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【さとうの目】Vol.253 最後まで読めなかった全米プロ。トーマス大逆転Vの陰にあった父のアドバイスとは?

鋭い視点とマニアックな解説でお馴染みの目利きプロ・佐藤信人が、いま注目しているプレーヤーについて熱く語る連載「うの目、たかの目、さとうの目」。今回は、ジャスティン・トーマスの優勝で幕を閉じた全米プロの熱戦について。

PHOTO/Blue Sky Photos

今年も全米プロの解説をしました。1ホールどころか1打ごとに戦況が変わり、これほど展開が読めないメジャーも珍しかった。最後まで優勝スコアが予想できない、手に汗握る大会となりました。

それを演出したのは18年夏に行われた人気設計家、ギル・ハンスによるコースの大改造でしょう。また選手に一瞬たりとも気を緩ませないコース管理も見事でした。大会に関わったすべての人がプロフェッショナルで、それが見る者を興奮させ続ける大会にしたのだと思います。


試合は、最終日のスタート前は首位と7打差、一時は8打差にまでなったジャスティン・トーマスが、プレーオフの末に逆転優勝。17年の全米プロに続くメジャー2勝目、通算15勝目を挙げました。大会を最後まで引っ張ったのが、ミト・ペレイラ、ウィル・ザラトリス、マシュー・フィッツパトリック、キャメロン・ヤングの4人。最後はかつてのワールドランク1位の経験が、PGAツアー未勝利の4人を上回ったということでしょうか。昨年は愛する祖父を亡くし、また“問題発言”でスポンサー契約が解除されるなど苦しんだトーマスに笑顔が戻りました。

トーマス自身は、ショットに違和感があるまま大会入りしたそうです。前週のAT&Tバイロン・ネルソンは5位。父でコーチのマイクさんは、アドバイスをしていいものかどうか考えあぐねていました。しかし、息子は「父親である前にボクのコーチ」とアドバイスを求めました。もともと右に左に曲げるのが好きだった息子に、父は「そうして好きに打ってみなさい」とアドバイス。練習場でボールを打つうち芯に当たり始め、初日を迎えたのでした。最終日はホールアウトするまでボードは一切見なかったそう。目の前の1打に集中し、ミスをしても次のショットにテーマを1つ決めて、一打一打を消化することを心がけました。おそらく父のアドバイスの真意も、そういうところにあったのでしょうね。父と子の絆、コーチと選手の信頼関係のもたらした勝利でした。

72ホール目のティーショットだけが悔やまれるのが、大会を終始リードしたミト・ペレイラ。昨年、松山(英樹)くんのマスターズ勝利で、ボクたち日本人は熱狂しました。同じようにチリの人々も中継を見守ったはず。結果は本人も悔しいでしょうし、チリ国民も悲しいでしょうが、彼の活躍はチリのゴルフ界の新たな1ページを開くものだと思います。試合後には「プレーオフに出られなかったのは悔しいが、ポジティブな1週間を過ごせたことに満足している」と笑顔で語っていました。

今回のトーマスの優勝は経験でつかみとったものかもしれませんが、時に経験が足を引っ張るのもゴルフで、R・マキロイ、J・スピースの苦悩はそれを物語っています。PGAツアー未勝利選手がメジャーで優勝争いを演じたことはむしろ経験のなさが生む勢いと言えるかもしれませんが、確実にゴルフ界に地殻変動が起きていることを示しているのだと思います。

「6番・パー3で、右45度に飛んでいく“どシャンク”を打ち、3打目がまだ100Yある場所からボギーでしのいだ。ショットが良くても悪くても一打一打切り離せたのが勝因。優勝争いした選手は皆苦しそうでしたがトーマスは楽しそうに見えました」

佐藤信人

さとう・のぶひと。1970年生まれ、千葉出身。ツアー9勝。海外経験も豊富。現在はテレビなどで解説者としても活躍中

週刊ゴルフダイジェスト2022年6月14日号より