【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.57「マエヨン」は日本だけ? イギリスに学ぶゴルフの精神
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
PHOTO/Hiroaki Arihara
ご存じのように僕はイギリスが大好きです。イギリスのゴルフコースも好きですけど、イギリスの人もええんです。ゴルファーひとりひとりにゴルフの精神が染みついておるように感じられるからです。ゴルフ発祥の国ですからね。
僕が全英シニアオープンに行き始めたころに、「極東では、カートに乗って、一打ごとにボールを手で動かして、しかも、プレーイング4とかいう変なルールを作って競技している国があるらしい」と現地のご老人が話しているのを小耳に挟みました。
いわゆる「マエヨン」です。これは、ほぼ世界に類を見ない日本独自のローカルルールでした。ところが、2019年のルール改正でローカルルールなら適用してもええことになりました。
世界が日本に追いついた!
冗談です。
せやけど、「マエヨン」のための特設ティーを造ってもええとはルールブックに書いてありません。
また、一般的なイギリスのゴルファーは、手引きのカート(イギリスではトロリーと呼ぶ)にゴルフバッグを積んで、バッグの中には必ず雨合羽をいれております。天気が急変するのが当たり前で、ちゃんとその準備をしておるんです。だから雨が降っても文句ひとつ言いません。
町と隣接しておるコースもイギリスには多くて、ゴルフ場が町の一部になっておる感じです。日本でも住宅街に囲まれたコースはありますけど、ゴルフ場が先にできていて、あとから周囲が宅地化されたので、町の一部という雰囲気はありません。
そんな町と一体化したようなコースで全英オープンの予選を受けた選手から聞いた話です。
18番グリーンの奥に、町からクラブハウスへ進む小道があって、子どもたちの遊び場になっておったそうです。自転車遊びではしゃいでいる子どもたちは、選手がグリーン上のボールをマークして拾い上げると、ピタリと止まって、全員のパットが終わるまで、声ひとつ出さなかったと言うのです。
これはものすごいええ話やと思いました。さすがゴルフ発祥の地やな、と。
人がプレーしておるときは、動いたらあかん。音を立ててもあかん。ゴルファーなら当たり前にそうしています。せやけど、こういうマナーを、いつ、どうして自然にできるようになったのか、覚えていますか? そう考えるとイギリスはやっぱりすごいです。
「いわゆるプレーイング4は、イギリス人には不思議に映るみたいです」
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2021年11月23日号より