「体を止めたら止まった球は打てない」海老原清治と奥田靖己に学ぶスウィングの本質
いくつになってもゴルフの研鑽を惜しまない海老原清治と奥田靖己。年齢を重ねてもゴルフをブラッシュアップし続けられるヒントが、2人の会話に詰まっていた!
TEXT/Masaaki Furuya PHOTO/Shinji Osawa THANKS/浜松CC
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- いくつになってもゴルフの研鑽を惜しまない海老原清治と奥田靖己。今年で75歳を迎えながらも、いまだ衰えを知らない海老原の飛ばしの秘密に、奥田が迫る! TEXT/Masaaki Furuya PHOTO/Shinji Osawa THANKS/浜松CC 海老原清治(左)……1949年生まれ、千葉県出身。16歳でゴルフを始め我孫子GCでキャディをしながら20歳でプロ入り。レギュラー……
体を止めるから
当たらない
海老原 さっき言っていた、昨年の11月の試合だけど、グリーン手前の同じような場所からのアプローチで、僕がチャックリして、奥ちゃんがチップインしたことがあったじゃない。
奥田 ありましたね。
海老原 あれを見ていて、フーンと思って。次の日に「奥ちゃんよ、アレ、どういうふうに打ったの?」って聞いたよなぁ(笑)。そうしたら、「自分でも前はやっていたやないですか。上からポンと打っていたでしょ」って言ったよね。
奥田 そう、「ヘッドの重みで上から」って言いました。
海老原 それを聞いて、あー、そうだよなあ、ありがとな、わかったって、それでその日は「73」で上がったんだよ。
奥田 エージシュートでしたね。
海老原 それで家に帰ってから練習して。ああなるほどな、こういうことだよなってやってたら、ターフも取れるようになってきてさ。それまでは、突っかかるターフはあるんだけど、綺麗に抜けるターフが取れなくなっていて。もしくはトップ。それで、オクちゃん、ありがとねって(笑)。
奥田 恥ずかしかったですよ。僕らがそんな言えることやないですから。
海老原 でもアプローチって、ダメになるとそうなるよね。やっぱり歳なんだろうか。ボールが空中にあれば何とかできるんだけどさ、年齢とともに地面にあるやつは難しくなる。
奥田 間違いないです。
海老原 何でだろうね。
奥田 僕の考えでは、ですけれど……ボールは止まってますから、コレ、エネルギーはないですよね。だからミートしてエネルギーを加えなあかんのですよ。ショットもパットもそうです。そうするとね、当てたくなるんですよ。
海老原 そうそう、当てたい。
奥田 すると体が止まるんです。そうなると、止まってるボールと、止まってる体の、この2つの間でクラブを振ろうとするわけですわ。そしたらこれがえらいことになってくるわけです。
海老原 どういうこと?
奥田 さっきの「肩」の話ですよ。肩が動くからスピードを出せるわけですよね。止まってる球と、止まってる体の間の腕だけ動かしても大したスピードは出んのです。それに体をジッと止めて手の動きの加減でクラブを下ろすと安定しないから上手く当たらない。だから僕らでも、動かすつもりがなくても、調子がいいときは、自然と体がフッと動いてます。
海老原 あ~、そうだわ。
奥田 体が動いてきたらクラブにスピードが出ますから、ヘッドが安定して、ちょっとライが悪くてダフろうが関係ない。それが体を止めて打とう思ったら、2~3メートル動いたヘッドを手で同じところに戻さなアカン。そんな難しい話はないですわ。
海老原 オクちゃん、僕もそうやってたわ。バンカーなんかは、クラブが上がったら手を下ろすよりも肩を抜くんだもんな。そうだ! うん。肩が動けば手はストンと引っ張って下りてくるもんな。
奥田 勝手に下りますよね。トップから肩を動かして、それで空中を空振りするヤツは絶対にいませんから。
海老原 そう。体を止めてちゃんと当たるわけがない。それは素晴らしいわ。
奥田 “我孫子流”とか僕はよくわからないですけど、インパクトはポンとヘッドを止めて球だけ行かすんですよね。でもよく見ると体も少し動いてますよね。
海老原 うん、体が少しは行くよね。そういえば、「ハーフショットは腕じゃねえぞ、体回せよ」って言われたことがある。インパクトで止まるんだけどそれを手でやっちゃダメだぞって。
奥田 ああ、やっぱり。主体は体なんだ。
海老原 そうだわ。いい話を聞いた。ジャンボも青木さんも、アプローチは思い切りがいいんだよね。思い切りがいいように見えるということは、回転しているんだよな。体を使っているわけだ。
奥田 間違いないです。メリーゴーラウンドと一緒で、体が回ったら勝手にクラブって上がるんですよ。そして上がったもんは絶対に落ちてきます。
海老原 だから、普通の人がクラブを振ったら210か220ヤードは誰でも飛ぶ。行かないのは振り方が悪いんだと思うよね。
奥田 間違いないです。今言うように体を止めずに動ければ、それだけのエネルギーをボールに伝えることができますからね。
海老原 それとミート率ね。女子プロが飛ぶというのはミート率がいいからでしょ。
奥田 間違いないです。女子は力はないけど、あの娘らみんな体動いているもんね。だからクラブが戻ってくるわけですよ。
海老原 アマチュアの人たちはよく男子プロはマネできないけど女子はマネできるなんて言うけど、反対だよな。だって女の子たちはあれだけ体が柔らかいから動かしているのに、自分らとしては体動かさないで飛ばそうとしてるんだから(笑)。でも、年齢とともにだんだんと体が動かなくなってくるのは事実だからさ、バックスウィングで左足をこういうふうに(目標方向に足裏を向けたヒールアップ)やって動かしていってもいいんだよね。樋口久子さんのバックスウィングを参考にして、ダウンスウィングも戻してくるやつを覚えていったら今まで以上に球が飛ぶようになります。それを「下半身を先に回す」なんてやっているから、わからなくなるんだよ。
「樋口久子さんみたいにバックスウィングで左足をヒールアップして動かしていってもいいんだよね」(海老原)
奥田 手も足も一緒に行けばいいんですよ。10上げたら10戻る、5やったら5戻る。3やったら3戻る。一緒に行って一緒に戻れれば、クラブは必ず遅れてくるんです。
海老原 うん、遅れてくるよね。
奥田 「ねじる」とか「我慢する」とか要らないです。全部動いたらエエんです。ゴルフのレッスンって、頭固定してとか“止める話”ばっかりやないですか。
海老原 そう。やっぱり“動かす”って言葉が大事だよね。
年齢に負けないように
前を向き続ける
奥田 エビさん、トレーニングとかされていないんでしょ。
海老原 うん。竹ボウキの素振りは6月になったら復活させようと思ってるけどね。
海老原が昔から行う「竹ボウキ素振り」。「この重さと抵抗感が、“振る”力を付けるには、一番いいんですよ!」
奥田 食事で気を付けていることなんかは、あるんですか。
海老原 まさか。昔から食事に関してはないけど、最近言われたのはプロテイン。結局、筋肉がだんだんとダメになってくるから、そういうのを取ったほうがいいと。みそ汁とかコーヒーに入れて、毎日、さじ10杯くらいね。
奥田 まあ、ビタミンが足らんと感じたらミカンが食いたくなる。タンパク質が足らんと思うたら肉が欲しくなるんですよ。エビさんは自然にそうされているいうことですよね。
海老原 そういうことだよね。でも打つ前に準備体操はするし、たまにストレッチみたいなのはやるよ。机みたいなところに足を乗せて、ギュッとやると(股関節が)パキンと鳴るから、反対側もパキンと鳴らすと、「うん快調!」って感じで(笑)。ちょっと詰まっているときなんかは鳴らないから、ほぐしてやるとかね。パキッて鳴らすのはよくないよって言われるんだけど、そんなことよりも自分がよけりゃいいわけだから。そのほうが快調にゴルフができるしさ。
奥田 年齢がいくと自信とかが薄れてくると言いますけど、エビさんはどうですか。
海老原 ああ、飛ばなくなっちゃったなあって、そういうときに自信が薄れることってあるよね。でも自信がなくなるということは、それを克服すればまだ上手くなれるということ。だからいくつになっても、「ああ自分はダメだ」と思わないで、「これを何とか戻したい」とか、そういうふうにやっていけば、まだまだイケるよね。年齢に負けないように前を向いていければ、ある程度、戻れる。もうダメだと思ったら、本当にダメになっちゃうから。
今も互いの練習やプレーを見て、学ぶという2人。「人のプレーを見ることは基本。そして、わからなかったら聞く!」(奥田)
奥田 最後に、ゴルファーとしての今の目標を教えてください。
海老原 やっぱり、たまに試合には出たいよね。試合ってわくわくするからね。そういうものがないとダメだし、試合に出ていって自分の腕を確かめながらゴルフをやっていきたいと思っていますよ。オクちゃんは?
奥田 ゴルフを究めると言うたらエエ恰好しいになりますけど、本当の自分の動きいうもんを確立していきたいですね。そして、体に負担をかけないスウィングを完成させていくということですね。
海老原清治の1Wスウィング
ゴルフは右手で振るイメージだという海老原。「僕はなるべく高いボールを打ちたい。飛ぶからね。フォローも速いスピードでピュッと振るようにするには右手が大事。左手は引っ張る役割です」
奥田靖己の1Wショット
トップで独特の間があるゆったりした奥田のスウィング。「クラブヘッドが衝突するから飛ぶんですわ。体を止めずに動ければ、それだけのエネルギーをボールに伝えることができますから」
週刊ゴルフダイジェスト2024年4月23日より