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【ゴルフ野性塾】Vol.1712「呼吸の乱れはショットを乱す」

古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。

今日12月2日、本稿、熊本キャッスル

ホテルにて書く。
テレビ熊本の収録。
昨日1日から明日3日迄の3日間で来年2月迄の13週分の収録を終える予定です。
寒い。
昨日から昼間の気温が落ちて来た。
体調良好です。

吸って吸って吐く、の呼吸で打て。

週に1度、練習場に通っています。球を打ち始めると、最初はまったく当たらず、100球くらいでやっと当たり出す感じです。そのまま練習を続けていると、また当たりが悪くなってきて、最後は右も左もダフリもトップも出て、ひどい状態になって練習を終えます。どのクラブで打ってもそんな状態です。2時間の打ち放題が、ミスショットで始まり、ミスショットで終わる感じで、上達している実感がまるでありません。塾長、いい練習法はないでしょうか。(神奈川県・匿名希望・39歳・ゴルフ歴5年・平均スコア110)

何事にもいい時、悪い時、順調な時、不調の時、そして変化なき時とゆう波はあると思う。
その波を意識して生きるか、意識なしで過すかは人それぞれなれど、意識してもしなくても生きて行く事は出来よう。
私は意識稀薄の人間だった。
今もその意識は薄い。
いい時の原因、悪い時の原因、分れば対応は容易だ。
分らなければ手探りの時続き、迷走状態続くと思う。
貴兄は迷走の時を過している。
そして私への相談だ。

運動経験者の順応力は強い。
何が順応力を高めているかと申せば呼吸である。
私は川遊び、湖遊びの経験を持つ。
5歳過ぎた頃から父に連れられて川で遊んでいたが泳げない子だった。水を怖がる子ではなかったと思う。
しかし、泳げなかった。
河原から水面に向って石を投げるのが好きだった。
石の選び様、どの角度で投げれば水面をジャンプしながら飛んで行くのかはすぐに分った。
石投げする人は多くいたが、私の石はよく飛んだ。
ジャンプの回数も多かった。

日吉小学校に入学した。
小学校にプールはなかった。
小学1年の夏前だったと記憶する。
父は私を江津湖に連れて行った。
江津湖は熊本で一番大きな湖だった。
私と父は数人乗りの小さな釣り舟に乗った。乗っているのは私と父の2人だけだった。
江津湖に掛かる橋の下迄行った。
父は長い竹竿で舟を操っていた。
私は湖面を眺めていた。
水中で長い水草が揺れていた事は今もはっきりと覚えている。
勿論、服は着たままだった。
突然、私は抱きかかえられた。
放り投げられた。
頭から水に突っ込んで行った。
気付けば水の中で足掻いていた。
そして泣いた。叫んだ。
泳げ、と父は舟の上から言った。
必死だった。
あの時の必死さは今も覚えている。
手足の動きが思い通りにならないと感じた時、シャツを掴まれた。
父は私を引っ張り上げた。
今であれば児童虐待だが、当時はそれも教育だった。
これで泳げるだろう、と父は言った。
私はゲーゲーと水を吐いた。
父の声は遠かった。


夏、熊本城横の市民プールに連れて行かれた。
新品の水泳パンツを履いてプールサイドに立った。
父も一緒だった。
ただ、父の格好は仕事着だった。父は和菓子職人であり、蒸し菓子である甘酒饅頭も作る職人だった。
飛び込めと父は言った。
足から飛び込んだ。
空を見ろと父は言った。
仰向けになって空を見た。
沈んだ。
しかし、足掻かなかった。
足掻けば動けなくなる事は江津湖で知っていた。
反対になれと父は叫んだ。
水中に顔を向けた。
再び沈んだ。
我慢した。
突然、プールの底が見えた。
閉じていた眼が開いていた。
体が浮いた。
手と足を動かせと父が叫んだ。
動かした。
その時、父の声をすぐ近くで聞いた様な記憶を持つ。
しこたま飲んだプールの水は臭かった。
カルキの臭いだったと思う。
江津湖の水も臭かったが、藻の臭いだった様な気がする。

そして私は泳げる様になった。
川に連れて行って貰ったが、石投げは卒業した。
川に潜り、川の中で遊びを知ったが為である。
父は軍人だった。
吸う時は早く大きく吸い、吐く時は吸う時の3倍の時間を掛けて吐けば溺れる事はないと言った。
経験から得た水の中での呼吸だったと思う。
私は誰にも教わらず、クロール、平泳ぎ、背泳ぎ、立ち泳ぎを覚えた。バタフライだけは駄目だった。

貴兄の相談を受けて想い出した。

貴兄のスウィングの乱れ、球叩きの結集の乱れは呼吸にあると考える。
ゴルフの呼吸はアドレスから始まる。
細く長く吸ってトップ位置に達し、そこからフィニッシュ迄、吐く息での呼吸を基本と為す。
スウィングリズムを作るのは吸う息と吐く息の呼吸である。
貴兄のスウィング呼吸はバラついていると思う。
一を作れば次の一が生れ、一を正せば次の一も正せるのが稽古事、鍛錬事、修練事、継続事の基本ではあるまいか。
突然はない。
一の次に一あるのが事であろう。
貴兄の呼吸は乱れている。
苦しくっても薄く息を吸い、トップ手前で強く吸い、そこから均一の吐きの強さでフィニッシュへと向う呼吸を勧める。
呼吸が波打っていると思う。
塾生にゴルフ教える時、最初に教えるは呼吸だった。
アドレスからトップ迄は吸いの息、トップからフィニッシュ迄は吐きの息。
クラブ2本を持った連続の素振り、私の出す掛け声は吸って吸って吐くだけであった。
最初はゆっくりと振らせた。
吸って吸って吐くの掛け声も緩やかなスピードだった。
全員で振って行くが、振りのスピード上がると付いて行けない子が出た。
熊本、札幌、福岡、東海、神戸、船橋の全塾生の中、吸いと吐きのスピードに最後迄付いて来られた子は上田桃子ただ一人だった。上田は今も現役である。
呼吸が波打つと振りのスピードは上がらない。波打たぬ呼吸の者に付いて行けなくなって行く。

己一人で出来る。
練習場の打席に立ってすぐ球を打つのではなく、呼吸作りをして貰いたい。
吸って吸って吐くの呼吸での素振りである。
5分やれば充分と思う。
そして球打つ時、インパクトの瞬間、球に息を吹き掛けてやればいい。
特に50ヤード以内のアプローチ練習でやって貰いたい。
プロは経験で呼吸を覚えて来た。だから呼吸への意識と大切さへの認識は稀薄である。
だが如何なる競技に於いても呼吸の乱れは不利を招く。そして、その経験なきアマの方は意識の鍛錬しか手段ないと思う。
お試しあれ。
貴兄の乱れの原因は呼吸に在りと推察した。
以上です。

坂田信弘

昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格

週刊ゴルフダイジェスト2021年12月21日号より