Myゴルフダイジェスト

「飛距離を捨てた」「言語化する」女子プロたちの心に響いた宮里藍の“金言”

先月行われた「ブリヂストンレディスオープン」に、宮里藍が登場。ジュニアゴルファー、若手プロたちから質問を受け付けた。トークセッションに参加した桑木志帆と佐藤心結に話を聞くと、それぞれの心に響く言葉があったという。

PHOTO/Shinji Osawa、Hiroaki Arihara

「悪かった原因はなんなのか。しっかり向き合うと
前向きに切り替えることができる」(桑木志帆)

宮里のトークセッションに参加したのはアマチュア11人とプロ5人。参加した桑木のノートは数ページに渡って書き込みがびっしり。本人にその内容を解説してもらうと……。

「参加者がさまざまな悩みを相談したんですけど、まず『藍さん自身が悩んでいた』という話がありました。飛距離が出ないことに悩み、飛距離アップを目指してフィジカルトレーニングに励んだら逆に調子が悪くなり、なんとイップスのようになってしまったそうです。そこで藍さんは飛距離を“捨てた”というんです。一方で自信のあったパッティングで勝負するようにした、と。スタイルを確立したんですね。元世界ランク1位の藍さんが悩んでいたことがあるなんて、しかもイップスだなんて驚いてしまいました」

そこで桑木は自分なら何で勝負するか考えたという。「やっぱり飛距離が武器になるかな、と。私はまだ何も“捨てる”部分はない段階ですが、いいところをどんどん伸ばしていこうと思いました」。桑木のドライビングディスタンスはリシャール・ミルヨネックスレディス終了時で245.71ヤード(8位)。飛距離を自身のゲームの“軸”にする考えだ。ちょっと調子が悪くても、ブレない軸があれば自信につながる。桑木は宮里とのトークセッションが行われた次の試合でレギュラーツアー自己最高の4位をマーク。さっそく結果が出ている。

私の強みは飛距離
これを生かしていきます

リゾートトラスト4位、リシャール・ミルヨネックスレディスでは12位タイと調子が上向き


「自分の長所を把握し、書き残すのも大事だと藍さんは話していました。逆に悪かった部分も書き出して、照らし合わせるのもいいと。それで、私も練習や試合で気づいたことはなるべくスマホのメモに残すようにしています。藍さんは言語化が大事だとおっしゃっていましたが、技術面の言語化って難しいんですよ(笑)。だから私は『スパーンよりバーンのイメージ』のように擬音語や擬態語を入れてます。メモは自分しか見ないので私がわかればいいかな、と思って」

また、桑木が気になっていたというのが気持ちの切り替え方。「春先、予選落ちが続いていたんです。そんなとき『ホテルに帰ってからけっこう病むんですけど』と藍さんにお話ししたんです。そしたら、藍さんはキャディバッグを宿舎に持ち帰らなかったという自身の経験を話してくれました」。コースで起きたことはコースで終わらせる、というのが宮里流の切り替え方だったという。

桑木は「さすがに私はキャディバッグを置いて帰ることはできなくて、今でも宿舎に持って帰り、練習もするんですけど『ここまで』と区切りを決めて、それ以降はゴルフのことは考えないようにするなど工夫しています」。宮里の場合、ただバッグを持ち帰らない、宿舎で練習をしない、だけではない。自分のプレーの何が良かったか悪かったかの検証をコースで終わらせていた、ということ。

「特に悪かったことは10個でもメモして、その原因はなんだったかしっかり掘り下げたそうです」。試合ではいいことばかりでなく、悪いことも当然起きる。「なんで?」と思ったら、そのモヤモヤを放っておかず、しっかり原因をつきつめて把握する。原因がわかっているから安心感が得られて「また次から頑張ろうと前向きに切り替えられると話していただいて、なるほどー、と。参考にしています」

悪かったことと向き合うのは辛い作業だが、それをしっかりすることで気持ちが切り替わる、前向きになれる、よく眠れる。宮里の言葉はゴルフだけでなく、日常生活や仕事の面でも助けになる。アマチュアゴルファーの皆さんもぜひ参考に。

【桑木の気づき1】
「藍さんはパッティングで勝負するスタイルを確立した。自分の長所を把握してブレない“スタイル”を作る!」

「調子がいいときにやっていたこと
食べたものもメモ。“無意識”はNG」(桑木)

また、宮里は自身のイップス克服法にも言及。これさえやれば直るというような“魔法”は「ないよ」と話したという。「一日一日の積み重ね、だそうです。そんななかで、これまで無意識にやっていたことをリストアップして、そこから原因を追究し、悪くなった理由を把握するとのことでした」。ここでも、宮里は“メモ作戦”を伝授した。「技術面だけの話ではなくて。たとえば食べ物とか」。女性は体調にリズムがあり、アスリートにとって悩みどころではあるが「藍さんは食べ物に気を使っていたそうです」。ここでも、これさえ食べればいいという“魔法”があるわけではなく「こういうものを食べた」とメモ。すると、メモを見返していくうち、こんな食べ物をとっていたときは調子が良かったとわかるようになる。

「私は試合の前日と当日の朝、あまり食べすぎないほうが調子がいいというのがわかってきました。だから、ドカンと食べることはしなくなって、その代わり、試合中もちょこちょこと栄養補給をするようにしています。食べるのはゼリー飲料のほか、おにぎりやバナナなどです」

そのほか、宮里の話から学び、生かしていることについて「キャディさんとのコミュニケーションもあります。藍さんは距離以外のことは聞かなかったそうです」。それがすべての選手に「いい」と当てはまるわけではないが、要は「自分がどうしたいか、キャディさんに意思をしっかり伝えることが大事」と桑木は感じたという。

また、練習ではうまくいくのに、本番ではその通りにできない。ゴルファーにつきものの悩みについては「練習場で自分にプレッシャーをかけた練習をするというお話をしていました。練習場でただ漠然と球を打つだけでなく、常に試合を想定した練習をということだと思います。私も普段から気をつけているつもりでしたが、藍さんのお話を聞いて以降、より具体的なシチュエーションをイメージをして、考えながら練習をしています」。ここでも、メモは活躍。「どうしても感覚に頼りがちになるのですが、感覚って消えやすいので。藍さんはリズムがこうだった、腕の力み具合がこうだった、〇割のスウィングでちょうどよかった、など細かに記録していたそうです。それをメモに残しておけば確かに安心だと思います」。調子が落ちた時の“お守り”になってくれるはず。

「あとは、やっぱり調子が悪くなったときの切り替えが気になっていたんですが、藍さんは『感情だけで判断しない』と話していらっしゃいました」。桑木は「自暴自棄にならないことだなと思いました。自暴自棄というのは『今日はダメだ、もういいや』となっちゃうアレです(笑)」。アマチュアゴルファーも必ず思い当たるフシはあるだろうが、実はそれはプロも同じ。しかし「もう、いいや」と諦めず拾った一打一打が勝負を左右することもあれば、次への“きっかけ”になることもある。

宮里は、イップス克服の際の自身の体験として「魔法はない。でもきっかけをつかんだ人は強いと思う」と話したという。きっかけをつかむには積み重ねだ。桑木も「もういいや」は封印。「藍さんは『感情だけで判断しない』に続けて『なぜミスしたか10個書き出すなど、思い返すことが大事』ともお話しされていました。しかも、藍さんはそれをゴルフ場で完結させちゃうんですから、やっぱりすごいですね」。さまざまな気付きを得た桑木はまだ19歳。スポンジのごとく宮里の言葉を吸い上げたようだ。

宮里はこのブリヂストンレディスではトークセッションのほかにも小学生のゴルファーを対象としたレッスン会で子どもたちのいいところを褒め、さらに一歩上のレベルに上がるためにアドバイス。サントリーレディスでの大会に出場するアマチュアたちと座談会も開いた。藍の金言を胸に飛躍する若き選手の活躍が今から楽しみだ。

【桑木の気づき2】
良かった時、悪かった時の行動を記録しておくことで“次”が見えてくる

「緊張時の“フワフワ感”の正体が
わかりました」(佐藤心結)

女子ゴルフ界のレジェンド、宮里藍さんのお話を直接聞けるなんてすごくいい機会をいただきました。参加する前からドキドキしてしまって……。質問は挙手制だったのですが、最初に手を上げられなかったです(笑)。でも、自分の質問はもちろん、ほかの選手の質問への回答もすごく参考になることばかり。特に心に残ったのは試合中緊張しているときのことです。

藍さんが「緊張しているときは、重心が上がっていることが多い」ということをお話ししていて、ハッとしました。そういえば、試合中、緊張した場面で体がフワフワした感じになることがあって「ああ、重心が高くなっていたんだ」って。自分では気づいていませんでした。それを聞いてから、試合中にフワフワを感じたら「重心を低く」と心がけています。

私は4月から予選落ちが続いていて、プロとして落ちるところまで落ちたと思っていたんですが、世界ランク1位経験者の藍さんも苦しんだことがあるとお話しされていました。そんなときに「魔法はないよ」と。でも、日々の積み重ねできっかけはつかめるんだと。改めて「自分も這い上がっていきたい」と思えるようになりました。

参加した面々。左上から、桑木志帆、永嶋花音、星野杏奈、佐藤心結、吉田優利、宮里藍、阿部未悠

週刊ゴルフダイジェスト2022年6月28日号より