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長嶋茂雄×岡本綾子 夢の対談を再録!<後編>「議論や理論は終わった後の話。戦っているプレーヤーはアニマルのようでなくては勝てません」

1997年の「週刊ゴルフダイジェスト」新年合併号で掲載した、長嶋茂雄さんと岡本綾子さんとの対談を再録。野球界とゴルフ界を代表するレジェンドは、いったいどんなことを語り合った?

INTERVIEWER/Masayuki Matsumoto PHOTO/Minoru Imase

>>前編はこちら

セオリーよりも
一番必要なのは「イメージ」

――打撃理論とゴルフのスウィング理論には共通点がありますか?

長嶋 そりゃ、ゴルフ雑誌もよく読みますから、スウィング理論も理解はできますけれど……。

岡本 長嶋さんも同じだと思うんですが、プレーヤーにとっては、理論、セオリーというより、スウィングはそれ以前にイメージなんですよ。プロであれば誰でも、練習場ではほれぼれするようなボールが打てます。でも実戦は違うし、18ホールの中で距離は同じでも、まったく同じボールを打つことはあり得ません。その都度、わたしたちは自分がどんなボールが打ちたいのかを考え、その方法を決断し、実行しなければいけないんです。そのときに一番必要なのが、イメージなんです。

長嶋 ボクもゴルフをやっていて、とんでもないところからグリーンに乗せたりすることがあるけれど、ああいうときは確かに理論なんて考えてはいませんよね。

岡本 基本的に、リカバリーというのは技術じゃありません。これこそイメージの力。もちろん、ボールをとらえるという基礎ができていないと話になりません。でも、ゴルフをやったことがない小さな子供に、ボールを打たせると、ヘッドアップする子はひとりもいないですしね。


長嶋 純粋で邪心がないからでしょうね。やっぱり、プロ野球の世界でも、セオリーばかりで頭でっかちになってはいけません。そりゃあネット裏の放送ブースの中にいれば、議論したりもするし、新聞紙上にコラムを持っている人なら解説もしなくちゃなりませんが、議論や理論はあくまで終わった後のことです。グラウンドで戦っているプレーヤーは、攻撃的で感性とか本能といったものを表に出したアニマルのようでなくては勝てません。先日、ある先生とお話ししたときに伺ったんですが、いまのニッポンも、全体的に議論や理論を大事にし過ぎていて、高く飛躍する勢いをなくしているというんです。ニッポン人はもっと“動物”にならなければダメだというお話は、ボクもまったくそのとおりだと思ったんですよ。

岡本 もっと人間が本来、持っている感性を大切にしろ、ということなんでしょうね。スポーツに限らず、あらゆる面で考えられる話です。

「“安全に”という気持ちでショットすると
イメージの力が鈍くなるだけですよね 」(岡本)

――そういえば、お二人とも血液型がB型です。ジャンボさんも青木さんもB型ですが、長嶋監督がよく「動物的なカン」の達人と言われるように、B型にはそういう面が強い人が多いのでしょうか?

長嶋 確かに、よくそう言われてきましたが、そういうカンみたいなものは、誰もが持っているんですよ。ただ、それをここぞという場面に凝縮して、一気に爆発させることができるかどうかだと思うんです。これはメンタルなものです。そういう意味では、野球とゴルフのような静的なスポーツには、それが大きく要求されます。またそれが野球とゴルフというスポーツの奥の深さにつながっているんでしょう。

岡本 最近になって、日本でもメンタルトレーニングということが言われるようになりましたが、わたしがアメリカに行き始めた80年代前半、向こうの選手たちは、暇なときには、いつもヘッドホンステレオでメンタルテープを聞いていましたね。

長嶋 どういうものなの?

岡本 リラックスできる環境音楽が流れていて、メッセージというか、声が入っているんです。「自分はできる」とか「心配はない」というような内容です。

長嶋 一種の自己暗示のようなものでしょうね。いつも思うのは、超一流の選手、岡本さんとかジャンボには、まったく「否定哲学」がないのよ。すべて肯定的、攻撃的に考えている。力のないものは、逆に否定ばかり。まあ2割8分以下のプレーヤーはこればっかりなんだ。

岡本 さっきの、理論じゃなくてイメージだっていう話じゃありませんけど、たとえばセカンドショットでグリーンを狙う場合に、自分の思い描いたボールでピンを攻める気持ちがあるのとないのとでは、そのショットの結果だけでなく、もっと大きな違いが出てきます。まあ安全にという気持ちでいると、グリーンには乗せられても、イメージする力が鈍くなりこそすれ、強くはならないんです。自分のレベルを向上させていくチャンスを失いかねないんですよ。

長嶋 なるほど、野球界の若い選手にも、大いに参考になる話ですね。

「超一流の選手ほど“否定哲学”を持たず
すべて肯定的、攻撃的に考えます」(長嶋)

――ところで、長嶋監督は最近、ゴルフのほうは?

長嶋 忙しくてなかなかコースへは行けませんが、公式の大会やコンペには、一切、出場を辞退させていただいているんです。短いオフの間にそういったスケジュールが入ってしまうと、数少ないプライベートなゴルフの時間までなくなってしまいますからね。

岡本 長嶋さんとはこれまでに確か3回、ラウンドさせていただきましたよね。一番、印象に残っているのが、フロリダで回ったとき。わたしがオンして、先にグリーンに上がって待っていて、長嶋さんはグリーン手前の池の縁からアプローチしようとしていたとき、ふと見ると、近くにワニがいるんです(笑)。アッと思って、わたしはボールを投げて追い払おうとしたのに、長嶋さんは我れ関せず、黙々とアドレスに入っていた。

――それだけ集中していた!?

長嶋 何かそういうことだったようで、後で言われましたね。まったく(ワニは)目に入らなかったです、ハイ。

長嶋茂雄さんのご冥福をお祈りいたします。

週刊ゴルフダイジェスト1997年1月7・14日合併号の記事を再録