【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.94 風が強いほどスウィングは良くなる? 渋野日向子に学ぶ強風ラウンドの効用
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
PHOTO/Takahiro Masuda
2019年に渋野日向子さんが全英女子オープンで優勝したときは、パッティングも強気で、感覚も鋭いし、僕の好きなタイプのプレースタイルやから嬉しかったです。
ただ僕は当時、彼女の今のゴルフでは翌年のロイヤルトゥルーンでは通用しないと思いますとコメントしとるんです。メジャー勝者に対してすごい失礼やったとは思いますが、開催コースのウォーバーンは内陸のパークランドのゴルフ場やったから、彼女のような上から止める空中戦のゴルフが通用したけど、トントントンと手前から転がしていく地上戦が求められるリンクスは厳しい思いました。そしたらやっぱり、翌年のロイヤルトゥルーンでは、彼女の調子もあまりよくなかったのもあるやろうけど予選落ちでした。
でもその2年後の今年は、トップの2人に1打差の3位。テレビで見とっても、土壌の硬さと風向きに対して、自分がどの球を打てばどれだけの距離を転がるかとか、そういうリンクスの攻め方をわかっとりましたね。この2年間でゴルフが上手くなったいうのはもちろんやけど、それ以上に、その場の状況に応じて“七変化”を遂げる対応ができるいう、その順応性と感覚が素晴らしかった。
風が強いところに行くと、スウィングがおかしくなるいう人が多いけれど、僕は逆や思いますね。ビンビンに風がきたらもう、低い球はこうやって打つとか、そんな理屈でやるゴルフは通用しなくなる。そうなると余計なことを気にせず振れるので逆にスウィングはよい状態になります。
渋野さんは、2020年あたりからスウィング改造しとって、今年はスウィングに悩んでいたとか言われとりますけど、スウィングはよくなっておるんですよ。でも結果が出ておらんから振れなくなる、それがまずいわけです。
でも全英のような風の強いリンクスで下が硬いところでプレーするとなったら、もう考えてもしゃあないと開き直って振ることに専念できた。余念が入らない本来のスウィングができたんや思います。その結果がメジャー3位。強風下のラウンドは、今の自分のゴルフの状態を知るうえでの絶好のチャンスです。
「開き直って余念が入らない本来のスウィングができたんや思います」
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2022年9月6日号より