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“グリップ圧”の新常識<後編>理想の力感を身につけるコツは「切り返しの瞬間にリリース」

スウィング中のグリップ圧を計測すると、プロや上級者は「切り返し」で握る強さが最大になっていることがわかった。では、「力む」とはどのような状態を言うのか? 理想の力感で振るには何を意識したらいいのか? 引き続き奥嶋誠昭プロに聞いていこう。

TEXT/Kosuke Suzuki PHOTO/Hiroaki Arihara THANKS/THE REAL SWING GOLF STUDIO

解説/奥嶋誠昭

プロコーチとして稲見萌寧の五輪銀メダル獲得を支えるなど活躍。最新機器を用いた科学的なレッスンに定評がある理論派

>>前編はこちら

切り返し後も力が
抜けないのが「力み」

理想的なスウィングでは、グリッププレッシャーは切り返しで最も強くなるという。しかし、ミスしたときほど「切り返しで力んだ」と感じるし、そう指摘されることも多い。これはどういうことなのか?

「実は『力んだ』と感じたときというのは、グリッププレッシャー自体が強くなるわけではなく、切り返しの後までグリッププレッシャーが抜けていないときなんです。本来、手の出力は切り返しの一瞬で終わらせたいのに、出力時間が長引いてしまったとき。これが『力み』の正体です。自分の出力をクラブのモーメントと拮抗させられれば、手に力が入った感覚はほとんどないのですが、ダウンスウィングに入って、もう手の出番はないのにまだ出力が続いていると、プレーヤーはそれを『力み』と感じるんだと思います」

スウィングのどこかにエラーがあるアマチュアは、切り返しの後もグリップ圧が抜けず、フォローまで力が“入りっ放し”になっているケースが多いという。実は「力み」もこれとほぼ同じ現象だ

実は、技術の低いアマチュアのスウィングも同じような現象が起きており、インパクト後、フォローくらいまでグリッププレッシャーが抜け切らずに“入りっ放し”になっているケースが多いという。その結果、ヘッドを走らせられず、フォローでひじが引けたり、振り切れないといった現象が起こる。

ヘッドを走らせられずに飛ばない人、球がつかまらない人、フォローでひじが引ける人などは、切り返し後もグリッププレッシャーが抜けず、力が入ったままのケースが多い

これらの原因は、バックスウィングから切り返しまでの間に生じた、クラブの動きのエラーにある。バックスウィングの段階ですでに軌道やフェースの向きが乱れていて、そのまま切り返してダウンスウィングに入ったらヘッドがボールにキレイに当たらないと感じたら、経験のある人ほど反射的にダウンスウィングで軌道修正を行おうとする。その修正のために、切り返しの後まで手の力を抜くことができないのだ。

「これは言い換えれば、『力む』ことによってダウンスウィングで軌道修正を行い、ミスの幅を小さくしているということでもあります。そもそも軌道やフェース向きに問題がある人に『力むな』『グリップの力を抜け』と言ったら、それらが乱れたまま修正せずに振り抜くことになってしまう。ヘッドスピードは上がるかもしれませんが、ミスはもっとひどくなる可能性があります」

そう考えると、切り返しで正しくパワーを出し、ダウンスウィング以降で余計なグリッププレッシャーが抜けるようにするためには、軌道やフェースの向きを整える根源的なスウィングのレベルアップが不可欠ということになる。

「本質的にはその通りですが、私自身、データを取ってわかった正しいグリッププレッシャーのかけ方を“後付け”で意識するようになって、スウィングにいい影響が出てきました。自分の感覚レベルのイメージと、実際にどうグリッププレッシャーをかけるかを擦り合わせていくことは、上達に大きく寄与するはずです。少なくとも練習では、意識することはとても重要だと思います」

バックスウィング時の軌道やフェースの向きが悪いと、そのまま切り返したらちゃんと当たらないので、切り返し後にもグリップに力を残し、軌道修正する必要がある。「力み」はこの修正を行ってミスの幅を抑えるための必要悪ともいえる

Point
肩の力は抜く。力感の調節は前腕より先で

グリップ圧を加減しようとすると、肩に力が入ってしまう人も多く、これも「力み」の一種。肩の力は抜いて、前腕より先だけの力感をコントロールする意識を持とう

グリップ圧はどう変わる?
いろんなショットで実験

強振
>>早いタイミングでより強い力が入る

飛ばそうとして強振する場合、より速く大きなクラブのモーメントを受け止めるため、グリップ圧が入るタイミングが早くなり、MAXの値も大きくなる。大振りになるわけではない

ライン出し
>>力が入るタイミングが遅く圧も弱め

方向性重心の「ライン出し」の際は、クラブのモーメントに任せて振り抜くのではなく、クラブの走りを抑える。そのためグリップ圧が入るのが遅くなり、かかる圧力も小さくなる

アプローチ
>>右手の圧が弱く一定にかかる

アプローチショットでは、左手の圧は小さいが波形はショットに近く、右手は弱めの圧が長くずっとかかっている。右手の役割はクラブが動きすぎないように抑えていると考えられる

切り返しの瞬間に
思い切ってリリース

スウィング中、どのようにグリッププレッシャーがかかっているのが理想かはわかったが、自分の状態をそれに近づけ、上達に役立てるにはどう考えたらいいのだろうか。

奥嶋プロ自身、データを取って客観的にわかった状態に自分の感覚を擦り合わせていくことは、とても
有効だったと話す。そのうえでアマチュアが持つべきは「リリースする感覚」だという。

「グリッププレッシャーの最適化には、切り返しの瞬間に思い切ってリリースする感覚がもっとも有効でした。釣りざおを振るときのように、切り返しでクラブヘッドを飛球線と反対方向に振り出す動き。これを瞬間的にやるんです。もし先端がカチッと鳴る素振り用の練習器具を持っているなら、あれを
切り返しの瞬間に鳴らすことができればOKです」

この瞬間的なリリース動作が、グリッププレッシャーを切り返しで最大化し、その後スムーズに力が抜けるスウィングにつながるという。

釣りざおを飛球線反対方向に振るようなイメージでリリース動作を行うと、切り返しの瞬間にグリッププレッシャーが最大になり、その後スムーズに力が抜けて振り切れる

リリースは左親指を押し下げるように

リリース動作は、トップの位置で左手の親指を押し下げるような感覚。「手首の角度がほどけてしまう」と思うかもしれないが、一瞬の出力ならそうはならないという

音が鳴る練習器具もオススメ

スウィングすると先端から音が出る素振り用の練習器具がある。持っている人はこれを切り返しの瞬間に鳴らすように振ってみよう。切り返しで手の中に大きな圧がかかるのがわかるはずだ。これを支える握りの強さが求められるのだ

こう聞くと、アーリーリリースになりそうと感じるかもしれない。しかし出力を瞬間的にすることができればその心配はないという。

「結局、一瞬でなく長く出力してしまうのが諸悪の根源なんです。いかに瞬間的にこの出力を終わらせるかがカギ。感覚的にはヘッド先行でダウンスウィングするくらいでいいんです。この感覚で打てると最初は左に出て左に曲がる球が出るはず。そうしたら同じリリースのイメージでボールが真っすぐ飛ぶような体の動きを考えてみてください。結果的に軌道もフェースの向きもよくなっていき、球がつかまって飛距離も出るようになります。また、クラブの操作が難しい片手打ちも有効ですので、練習に取り入れてみるといいと思います」

なお、最初は上手く当たらないので、無理にコースで試さず、きちんと練習で身に付けることが大事だ。これが身に付くまでは、グリップは「ゆるゆる」よりも「強くしっかり」握るほうがいいと奥嶋プロは言う。

「ある程度いいスウィングが身に付いている人や感覚がある人はいいんですが、一般的なアマチュアが最初からグリップをゆるく持っていては、『当てる』『振る』という手先の微調整ができませんし、『ゆるく持つ』という意識が招く弊害のほうが大きい。肩はリラックスしつつ、グリップはしっかり。まずはここから始めて、最終的に『切り返しMAX』にたどり着ければいいと思います」

Drill
グリップ圧の管理には「片手打ち」が有効

●右片手打ち:しっかり握ってリリースを抑える

右手打ちの場合は、クラブをしっかり持って暴れさせず、体の動きと同調させることが大事。こちらは手首をあまり積極的に使わず、地面にソールをぶつけるように打ったら、フォローはあまり意識しなくてOK。ヘッドを走らせすぎないようにクラブのエネルギーを抑える感覚だ

●左手片手打ち:切り返しで積極的にリリース

左手打ちでは、切り返しでのリリースを重視。左親指を押し下げるように積極的にリリースしてボールを打とう。ポイントは体の動きを最後まで止めないこと。リリースしてもダフらないことを体で覚えるとともに、切り返しのグリッププレッシャーが最大になる感覚をつかもう

月刊ゴルフダイジェスト2025年1月号より