【世界基準を追いかけろ】Vol.50「選手とたくさんの情報を共有することが大切だと感じました」
TEXT/Masaaki Furuya ILLUST/Koji Watanabe
松山英樹のコーチを務める目澤秀憲、松田鈴英のコーチを務める黒宮幹仁。新進気鋭の2人のコーチが、ゴルフの最先端を語る当連載。今回も前回に引き続き、全米女子オープンにアマチュアとして出場した小暮千広さん、そのコーチとして帯同した黒宮幹仁、同じく帯同した橋本真和パッティングコーチの3人に、現地で感じたことを話してもらった。
GD 今回、全米女子オープンに帯同してみて、日米の力の差は感じましたか。
黒宮 アメリカの女子ツアーのトップ選手と日本のトップ選手は変わらないと思いますが、下位の選手の差の開きを感じました。カットラインが「+6」(※)だったんですよ。僕は「+9」ぐらいかなと思っていたので、これは下位のレベルが相当高いなと思いましたね。
GD 今回小暮さんは予選通過できなかったわけですが、これを予選通過、そしてさらに上の優勝を狙うレベルまで押し上げていくにはどのようなコーチングが必要と感じましたか。
黒宮 コーチは選手ありきで存在するものなので、今までは選手のレベルや成長に応じて情報や課題を小出しに渡していくやり方をしていました。でも、そういうやり方では追いつけないのでは、総合的にもうちょっとなんとかしないと無理なのではないかと思いました。
GD 総合的というと?
黒宮 僕たちが持っている情報をできるだけ多く渡すこと、そしてそれを選手にいかにストレスなく提供し、共有できるかが今後の課題かなと思いました。
GD 渡す情報が多すぎることはないのでしょうか。
黒宮 今まではそう思って控えていましたけど、これからは無理やりにでも渡していかないといけないなと思うようになりました。それが選手にとってトゥーマッチで消化できないなら、それはそれで仕方がないかなと。試合で生きる情報を渡していき、そのうえで現場での修正能力を上げていかないと、いつまでも世界との差が縮まらない。でもそうすることで、結果的に選手の能力は最大限引き出せるのではと思いました。
GD 橋本さんも同じ意見ですか。
橋本 そうですね。以前は、データの数値化より、試合では感覚重視でやったほうがいいのかなと考えたりもしましたが、米ツアーなどは、インパクトで0.1〜0.2度ズレたらもう入らない世界で勝負をしなくてはならないので、僕の立場としては、データもスタッツも数値化して選手に伝えていくのが仕事だという思いになりました。
GD 小暮さんに対しても情報をどんどん伝えていくと。
橋本 そうですね。ゴルフの知識や必要なモノは全部教えていき、最終的には海外の選手に引けを取らないくらいの知識量で、数値の部分やスタッツの部分を高いレベルにもっていきたいと思っています。
GD 小暮さん自身は、この二人から与えられる情報を処理することができる気がしますか。
小暮 今年の1月からお二人に教えていただいているんですが、もちろんわからないことはいっぱいあります。でもわからないことはわかりませんって聞き返しますし、文字に起こして書いたりして自分なりに整理しています。いきなりすべてを吸収はできませんが、少しずつ自分のものにしていければと思います。
※2021年の全米女子オープンはオリンピッククラブで開催された。4日間の最少スコアは笹生優花と畑岡奈紗の4アンダー。優勝はプレーオフにより笹生優花。2日目の予選カットのスコアは6オーバー。難関コースで知られる同クラブで開催された過去の男子の全米オープンの優勝スコアは98年大会のリー・ジャンセンがイーブンパー。2012年のウェブ・シンプソンは1オーバーだった
小暮千広さん(写真中央)
日本で開催された全米女子オープン予選をアマチュアながら見事に勝ち抜き本戦に出場。日本のプロの試合もほとんど出たことがなかった。茨城県の明秀学園日立高校3年生
橋本真和コーチ(写真右)
数多くの女子プロがお忍びで教えを乞うパッティング専門コーチ。先端機器を駆使し、膨大なデータを基にコーチングを行っている
目澤秀憲
めざわひでのり。1991年2月17日生まれ。13歳からゴルフを始め、日大ゴルフ部を経てプロコーチに。TPIレベル3を取得。2021年1月より松山英樹のコーチに就任
黒宮幹仁
くろみやみきひと。1991年4月25日生まれ。10歳からゴルフを始める。09年中部ジュニア優勝。12年関東学生優勝。日大ゴルフ部出身。松田鈴英、梅山知宏らを指導
週刊ゴルフダイジェスト2021年8月17日号より