【さとうの目】Vol.215「経験が浅いのは嫌な経験が少ないこと」コリン・モリカワの本当の凄さ
鋭い視点とマニアックな解説でお馴染みの目利きプロ・佐藤信人が、いま注目しているプレーヤーについて熱く語る連載「うの目、たかの目、さとうの目」。今週の注目選手は全英オープンでメジャー2勝目を挙げたコリン・モリカワ。
ロイヤルセントジョージズGCは、全英オープンの開催地のなかで、選手が最も嫌がるコースといえます。目立ったOBは極端に浅い14番の右くらいですが、土壌が硬いうえにうねりが強く、センターに打ってもどっちに転がるかわからない。03年の大会でボクもプレーしましたが「アンラッキーを受け入れなければいけない」が真っ先に思い浮かぶ感想です。
それを初出場でしかも4日間通じての60台、最終日は圧巻のノーボギーで優勝したコリン・モリカワ。全米プロに次ぐメジャー2勝目で、2大会をともに初出場で制するのは史上初の快挙でもありました。ワールドランク4位での出場でしたから優勝候補のひとりであり、“いい選手、強い選手”であることは世界が認めるところ。ただ、もしやボクたちの想像を超える“スゴい選手”ではないかと思わせる戦いぶりでした。
驚かされるのはリンクスでプレーするのは人生で2度目。前週のスコティッシュオープンが初体験でしたが、こちらは歴史も浅く、アメリカ人設計のコースで、全英がリンクス初体験といえるような状況でした。モリカワのスゴいところは、鋭い洞察力と入念な準備でしょう。前週の体験で、フェスキュー芝には普段使っているブレードアイアンでは微妙な距離感が出せないと判断。クラブを変更しました。普段は4Iが中空で、5、6Iがハーフキャビティ、7I以下はマッスルバックとのことですが、7、8、9Iの3本を全英の週に入ってからハーフキャビティに替えたのです。道具を替えるのは選手にとって大きな不安ですが、これを平然と、しかもメジャー前にできる点にスゴさを感じます。
また彼は最初の練習ラウンドではボールを打たず、キャディとともにコースを歩いて徹底して調べたそう。ジョーダン・スピースの「初めて回るコースでは嫌だなと思うところではなく、いいところを見るようにしている」というコメントを引き合いに、「経験が浅いのはむしろ嫌な経験が少ないこと」とポジティブな発言をしています。モリカワのスゴみはこうした点であり、すべてにおいて自分のゴルフがよくなることを選択、決断する勇気ではないでしょうか。
もちろんPGAツアーで証明されているアイアンの精度、ショートゲームの上手さは言うまでもありません。「スウィングの安定性、小技の上手さではピカイチ」と、その将来性を真っ先に指摘したのがマル(丸山茂樹)でした。
今回の全英のパットについていえば、たまたま入ったのではなく、若さゆえの強さ、迷いも悩みも感じさせない強さが出ていました。勝負を決めるクローザーとしての強さを感じさせます。
メジャー出場8試合での2勝は、ジーン・サラゼン(4試合)、ウォルター・ヘーゲン(6試合)に次ぐ、球聖・ボビー・ジョーンズに並ぶ大記録。まだま多くの記録を生み出しそうな24歳。もしやボクたちは、新しい歴史誕生の目撃者になっているのかもしれません。
冷静な状況判断力も武器!
佐藤信人
さとう・のぶひと。1970年生まれ、千葉出身。ツアー9勝。海外経験も豊富。現在はテレビなどで解説者としても活躍中
週刊ゴルフダイジェスト2021年8月17日号より