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【ノンフィクション】コンプレックスだった“背の高さ”が大きな武器に! 和製ネリー・コルダ、馬場咲希17歳

7月某日、全米女子ジュニア、全米女子アマ出場を控えた馬場咲希の姿は八王子のゴルフ場にあった。ラウンドを終えると、同伴していたヘッドプロが「ノーボギーの66だよ」と、半ば“お手上げ”といった顔をした。そのゴルフを評して「カップしか見ていない」。全米女子オープン出場、予選通過で話題になった馬場の視線の、その先にあるものとは……。

TEXT/Masaaki Furuya PHOTO/Hiroyuki Tanaka THANKS/GMG八王子ゴルフ場

飛ばし屋とは言われますが
アメリカでは“普通”でした

人はそれぞれの見る位置や状況、年齢などによって、同じものを見ていても全く違う見方をしているものである。

この『異なるビジョン』によって、その人の人生が大きく変わることも少なくない。

日本での最終予選会を通過して、全世界の女子競技ゴルファーの憧れである全米女子オープンに出場した馬場咲希は、まだ17歳だ。練習ラウンドで選手用のレストランにいるときに、彼女の目を奪ったのは、突然、部屋に入ってきた憧れのネリー・コルダだった。

「一瞬でわかりました。雰囲気が完全に“ネリー・コルダ”でした(笑)。背が高くて、顔が小さくて、スタイル良くて。そしてあのお団子ヘアで、すぐにネリー・コルダさんだってわかりました」

その後、練習場でドキドキを抑えてお願いし、2ショット写真をゲットした。本戦中も、1番ホールでコルダが多くのギャラリーに囲まれてショットを放ち、颯爽とスタートをしていく姿を練習グリーンから見て「本当にカッコよかった」と、そのシーンを焼きつけた。

馬場は、この全米女子オープンで見た光景を胸に、いつかは自分もコルダのように、一瞬でわかるようなオーラがある選手になって世界の舞台でプレーをしたいということを、改めて強く思ったという。

憧れだけでなく、全米女子オープンでは今後につながる爪痕も残してきた。

馬場は、通算3オーバーの59位で予選をクリア。日本人のアマチュア選手による全米女子オープンの予選通過は8年ぶりのことだった。決勝ラウンドに入り3日目は、4バーディ、3ボギーの「70」で、この日プレーした5人の日本勢で唯一のアンダーパーとなった。

その3日目に、彼女は今までにない経験をした。

16番ホール(パー3)で、ティーショットをグリーン奥に外してしまい、2打目にとんでもなく難しいアプローチを残してしまう。打ち出しは上りで最後は下る、いわゆる馬の背の起伏へのアプローチで、おまけにラインに対して右サイドも下り傾斜になっている。ボールからカップまでの距離は18ヤードで、馬の背の頂点からカップまでは10ヤードという状況だ。狙い所は起伏の頂点のやや手前の、ここしかないという一点。そこを目指して「ちょっと柔らかめの、ちょっと止めるような、その後にコロコロ、ポトンみたいな」という17歳の感性のまま58度のウェッジで、打った。

この16番ホールのグリーン周りにはギャラリースタンドがあり、多くのギャラリーがこのプレーを見守っていた。本人は思った通りに打てたので、「これは寄ったな」と思った。直後にギャラリーの「ゲットイン!」「ゲットイン!」の歓声が湧き起こった。それを聞き「え、これ入るの?」と思っていたら、コロンとボールがカップに沈み、ドーンというどよめきがグリーンを覆った。青木功がよく「ゴルファー冥利に尽きる」と表現する、欧米の試合でスタンドを埋め尽くすギャラリーが熱狂するなかでプレーをする快感を、彼女は少し味わえたのである。

「あんなの経験したことないし。ギャラリーの人たちが多いホールでそれができたので、ほんとにヤバかった。ヤバくって、スゴすぎて、もう走っちゃうくらい興奮しました」

幼少時代に嬉しくて走り出したくなった経験がある人も多いだろう。17歳の喜びと興奮が伝わってくるようではないか。

この3日目の16番ホールでのプレーは、彼女のなかで特別なビジョンとして長く保存されることになった。


7月18日からアメリカ・ケンタッキー州で行われた全米女子ジュニア選手権に出場した馬場は予選をトップ通過。メダリストとなった。右の写真2点は、全米女子オープンの際、ネリー・コルダ、アニカ・ソレンスタムに声をかけてのもの(写真提供:本人)

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身長175センチ
「背が高くて良かったと今は思えます」

馬場咲希が5歳でゴルフを始めたのは、父・哲也から勧められたのがきっかけだった。その際のエピソードが、ちょっと変わっている。

幼稚園のお遊戯会のときに、壇上で咲希は友達と4人で並んで、一人ずつ短いセリフを言う順番を待っていた。哲也が見ていると、不安からか緊張からか咲希は明らかに落ち着きがなく目がキョロキョロしていた。咲希自身、後にビデオ映像を見て「こんなに……」と思うほど、自分の挙動はおかしかった。この時に哲也は「小さい頃から身長が高く、ほかの3人に比べて頭一つ出ているから、みんなから見られているという意識が強くて、それで緊張していたのだろう」と思っていたという。

哲也が言う通り、このときに咲希にはほかの子供たちとは違う『異なるビジョン』が目の前に広がっていたのだろう。ファッションモデルの冨永愛は、背が高かった幼少期に「宇宙人」と揶揄され「死にたいほど自分の高い身長が嫌だった」という。それがやがて日本を代表するモデルとなった。この冨永のように、コンプレックスを逆手に取ればとんでもない長所に転じることがある。それを感じ取った哲也は「スポーツなら背が高いことが有利になることが多いし、自信につながってくれるかなと思い、それでゴルフをやらせようと決めたんです」と言う。

ジュニア時代に芽を伸ばす選手には、人とは『異なるビジョン』を持った親の存在があるものだ。馬場哲也もまた、そういった父親の一人である。

娘の咲希がゴルフを始めて3年後の七夕、「プロゴルファーになりたい」と書かれた短冊を見た哲也は、娘にコーチをつけてあげようと思った。

「もともとはドロー系だったけど今はフェードが持ち球です。ゆくゆくはコースや天候によってドローもフェードも両方自在に打てるようになればと思っていたので。また、スライスがきつくなったらドローを打たせたり、フックが出たらフェードのイメージで曲がりを修正するといったことも、二つの球筋を習得しておくことで、やりやすくなると思い、コーチにお願いしました」

フェードを教えるコーチは坂詰和久で、全米女子オープンにも同行、咲希のキャディを務めた。

咲希が全米女子オープンに出られたのも、父の独自のビジョンのおかげである。「出てみれば」という哲也の勧めで臨んだ全米女子オープンの最終予選会は咲希の誕生日と重なる4月25日だった。自分の誕生日に、158人中6人という激戦をくぐり抜けて本戦切符を手にした娘を、是が非でも、夢の舞台に立たせるため哲也は奔走した。

今年の1月1日からのアマチュア規定の見直しでアマでもスポンサーのサポートを受けられるようになった。哲也は娘の将来のためにスポンサー探しをした結果、12社が名乗りを上げてくれ、全米女子オープン時には、その12社すべてがたった1試合、ウェアやキャップにワッペンを貼るだけの「スポットスポンサー」に応じてくれた。スポンサーと哲也のおかげで、憧れの全米女子オープンという世界一の試合に出場することができた咲希は、感謝を素直に口にした。

「全米女子オープンはスポンサーさんの支援があって、本当にギリギリで行けたという感じです。それを実現してくれたのはお父さんです。感謝するのは当たり前のことですね。今まで12年間ゴルフをやってこられた、それは全部、お父さんのおかげです」

身ぶり手ぶりを交えながらイキイキ話す馬場。最近は英会話のレッスンにも励んでいるという

見られることも気持ち良いと
思えるようになりました

それにしても去年までほぼ無名だった馬場咲希が、どうして今年こんなに注目される選手になったのか。そこには17歳の少女のこんな想いがあったのだ。

「私は、もともとは人前に出るのが好きじゃなかったんです。ゴルフを始めてからもずっと、背が高いことで見られるのが嫌だと思っていました。それが中学生になったくらいから、背が高くて良かったなって思うようになったんです。アイアンショットでスピンの利いた球が打てたり、ドライバーでアークの長さを生かして270ヤード飛ばせたり。それは、私が背が高いからだって思ったから」

今では、あれほど嫌だった背が高いことを誇りに思うようになっていた。

「今年、プロの試合に初めて出たヤマハレディースで、背が高いからみんなに見られるんですよ。それが本当に気持ち良いなって思えたんです」

年頃の女の子は、“人から見られたい”と思うものである。5歳のときに友達よりも頭が一つ抜けていることで緊張を強いられたビジョンが、17歳になった馬場咲希には自分を盛り上げてくれるビジョンに変わったのだ。

馬場咲希と哲也親子には、試合に向かう車で聴く曲がある。和田アキ子とm-floとのコラボの『HEY!』だ。

「『デカく当ててやれ』とか『ここで決めなきゃね』『飛ばせ遠くまで』っていう歌詞がゴルフの試合に向かう気持ちにぴったりで、メッチャ上がる」と咲希は言う。

親子でラップ調の曲で盛り上がる、しかも和田アキ子が歌う曲という、普通はあり得ない光景を想像するだけで、こっちも気持ちが上がってくるではないか。

全米女子ジュニア選手権でも大活躍した馬場咲希は、世界に向けて新たなビジョンを見据えている。

※文中敬称略

夏場は特に体重が落ちやすいという馬場。1日5000キロカロリー以上を摂取するようにし、フィジカルトレーニングにも力を入れている

週刊ゴルフダイジェスト2022年8月9日号より