【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.170「昭和のオッサンは目を使う」
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
PHOTO/Yasuo Masuda
若い子らにアドバイスを求められたときに、僕なりの表現の仕方で答えることがあります。
たとえば、「こんなときの距離感はどないするんですか」と聞かれ、「そんなもん空見て打たんかい」と言ったりします。そしたら、なかには空見たら距離感出るんかなと本気で思うやつもおるんですから、驚きます。
こっちは、飛んでいく球の映像やイメージを出せいう意味で言うてるわけで、それには「空見て打つ」という表現のほうがピンとくるやろうと思って言うとるのに、言葉を額面通りに受け取るいうか、まともに考えてしまって、上を向くとフェースの角度はどうなるんかとか真面目にやってしまうから、もうわけわからんようになりますよね。
言葉のニュアンスとか、雰囲気とかが伝わらんようになっている。こういうことって、多くなっている気がします。
今の若い子らはプロも含めて、レーザーの距離計やらトラックマンなどの弾道計測器をよく活用していますね。いわゆるデジタル派はいろんなことを数字で管理するから、ショットなんかもデータ的に評価がなされている。
僕なんかは、そんなもんに頼り切ってたら、そういうデジタルAI機器がなくなったらどないすんねんと言いたくなるけど、そんなもん、この先もずっとあり続けるから心配ないという話になる。まあ、そらそうでしょう。
そんなことを言いながら、僕がよく行く住之江の練習場では「トップトレーサー・レンジ」が打席に付いているんですよ。それで、バーンと打って見たら、ドライバーでキャリー220ヤード、ラン30ヤードとか出てくるでしょ。球筋も出る。それが全部合っとるんですよ。これはすごいなぁと見てますもんね、何気なく。
しかし、「目があるやろ」とも思うんですわ。そんなこと言うとるから“昭和のオッサン”やと言われるんやけどね。
でももうちょっと勘を磨くというか、特に若い人にはやってほしいと思うんです。キャディに何ヤードやと聞いて頭のなかに数字を浮かべた距離感と、自分の目で見て自然に体が動いた結果の距離感は、本質的に違うような気がするんですよね。
「自分の目で見て自然に体が動いた結果の距離感は大事にしてほしいんですわ」
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2024年3月26日号より