【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.34「ライがゴルフを蘇らせてくれる」
PHOTO / Masaaki Nishimoto
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
ドローボールを持ち球にしているお客さんとまわっていたときのことです。打ち下ろしのパー5で、グリーン手前のフェアウェイ両サイドは右も左も池という難しいホールです。
お客さんのティーショットはまあまあやったんですけど、そういうホールやから、どうしてもセカンドは左足下がりになる。しかも、つま先下がりにもなっておりました。プロでも難しいライです。「どないするんやろ。池もあるし、これはレイアップしかないやろな」と思って見ておりました。
ところが、お客さんが持っているクラブはクリーク。ティーショットがよかったからか、刻む気なんかさらさらない様子なんですわ。
それで、めちゃくちゃ右を向いて、球の位置は真ん中にして、ハンドファーストで構えてます。フック打ちの要素満載です。「どうなるんやろう」と思ったら、案の定、ド右のプッシュアウト。でも少しフックしてセーフやったのです。
そこで僕が声をかけました。
「それ違いますよ。もう一発いきましょう」と。「つま先下がりで左足下がりですやろ」と、まずはライの確認です。「テークバックはいつもとちょっと変えましょう。インに引かんと、真っすぐめに上げて、思い切り左下に振ってください」とアドバイスしました。
フック打ちの人には難しい注文です。せやから、ちゃんと補足説明もしました。
「そうすると、ヘッドは左へ、ボールは真っすぐ飛ぶんです。こういうのを僕らはヘッドとボールの泣き別れと言うとるんですよ」
お客さんは素直に実行しました。そうしたら、見事なボールが出て、230ヤードぐらい飛んだんです。
残念ながら、風に持っていかれて池でしたが、大した問題ではありません。お客さんが経験したこともない、すごいショットを打ったことのほうが大事なんです。
「今の球筋は抜群でした。見たことがない弾道やったですね」と声掛けたら、お客さんも「僕も、いままで打ったことがない感覚でした」と大喜びを通り越して感激しておりました。「やっぱり、ライがゴルフを蘇らせてくれるんやな」と思いました。
せやけど、池ポチャですから、1ペナ払ってドロップです。残り70ヤード。どんなアプローチをするのか、この続きは来週です。
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2021年6月8日号より