“Tremble Tom(恐怖のトム)”と呼ばれた男(1980ロサンゼルスオープン)【記者が見た“勝負のアヤ”】
記者生活50年を超えるベテラン記者・ジョーが、長い取材生活のなかで目の当たりにした数々の名勝負の中から、いまだ色あせることなく心に刻まれているエピソードをご紹介!
1980年 ロサンゼルスオープン
「優勝するにはスーパーラウンドが必要なんだ」(トム・ワイスコフ)
ジャック・ニクラスと同じオハイオ州立大のゴルフ部出身で、ツアー参戦は1964年。190センチを超える長身から繰り出されるショットは力強かった。73年の全英オープンを含めツアー7勝を挙げたが、豪打と驚異的ともいえるバーディラッシュから“恐怖のトム”の異名が付いた。だが「恐怖」の意味はそれだけではなかった。理由はいたって簡単。気が短く本当に怖かったからで、74年以降は、その長身から、当時公開された映画の題名から“タワーリング・インフェルノ”とも呼ばれた。
190センチを超える長身で、ツアーで一番美しいスウィングといわれた。だが常に怒っているような表情で近寄りがたかった
80年のロサンゼルスオープンでのこと。彼はカメラマンがわずかな音を立てただけでギロッとにらみつけ、スコアが悪くて気分のよくないときなどには、そのまま向かってくることもあった。その日、パットを打つ前だったが、筆者はうかつにも音を立ててしまった。もちろん小さな音だったので普通の人なら気がつかなかっただろう。だがワイスコフは聞き逃さなかった。にらみつけたまま、こちらに向かってくる。グリーンを取り囲んでいるギャラリーは「何があったの」と一斉にざわつき始めた。あと数歩のところまで迫ってきたとき、より一層鋭い目つきでにらみつけると元に戻っていったが、目が座っていて本当に怖かった。
文・構成/ジョー(特別編集委員)
年齢不詳でいまだに現役記者。ゴルフダイジェスト入社後、シンガポール、マレーシアをはじめ、フランス、モロッコ、英国、スイス、スウェーデン、イタリア、アメリカ、カナダ、メキシコ、中国、台湾、アラブ首長国連邦、オーストラリア、ニューカレドニア、タイ、インドネシアなどでコース、トーナメントを取材。日本ゴルフコース設計者協会
週刊ゴルフダイジェスト2022年5月3日号より