【注目対談】金谷拓実×中島啓太「見つめる先は世界だけ!」
女子の黄金・プラチナ世代が話題だが、男子にも有望な若手はいる。ジュニア時代から活躍、常に世界を見据えてきた、日本アマチュアランク1位の金谷拓実選手と同2位の中島啓太選手に話を聞いた。
PHOTO/Tsukasa Kobayashi
「少ないチャンスをものにしないと
上にはいけない」(金谷)
──先日終わったアジアアマチュア選手権。金谷選手は惜しくも連覇を逃し、中島選手は18位でした。
金谷 アジアアマは、プレーオフで負けて残念でしたが、やるべきことはやったつもりです。
中島 結果は悔しいですが、僕は夏に盲腸で入院、全米アマにも出場できなくなって……今回は、まずは出場できてよかった。でも、金谷さんのプレーオフには感動しました。18番グリーンの脇で見ていて、プレーオフ1ホール目、5mのバーディパットが入ったのには鳥肌が立ちました。
金谷 それが最近感動したこと?(笑) 僕は日本が勝ったラグビーに感動したけれど。サモアが諦めずに最後、スクラムを組んで。男らしかった。僕たちスポーツはよく観るよね。
中島 とくにプロ野球ですね。昔からジャイアンツファンです。
金谷 最悪ですね(笑)。
中島 今年は、広島は全然相手になりませんでした。丸選手がいなくなったので。
金谷 去年まではこちらがボロクソに言ってたんですけど(笑)。
中島 でも、菅野(智之)選手の密着取材を動画で見て、ストイックさや、「集中力をコントロールしてやっている」という言葉は自分のゴルフにも参考になります。
金谷 僕もよくアスリートなどの本を読みますが、最近読み返した本に、毎年プロ野球のドラフトで優秀な選手が入るのに、なぜ一流になれる選手と一軍にも立てず戦力外になる選手がいるのかが書いてあるものがあって。「絶対、みんなにチャンスは来るけど、それまでにしっかり準備して、その1回を仕留めないと、もう上がっていけない世界だ」と。自分もそうだなと思いました。
中島 面白いですよね。
金谷 今年の全英女子の渋野(日向子)選手もです。僕は同期で、高校時代は中国ジュニアなどの予選の結果の前にいつも立って後続の結果を見ながら「ああよかった」って友だちと抱き合っているイメージ(笑)。プロになるのかな? くらいで。そうしたらこんなことに! サロンパスに勝った時からすごいと思ってました。
中島 チャンスをつかんだんですね。
金谷 全英女子では全部が自分に向いている感じで、最高に楽しそうにゴルフをしていて。イギリスはゴルフの国だからギャラリーの雰囲気もよかったですし。
中島 たしかに、夏に全英アマに出ましたけど、最終組に3000人くらいギャラリーが付いていました。ロープもなくて、グリーン周りもギャラリーが囲んでいたり、すごくいい感じでした。
金谷 全米アマもけっこうギャラリーの方はいましたね。豪州アマもいいよね。
中島 レベルも高い。豪州オープンなんかも最高です。子どもが遊びに来ていたり。
金谷 全英オープンもそんな感じ。海外はのびのびできます。
「試合に臨むうえでの
準備の大切さ学んだ」(中島)
──2人は、(JGAの)ナショナルチームで学んだことが大きいと言いますが、それは何ですか。
金谷 ヘッドコーチがガレス・ジョーンズさんになって、最初は、こんな考えがあるのかと。それまでの教えや自分の考えと違ったので信用できなかった。メンバーにも教えに溶け込めなった人が多かった。でも1年くらいして、高校卒業時に受けたQTが上手くいかなかったり、何よりジョーンズコーチの教えを全部受け入れた畑岡奈紗選手が結果を出して活躍していました。だから僕も、とりあえず何でもやってみようと思いました。
中島 僕も最初は全然でした。
金谷 練習も、前はアイアンやドライバーを2、3時間打つことが当たり前だと思っていた。でも、宮崎の合宿でジョーンズコーチが、65%はショートゲームで35%がロングゲーム、100球打ったら十分。それ以上必要ないと。
中島 そうです。でも、それを取り入れてから結果がよくなった。僕が豪州アマで優勝した頃です。
金谷 「ショット・トウ・ホール」というスコアを管理するアプリがあり、1ラウンドで何Yを何回打つかが20Y刻みで出ます。練習ラウンドでデータをとっておけば、そのコースで使わない番手がわかる。160Yや180Yが3、4回あるのに、9番アイアンで130~140Yを打つ練習をしても効率が悪い。
中島 水平器を使って事前にグリーンの傾斜を測ることもすごくいい。この準備がしっくりくるんです。試合に臨むための準備を学んだのが大きいですよね。
金谷 ジョーンズコーチは感覚をすごく嫌います。エイムポイントなど決まりごとがあり、システムになっていて、自分のなかにきちんと落とし込めればズレがない。もちろん感覚も大事だけど、感覚の裏付けができたのかもしれません。
中島 面白いですよね。僕も全部自分の感覚でやってきたから。アプローチもパットも。でもその感覚はきちんと残ります。あとは、スウィングの動作解析とか、トレーナーさんとかもいて。それを元に自分で練習する。だから、今の僕のコーチはジョーンズさんかな。
金谷 僕もですね。
「オーガスタ1番のティーイングエリアに立った時、今までに感じたことのない緊張で。練習ラウンドから興奮しっぱなしだった」(金谷)
昨年の日本オープンでアダム・スコットとラウンドした中島。「好きな選手。マスターズでは彼が優勝した場面が一番印象に残っている」(中島)
──大学生活について聞かせてください。
中島 日体大は、とくにトレーニ ングの環境がすごくいい。一緒にトレーニングしてる人にアーチェリーの世界大会に行く人や、ラグビーの人、いろんな競技の人がいるからモチベーションになります。授業はスポーツ心理学、哲学、栄養学など。勉強になります。
金谷 僕も、高校卒業してプロになっていたら、何も知らずにきたと思います。大学は、人とのつながりができますし、勉強になることが多いです。1年の時はキャディのバイトも行きましたが、おじさんたちが打って、しぐさを見ていると面白い。たとえば、ショートパットを外す時など、打つ前に雰囲気が明らかに違う。打つ前から絶対に勝負って決まってるんだって(笑)。
中島 人間観察ですね。
「何かひとつでも
ズバ抜けている選手になる」(金谷)
──海外で戦う上で大事だと感じていることは。
金谷 その土地で求められるゴルフをきちんとやった人が上にいくということを感じています。だから、そのコースを知っているか、知ろうとするかが大事。たとえばアメリカは、やはり距離が必要というか、そこは求められる。
中島 はい。爆発力もです。欧州は難しいコースが多いので、いろんなテクニックが必要です。
金谷 欧州は状況やコースレイアウトが多種多様で、要求されることが多い。でも、そういうのに揉まれて、自分の選択肢が増えていけば、たとえ飛距離がなくても違う部分で勝負できる武器が増えてアメリカで戦えるのかなと思います。
「金谷さんはそんなに感情は出さないけど、内側にある気持ちがすごいと思います」(中島)
「僕は一生懸命泥臭くやってるんですけど……啓太はゴルフが全部綺麗なんです」(金谷)
──今後の目標を教えてください。
中島 金谷さん、あの9マスのやつ、やってるんですよね?
金谷 大谷翔平選手の「目標達成シート」。壁に貼っているので寝て起きたらパッと目に入っていいです。真ん中の目標は変えてなくて「マスターズのローアマ」。今年達成できなかったから。
中島 僕、実は先週目標を書いて貼ったばかりです。今、世界アマランク15位まできて、上位を狙うチャンスはあると思うので、真ん中には「世界アマランク1位」。このシートどおり毎日ちゃんと生活するようにします。
金谷 傾向と課題も見えます。
中島 僕は今までは綺麗にゴルフしよう、自分が納得すればいいと思っていたんですが、結果を出すことも大事だと思うようになった。数字や結果にこだわりたい。これが課題です。そのためには120Y以内を練習しないといけないし、300Yをフェアウェイに打てるようにしていきたい。
金谷 僕の課題は、ほかの人が辿りつけない武器を作ることです。
中島 すごいですね。
金谷 一芸に秀でる、じゃないですが、どれも安定した選手より何かひとつズバ抜けている選手がプロの世界では生き残る。僕ならパットとか……。こだわりを持っている人って、どの業界でも強いです。
「世界中どこにいっても
応援される選手になりたい」(中島)
中島 金谷さん、世界一になって、何か変わりましたか?
金谷 ぜんぜん、変わらない(笑)。だって世界アマランクで1位になってもそれが最終目標じゃないし、もちろん今年の目標ではあったのでよく頑張ったなというくらいで、目標達成すればまた違う目標がきて、それを達成していけるかどうかが大事です。
中島 かなわないです。
金谷 僕は啓太みたいに綺麗にゴルフができない。うらやましい。綺麗な人って、弱点が見えない。本人にはそれが弱点なのかもしれないけど。でも、啓太は、ゴルフも部屋も整理整頓されて綺麗だけど、心も綺麗なんです。
中島 そこ、褒めなくていいです(笑)。
金谷 いや、去年のアジアアマでも(2位で)絶対に悔しいはずなのに、変わらず僕を祝福してくれて。もっとガツガツしてる選手もいるけど、そういうのはない。
中島 もちろん、すごく悔しかったですよ。でも、チームメイトだし、金谷さんもいつも一緒に頑張ろうと言ってくれますし。
金谷 性格が悪くないとプロでは生き残れないと言う人もいますけど、それはないと最近思うんです。
中島 僕、少しガツガツしたほうがいいかも(笑)。でも、何より石川遼選手みたいに、世界中どこに行っても応援されながらプレーできる選手になるのが夢です。
金谷 僕は、とりあえず海外にどんどん出ていって、常に挑戦を続けていく選手になりたいです。
週刊ゴルフダイジェスト2019年11月5日号より
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