己の手順を持つ迄の時間、早ければ早い程、良いと思う。
ニクラスの手順を想う。
私が気付いていない手順がある筈だ。テレビ、写真では分らないものがあると思う。
私はニクラスのメジャーを13年間追っている。
ニクラスのインパクト音は今も記憶に残る。
その音を頼りとする。
1年のお付き合いに感謝します。
本稿は2021年の暮れから2022年の月始めに掛けて眼を通して戴く稿となります。
ならば謹賀新年。
今年1年のお付き合い、よろしくお願い申し上げます。
本稿、福岡市赤坂の15階の一室にて書く。
体調良好です。
坂田信弘
昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格
週刊ゴルフダイジェスト2022年1月11・18日合併号より