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「夜はカレーうどん」「芝の違いは気にならない」馬場咲希の強さの秘密に服部道子が迫る!<後編>

全米女子アマを制した2人のチャンピオン、服部道子と馬場咲希の対談が実現。ここからは、馬場の強さの秘密に服部がさらに深く切り込んでいく。

TEXT/Mika Kawano PHOTO/Hiroyuki Tanaka

服部道子(左)……1968年生まれ、愛知県出身。1984年に高1で日本女子アマを初制覇し、翌年、全米女子アマ優勝。アメリカ、テキサス大卒
馬場咲希(右)……2005年生まれ、東京都出身。今年6月の全米女子オープンで決勝進出、7月全米ジュニア出場、8月に全米女子アマで優勝

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「宝くじ感覚」で申し込んだ全米女子OP

服部 咲希ちゃんにとっては、予選を勝ち上がって全米女子オープンの本戦に出て、さらに決勝ラウンドに進んだのが大きかったと思うわ。

馬場 そうですね。お父さんは予選会を通るとは思っていなかったみたいで「宝くじ感覚で申し込んでみたよ」と言ってました。

服部 全米女子オープンの解説をしていて、そのとき初めて咲希ちゃんのプレーを映像で見て、すごいなって思いました。大きなボールを打つしスケールが大きい。笹生(優花)さんも大きなゴルフをするけれど、また違った意味のスケール感。噂には聞いていたけど、すごい子が出てきたなと感動しました。

馬場 全米女子オープンの予選を通っていなかったら全米女子アマにも出ていないし、あそこですごく世界が広がった気がします。

服部 与えられたチャンスを生かせるのがすごいわね。一つのきっかけが次から次へと大きな試合につながっていく。

馬場 もともと海外で戦いたいと言っていたんですが、出たことがなかったので全然わからなくて。でも経験してみて、これからのことがイメージできるようになりました。夢に一歩近づけたかなって思います。

服部 どんな舞台でも、それが特別な舞台じゃなく自分の舞台にできて楽しめるっていうのは持って生まれたものだと思うわ。

馬場 ネリー・コルダに憧れていて、彼女に会ったときはちょっとドキドキしましたけど、アメリカはとにかく楽しくて、緊張より楽しさのほうが勝っていました。

服部 向こうの雰囲気はウェルカムだし、外から来た人でも良いプレーは認めてくれる。フェアだし開放感がありますね。


馬場 服部さんはアメリカの大学に行かれたのですよね?

服部 私の場合はプロになるつもりはなかったんです。だからアメリカの大学に行く選択をしました。勉強は大変だけれど、すごくいい経験だったし大きな財産になりました。でも咲希ちゃんの場合は明確にプロというビジョンがあるから一概に大学をお勧めすることもできません。3月に高校を卒業してアメリカの大学が始まる9月までをどうするか、っていう問題もあるし。

馬場 大学に行きたい気持ちはあります。でも今は海外メジャーで勝つという大きな目標に向けて自分がどうするのがいいか、プロテストに受かった場合、受からなかった場合などを想定しながら、いろいろな選択肢を考えているところです。

服部 大学の専攻がビジネスだったので、卒業したら商社に就職するものだと思っていたんです。今みたいにSNSもないし、4年間で日本に帰ってきたのは2回だけ。完全に浦島太郎状態。そうそう(全米女子アマの)トロフィも船で1カ月かけて送られてきた時代ですから今とは全然違うの。

馬場 1カ月ですか?

服部 そう。で、アメリカから帰ってきたら母が勝手にプロテストに申し込んでいたんです。夏に帰国して就職は翌年の4月。プロの資格を持っていれば就職に有利だって言われてノンプレッシャーで受けたらトップ合格してしまったんです。そこからはもう考えもしなかった世界に導かれた感じ。

そうそうたる名前が刻まれた全米女子アマのトロフィ。ひときわ目を引く「1985 MICHIKO HATTORI」「2022 SAKI BABA」の刻印

騒がれていても気にしない

馬場 私も東海クラシックの推薦をいただいて出るんですけど、服部さんもアマチュアのときに出場されていますよね?

服部 ええ、地元が愛知なので。中2でプロ初試合でした。プロの試合に出始めてからは自分でも訳がわからなくて、どうしてこんなに騒がれるんだろうと思っていました。咲希ちゃんはちゃんと自分が置かれた状況がわかっているし上手にコントロールできていると思いますが、当時は家に帰るとサイン書いておいて、と色紙が山積みにされていたり、電話がひっきりなしにかかってくるので戸惑いましたね。

馬場 私も優勝したときは普通にうれしかったですけど、帰国する前にゴルフをやっていない友達から「ニュース見たよ」って連絡があって、えっ? ニュース出てるの? と驚いて、帰りの飛行機の中でニュースを見たら自分が映っててびっくりしました(笑)。でも今はあまり気にしないほうがいいかな、と。普段通りに過ごそうと思っています。坂詰(和久)コーチにいつも「咲希のいいところは何も考えていないことだよ」って言われるんです。「ボケッとしててアホだ」とよく言われるんですけど(笑)、それを逆に長所だと思って何もわからない感じでいけたらと思っています。

服部 これからマスコミに追いかけられて、取材で毎回同じことを聞かれたりするのはつらいと思う。咲希ちゃんはまだ17歳だし、取材する側も我先にと群がらず温かい目で見守ってもらいたいですね。マスコミといい関係を築くのは大事だけれど、取材攻勢が続くとだんだんボディブローのように効いてきて、少し放っておいてほしいと思うはず。モチベーションをそがれたりしたら困りますからね。これ、私から(マスコミへ)のお願いです。その代わりじゃないですけど、マスコミの方が喜びそうなことを聞きますね。好きな食べ物は?

馬場 あははは。カレーうどんとラーメンです。

服部 パスタは?

馬場 あんまりですけどスープパスタは好きです。

服部 アメリカでは何を食べているの?

馬場 ハンバーガーかピザかカレーうどんを食べています。夜は日本から持って行ったカレーうどん。夜ピザとかを食べると胃もたれするのでうどんに決めてます。

服部 料理はします?

馬場 しませんけど卵を割るのは得意です(笑)。

服部 卵割るのって難しいですよね。アプローチと同じで感覚がね。

馬場 卵とアプローチ?

服部 両方とも感覚が大切でしょ。咲希ちゃんは大きなショットだけでなくアプローチも上手いけれど、意識していることはありますか?

馬場 中学生の頃はグリーン周りでバーンッて速く振っていたので、飛んだり飛ばなかったり不安定でした。ゆっくり振るようにしてからキャリーが安定して、いい感じになってきました。

服部 アメリカと日本で芝の差を感じることは?

馬場 芝は国内でも海外でも気にならないですね。よく練習している鳴沢の芝も特殊だと言われるんですが、それも感じたことはないし、アメリカも同じかな、って。

枝葉よりも幹が大事

服部 日本人選手が苦労するところだけれど、咲希ちゃんは背も高いし上から打てるから気にならないのかもしれないわね。払い打ちをする人は気になるでしょうね。そういった意味でも本当にポテンシャルが高い。坂詰コーチに習い始めたのはいつ?

馬場 中1からです。もともとドローが持ち球で引っ掛けに悩んでいたんですが、坂詰コーチに打ち方とかじゃなく体の使い方を教えてもらったら自然にフェードが打てるようになりました。昔は手打ちでドローだったんですが、体を使えるようになって自然にフェードも打てるようになりました。

服部 チェックポイントはありますか?

馬場 悪いときは右足の蹴りが強すぎて体が浮き上がっちゃうので、そこは気をつけています。

服部 枝葉より体の幹の大きな部分が大事。細かいことを気にしだすと振ることを忘れたり、体の大きなエンジンの部分を使えなくなったりするので、坂詰コーチはよくわかって教えていらっしゃると思います。咲希ちゃんはナショナルチームに招聘されましたよね?

馬場 はい。

服部 ガレス・ジョーンズコーチはフレンドリーで選手を型にはめることなくマネジメントや攻め方、気持ちの部分を強化してくれる人。漠然と練習するのではなく、きちんと将来に向け何をするべきか指導してくれます。だから最近は男女ともアマチュアからプロになってすぐ結果を出す選手が多いわよね。渋野さん(の全英優勝)から始まって咲希ちゃんも大差で勝ち切った。日本人のメンタリティは確実に強くなっているし、勝ち切る人を見て自分もいけるんじゃないかと思えるようになったのは大きいと思います。

馬場 渋野さんが全英で優勝したときは、テレビで見て感動して泣いちゃいました。最後のパットも強気で「3パットでもいいから入れようと思って打った」と言っててすごくカッコいいな、と。

服部 全米女子オープンの練習ラウンド、渋野さんと一緒に回ったのよね?

馬場 はい。お会いする機会があまりないので回れてすごくうれしかったです。終わった後に話しかけてくれて、食事の話をしたり一緒に写真を撮ってもらいました。

服部 カレーうどんが好きなことは話した?

馬場 あんまり覚えていないですけど話したかもしれません(笑)。

服部 そういう機会をエネルギーに変えてすごくいい形で進んでいると思います。いい意味でアグレッシブに自分でチャンスをつかんでいく姿勢がすごくいい。

「覚醒というより体ができた」(馬場のコーチ・坂詰和久)

「ゆっくり食べる子で、黙ってると2時間くらい食事に時間がかかる。だから「うどんやラーメンが好き」とは言っているのだけれど、去年まで痩せていて体の芯が細かった。それをお父さんにお願いして食べさせて太らせたら(14キロ増量)体幹が強くなって、自然に良くなった。覚醒というより体ができたというのが大きいんです。日本ではまだ形を教えるレッスンが多いけれど、自分は体の動きを教える。ゴルフは物理だから体をこう使えばこうなるというのが歴然としている。パターが入らなくなったときも何も変えない。変えようとするから迷いが出る。リーディング(ラインの読み)が7割と言われている時代に小手先を直しても仕方ないという考え方です」

全米女子アマの勝因は“食事”

馬場 アマチュア規定の改定はすごくありがたかったです。全米女子オープンの予選を通って私はうれしい、うれしい、とはしゃいでいたんですが、お父さんがちょっと複雑な顔をしていたんです。全米女子アマに自費だけで行くのは大変なので、それを考えて悩んだみたいです。でもアマ規定が改定されてスポンサーに支援していただけるようになった。それがなければ行けなかったと思います。

服部 もし改定が1年遅れたら状況は違ったでしょうね。やっぱりそういう星の下に生まれているのね。(援助がなければ)もし行けたとしても、カツカツでゴルフに集中できなかったかもしれないものね。

馬場 来年の全米女子オープンはペブルビーチなので楽しみです。

服部 あそこのフレンチトーストがすごく美味しいの。絶対オススメ。

馬場 はい。でもカレーうどんはいっぱい持って行きます。

服部 こだわりはある?

馬場 歯ごたえのある讃岐うどん系が好きです。

服部 稲庭派じゃないのね。

馬場 はい(笑)。全米ジュニアはゴルフの調子が良かったんですが試合で痩せちゃって体力不足で負けました。その反省から、全米女子アマでは食料をたくさん日本から持って行って朝はこれ、ラウンド中はこれ、というように計画を立てて食べていました。それが勝ちにつながったんだと思います。

服部 お腹が空いてから食べるんじゃ遅いし、ノドが乾いてから飲むんじゃ遅いんですよね。全米女子アマは6日間の長丁場だし、私も8月の暑いときの試合とかカリンコリンになっちゃってたわ。

馬場 カリンコリン(笑)。坂詰さんが服部さんのことを昔から知っていて、楽しい方だって話してました。

服部 あら、余計な武勇伝とかを聞いてないといいけど(笑)。全米女子オープンで坂詰さんが咲希ちゃんのキャディだったので、思わず帰国されてから電話して話し込んでしまいました。対談したいって言ってるからよろしく、って言われました。

馬場 願いが叶ってうれしいです。

服部 最後に今後の目標を聞かせてください。

馬場 海外メジャーに勝つことが目標ですが、理想はプロの試合に勝ってプロ転向してアメリカに行くことです。そういう道を歩いている方がいらっしゃるので私にも可能性があるかな、って思っています。

服部 いい星の下に生まれている咲希ちゃんですもの。きっとできますよ!

週刊ゴルフダイジェスト2022年10月4日号より