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大谷翔平に飛ばしのヒントあり!<前編>「Cの字」インパクトが高打ち出しを生む

二刀流での活躍に加え、特大のホームランを量産して世界を驚かせている大谷翔平。彼の振りを研究すると、ゴルフにも通じる飛ばしの極意が見えてきた!

TEXT/Kosuke Suzuki PHOTO/Takanori Miki、Hiroaki Arihara THANKS/筑波大学、アラボーイ ベースボール、ビームス&ウィンズ ステーション

このCの字が飛距離のもと(Photo by Thearon W. Henderson/Getty Images)

インサイドアッパーで
高い打ち出し角を確保

解説/川村卓准教授

筑波大学体育系准教授。バイオメカニクスの専門家で、野球方法論、コーチング学を研究。大谷選手と直接話したこともある

いまメジャーリーグでホームランを量産し続け、日本のみならず全米からも注目を集めている大谷翔平選手。彼のスウィングを見て「まるでゴルフみたいだ」と思った人は多いのではないだろうか。

事実、大谷選手のスウィングは、強いアッパー軌道が特徴。もしかするとゴルフの飛距離アップにも生かせる秘訣があるのではないだろうか。そこでまずは、筑波大学で運動解析などを専門に研究する川村卓准教授に話を聞いた。

「大谷選手は、メジャーでもアッパーの角度が非常に大きいタイプの打者です。もっとも効率的な放物線でホームランを打つためには、30度前後の高い打ち出し角が必要。そのため大谷選手は強めのU字軌道の最下点の先でボールをとらえているんです」

なるほど、野球の場合も最大飛距離を得ようと思えば、高い打ち出し角度が必要というわけだ。ただ、このU字軌道を真似できる打者はメジャーでも少ないという。

「強いアッパー軌道で打つには、インパクトで“Cの字”を描くような弓なりの形になります。切り返しで前足(大谷選手は右足)に体重を一瞬乗せ、頭を残しながらひざを送りお尻を強烈に押し込むことで体を反らせ“Cの字”を作り出します。これにより速いバットスウィングが生み出す遠心力と引っ張り合える力を作っています。ただ、強靭なパワーと体幹の強さがないと作るのは難しいです」

また、後方(大谷選手の場合左)のひじをたたんでインサイドからとらえつつ、前方(同右)のひじを曲げて「五角形」のインパクトを作ることで腕の返しを遅らせてインパクトゾーンを長くしているのも特徴的だという。まるでジョーダン・スピースみたいだ。

大谷翔平の飛距離を生む6つのポイント

【Point 1】ステイバック

トップからダウンスウィングに入る一瞬、前足に踏み込んで体重移動するが、その後すぐに反り返るように後ろ足に体重が戻る。インパクトで頭はふくらはぎの真上くらいにある

【Point 2】切り返しでのひじのたたみ

切り返しで後ろのひじをやわらかくたたむことでインサイドアウト軌道に振り出していく。投手でもあるからこその肩甲骨の可動域の広さがそれを可能にしている

【Point 3】お尻の押し込み

頭の位置を後ろに残したままお尻を押し込むのは左サイドの強靱な背筋や下半身の筋力の賜物。筋力が弱いと体重を支えることができず腰砕けの状態になる

【Point 4】ひざの押し込み

後ろ足のひざを前へ押し込むことでお尻の押し込みをサポートしキレイな「Cの字」を作っている。以前は体を強く回転させて振る意識が強く、ひざの押し込みは弱かった

【Point 5】利き手リード

大谷は右手のリードで、右ひじを曲げながら振り出していく。これで体の開きを抑えつつ、ヘッドのターンを遅らせることでインパクトゾーンを長く保つことができる。J・スピースも利き手の左手リード

【Point 6】アッパーでも速度が落ちない

アッパー軌道は重力に逆らうぶん、速度は落ちるが、大谷選手は圧倒的な筋力と関節の可動域の広さでそれをカバー(左図)。メジャー屈指の打球速度を実現

腰は水平、肩は縦に回す

解説/根鈴雄次さん

米3Aを含む5カ国13チームでプレーした元プロ野球選手。現在は横浜市の「アラボーイベースボール」内「根鈴道場」で幅広い層に始動中。著書に「MLBでホームラン王になるための打撃論」がある

「大谷選手のバットスウィングと、ゴルフのスウィングにはたしかに共通点があると思います。とくにアッパーと言っても単なる縦振りではなく、縦と横の中間でスウィングする動きが似ていますね」

根鈴(ねれい)さんは、野球・ゴルフに共通する飛ばしのために重要な“斜めの動き”のポイントを4つ紹介してくれた。1つ目は横回転のなかで肩を縦に動かす動きだ。

「野球もゴルフも基本は横方向の回転運動ですが、そのなかで打ち出し角を作りアッパー軌道でとらえるには全部横回転ではダメ。肩を縦に使うことがとても重要なんです。ダウンスウィング以降では、前の肩が上がりつつ後ろの肩が下がり肩が縦方向にターンする。そして、このときの手首の動きも重要で、ローテーションを抑えたまま後ろの手のひらが斜め上を向くように振り抜いていくのがポイントです」

いまは野球でもローテーションを抑える動きが流行っており、大谷選手もその典型。これは最近の大型ヘッド向きのゴルフスウィングとも共通する動きと言えそうだ。

そして2つ目は、首の安定。「肩の動きに首がつられて動いてしまうと、イメージと実際の軌道にズレが出やすいため、首を肩と独立させて安定させ、インパクトまで首を残す感覚は必須です」“頭を残す”感覚は、野球・ゴルフともに重要というわけだ。

続く3つ目は大きな体重移動。

「トップで後ろ足に100%乗った状態から、インパクトで100%前足に乗っていく。このダイナミックな体重移動は、共通の飛ばしの必須条件です。ポイントは、ほぼノーステップで構えたスタンス幅の範囲内で、これを強烈に行うことです」

そして最後の4つ目は、踏み込む足をねじる動作だ。

「つま先立ち=内旋された前足に溜めたパワーを外旋させながら解放しています。この“ねじる動作”も注目だと思います」

【Point 1】肩を縦に回転させる

体の横回転に対し肩を縦回転させることで斜めの回転を作り、高い打ち出しを作る。手首のローテーションは抑える

【Point 2】「首」をしっかり残す

肩を縦に動かそうとすると首もつられて動きやすいが、首が動くと自分のイメージしている軌道よりも実際の軌道がボール1~2個ズレやすい。肩と首を分離し、首を残す意識が重要だ

【Point 3】スタンス幅のなかで思いっきり体重移動

トップで後ろ足に100%乗った状態から、インパクトでは100%前足に体重が移る。インパクト後は衝撃で少し後ろに戻るが、意図的な動作ではない

【Point 4】踏み込む側の足のねじりを効果的に使う

前足は、つま先立ちで内旋されパワーが溜まった状態から、外旋しながら一気にパワーを解放。B・デシャンポーやM・ウルフらのスウィングにも見られる動きだ

重力を使って速度を上げ、踏み込んで地面の力を使う

スタンス幅内で強烈な体重移動を行いつつ、体は横回転。そこに肩の縦回転を加えることで斜め方向の回転運動とし、高打ち出しの弾道を打つ

この野球の飛ばし理論を
ゴルフスウィングに取り入れると……?

>>後編へつづく

月刊ゴルフダイジェスト2021年10月号より