【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.735「プロになるよりも、プロになってからのハードルのほうが厳しい」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく
TEXT/M.Matsumoto
わたしは実業団バレーボール出身で、やるからにはトコトンやる性分です。引退後ゴルフにハマり、現在は小中の子ども2人もゴルフをします。しかし、子どもたちは中途半端な感じで、最後までやり抜く力をつけてほしいのですが……。(匿名希望・47歳・HC8)
ゴルフやプロ野球など、さまざまな種目で親子鷹が話題になることも少なくありません。
でも、やれと強制するのは少し違うかな、とは思います。
自分がやりたいというのなら喜んで勧めますし、できる限りのサポートは惜しみません。
ただ、それを職業として選ぶことが目的ではないこと、ほかのスポーツなどにも挑戦し、若いうちにさまざまな経験を積んで、なるべく広い視野を育むようにアドバイスしますね。
ゴルフは自己申告制の個人競技で、勝つも負けるも責任は自分。
練習も基本一人。
そのためなのか、人とのコミュニケーションは不要に思え、練習に打ち込めば打ち込むほど視野を狭くしかねません。
マジメで熱心なゴルファーが往々にして壁に当たって悩んだり迷ったり、スランプに落ち込んでしまうことがあるのも、ゴルフのそういう特性が影響しているかもしれません。
その点、団体スポーツは違います。
野球なら基本のキャッチボールでは、相手が捕球しやすいところへボールを投げることが求められます。
それは、実際のゲームの中で捕球したときに、どこへどんなボールを投げればいいかを考えることにつながり、ひいてはチームプレーを学ぶことにつながっていきます。
そう考えると、子どもにはなるべく多くのスポーツを経験させてあげたいと思いますね。
どんな動きが自分に向いているのか、どういう競技が面白いのか。
試している中から、自分で自分の好きな道を発見する。それが理想ではないでしょうか。
親御さんがスポーツ選手だった場合、子どもに対して「私の子なんだからできるはず」と思うのが自然かもしれません。
ですが、子どもは親のコピーではありません。
両親ともが優秀な運動選手だったとしても、子どもがスポーツ万能とは限りません。
親子鷹が存在するとはいえ、その確率はどのくらいか。
自分にできたからといって子どももできると決めつけるのは良くありません。
まして自分にできなかったから子どもに夢を果たしてもらいたいと願うのは、その子にしてみれば迷惑な話ですよね。
子どもたち本人が自分からやりたいといえば、全力で支えてあげてほしい。
ですが、まず本人が何をやりたいのか、きちんと話し合うべきでしょう。
子どもたちが自分の意思をはっきり表明できる時期に達しているかどうか、その見極めも大切なポイントですね。
親子の関係というのは、オープンなようでいて堅苦しくもなりえます。数ある対人関係の中でも複雑といえます。
「子どものため」と口では唱えながら、ステージママもいたり、我が子だからこそ客観的に評価することができない親は多いです。
質問の中に、ゴルフに対する子どもたちの姿勢が中途半端に見えてしまい、最後までやり抜く力をつけてほしいと書いてありました。
真面目に取り組んでほしいという意味なら、もちろん同感します。
でも、何をもって最後までやり抜くことになるのでしょうか?
もしかして、やる以上はプロを目指せというのなら無条件に賛成はできません。
私は思います。
ゴルフはプロになるハードルより、プロになってからのハードルのほうがずっと高くて厳しいことを。
プロゴルファーになれたとしても、そこはゴールではないし、プロテスト合格は最後までやり抜くこととは関係ありません。
それを勘違いしている人は多く、それも本人ではなく親のほうが多いかもしれません。
親の欲目やひいき目は、子どものためになりません。
実地指導は然るべきその道のプロに任せて、温かい気持ちで応援しながら、常に第三者的な冷静な目で成長を見守ること──それが親の務めなのではないかとも思います。
「夢中になれるから一生懸命やれるんです、子どももオトナも」(PHOTO/Ayako Okamoto)
週刊ゴルフダイジェスト2022年10月4日号より