【イザワの法則】Vol.18「今ならもっと上手く対処できるはず」マスターズ初出場から21年経った今、思うこと
世界も認めた美スウィンガー・伊澤利光が、ゴルフで大切にしていることを語る連載「イザワの法則」第18回。2001年、初めて出場した「マスターズ」で、伊澤は日本人最高成績(当時)となる、「4位タイ」の成績を残した。あれから20年以上経ち、今、どんな思いがこみ上げるのか。
TEXT/Daisei Sugawara ILLUST/Kenji Kitamura THANKS/福岡レイクサイドCC(PGM) PHOTO/Takanori Miki
タイガーの優勝スコアは
自分の中の想定を上回っていた
今年ももうすぐ、「マスターズ」が開幕します。昨年は、松山(英樹)君がアジア人で初の優勝という、ものすごいことをやってくれましたが、1度勝った実績ができてみると、別に次からも普通に勝つような気がするから不思議です。今シーズンもハワイで勝っていて、調子は悪くなさそうだし、実際、優勝候補の筆頭なんじゃないかと思います。対抗馬を挙げるとしたら、昨シーズンからずっとアイアンの安定感が抜群の、コリン・モリカワ選手でしょう。
ところで、この時期になると、私が初出場した、2001年のマスターズを思い出さずにはいられません。初日の1番ホールから3番ホールくらいまでは、ゴルフが自分の「仕事」だというのを忘れて、すごく楽しかったのを覚えています。試合の途中で「楽しい」と感じたのは、後にも先にもあのときだけでした。
結局、4日間で「10アンダー」、4位タイに入ることができたんですが、上の3人がタイガー(ウッズ)、(デビッド)デュバル、(フィル)ミケルソンで、タイガーの優勝スコアは「16アンダー」でしたから、正直、優勝争いをしたという感覚はなかったですね。ただでさえ難しいオーガスタで、あれだけ厳しいピンポジションで、「えっ、16アンダーも出ちゃうの!?」という感じで、普通に驚きました。それでも、ちょっと「モノが違うな」と感じたのは、その3人くらいで、(パドレイグ)ハリントンとか、(セルヒオ)ガルシアなんかは、確かに上手いけど、「何とかなるな」と思ってましたけどね(笑)。
タイガーの高弾道に触発されて
シャフトを変更した
そういえば、マスターズから帰ってきてすぐ、アイアンの弾道をもう少し高くしたくて、少し先が走るシャフトに替えてみたんです。日本ツアーだと、自分の球はかなり高いほうだったんですが、タイガーやデュバルの弾道は、そのさらに上だったので、それに感化されてのシャフトチェンジでした。でも、結局タイミングが合わなくて、またすぐ元に戻しました。考えてみれば、向こうは身長が180センチ以上もあって、腕も長いから、「そりゃ高い球も出るよな」と。170センチそこそこの自分が、そこで無理に勝負してもしょうがないと気付いたわけです。
また当時は、アメリカツアー用に、バウンスを少なくしたウェッジをバッグに入れていました。それからずっと、ウェッジのバウンスは少なめのままですが、20年前と今だとヘッドの形状が違うので、アプローチの打ち方が少し違います。以前はスピンを入れたいときに、割とはっきりカットに打っていたんですが、今のウェッジは重心距離が長くて、カットに打つとヘッドが走ってしまうんです。だから今は、フェースを開いたままの状態にして、軌道はほとんどストレートに振っています。
初めての「オーガスタ」から、21年が経った今、「もう一度回ってみたい」という気持ちはあります。ゴルフに対する考え方が、当時と今では違うので、今なら「もっと上手く対処できるはず」という場面が、頭にちらちらと浮かぶからです。最近は、「スコアが悪いときに何とかするのがゴルフ」という考えが強くなりました。それが、オーガスタでも通用するかどうか。かなり興味がありますね。
「思うようにスコアが出ないとき
どう対処するかがゴルフの本質なんだとやっとわかった」
カット軌道を弱めてストレート軌道に
今のウェッジは20年前よりヘッドが大きく、重心距離が長い。ゆえに、フェースを開いてカットに打とうとすると当たる直前にヘッドが走りすぎてしまい、思ったよりも左へ飛ぶ傾向がある。今はカットを弱めて、ほぼストレート軌道で打っているという
伊澤利光
1968年生まれ。神奈川県出身。学生時代から頭角を現し、プロ入りしてからは、プロも憧れる美しいスウィングの持ち主として活躍。2001年、2003年と2度の賞金王に輝く。また、2001年、マスターズで日本人最高位の4位入賞(当時)。現在はシニアツアーを中心に活躍中
月刊ゴルフダイジェスト2022年5月号より