Myゴルフダイジェスト

【わかったなんて言えません】Vol.73 矢野東 #1「ツアープロの社会的価値」

「ゲンちゃん」こと時松隆光がプロを招いてトークをする連載「わかった! なんて言えません」。今週からのゲストは、44歳のベテラン、矢野東。一昨年のQTをトップ通過し、昨シーズン、シード権を獲得した矢野だが、決してツアーだけにすべてを注いでいるわけではないようで……。

TEXT/Chiharu Kubota PHOTO/Hiroaki Arihara

ホスト/時松隆光

1993年生まれ、福岡県出身。ツアー通算3勝。プロ10年目。テンフィンガーグリップで戦う。愛称は“ゲンちゃん”

ご指名/矢野東

1977年生まれ、群馬県出身。00年プロ入り。ツアー3勝。14年に12年間守っていたシードを手放すも、昨年見事復帰

時松 矢野先輩は、何か一層体が引き締まったような印象を受けるんですけど、オフは何かやっていたんですか?

矢野 やってない、やってない。いつものオフと同じだよ。

時松 全然、何もやってないんですか?

矢野 相変わらず、今季のツアーに対するすごい意気込みみたいなものはないから、オフも去年と同じだよ。

時松 本当ですか? 去年の特別ファイナルQTで1位になったのに。

矢野 本当、本当。自分の生き方に幅を持たせたいと思っているんだよ。

時松 幅って?

矢野 仕事とツアーと子育てみたいなものをフラットに考えたいと思っているんだ。

時松 どれが優先というわけじゃないということですね。

矢野 そう。

「いろいろな人と会ったり、家族との時間だったり、バランスがとれて、かえってゴルフにもいい影響があるかもしれません」(矢野)

時松 子育てって何をやっているんですか?

矢野 2歳と4歳の子どもを保育園に送っていくんだ。お姉ちゃんは4月から幼稚園だけどね。

時松 毎日ですか。大変ですね。お子さんたちにはゴルフを教えるんですか?

矢野 教えるというか、子どものためのゴルフプログラムみたいなものを作りたいと考えている。そういうことに興味を持っているゴルフスタジオもあるしね。

時松 ゆくゆくはプロゴルファーですか?

矢野 それは本人が決めることで、僕からプロゴルファーになれなんて絶対に言いません。いずれにしても、本人次第だけど、みんなでゴルフができたら楽しいじゃない。

時松 奥さまもゴルフをやるんですか?

矢野 やりますよ。

時松 じゃあ、ちょうど4人で、いいですね。

矢野 ゲンちゃんは、まだ結婚しないの?

時松 結婚どころか、彼女もいません(笑)。

矢野 毎日の保育園の送り迎えは大変だけど、自分には結構嬉しい時間なんだよ。子どもと触れ合える貴重な時間だからね。その空き時間を使ってトレーニングはガンガンやってます。

時松 やっぱり鍛えてはいるんですね。練習はどうなされているんですか?

矢野 自分自身の練習は、今年に入って2日か3日ぐらいだったかな。あとはアマチュアのお客さんとのラウンドが、練習代わりになっているかもしれない。昔みたいに合宿したり、みんなで練習したりというのは、まったくないね。

時松 やっぱり新型コロナウイルスのせいですか? みんな海外合宿ができなくなって、宮崎とか沖縄、宮古島なんか、プロゴルファーが芋の子を洗うようになってます(笑)。

矢野 コロナは関係ない。昔は海外合宿とかよくやってたけど、それで開幕ダッシュした年って記憶にない。それに今、オフは自分にとって人と会う時間として貴重なんです。これから開幕まで、スケジュールで空いている日は1日か2日しかないんだ。

時松 仕事でいっぱいということなんですか?

矢野 そう。たとえばゴルフスタジオの監修とか、自分のユーチューブチャンネルとか、あとは東京で“チームアズマ”という会員制のクラブみたいなものをやっている。40代前後の若手の経営者の方たちが12人ぐらいいるのかな。

時松 へ~え、すごいですね。やっぱり東さんは、ただのプロゴルファーじゃない!

矢野 ゲンちゃんもユーチューブやってるでしょ。

時松 やってますけど、なかなか更新できないんです。

矢野 どんどん新しいのをアップしないとダメだよ。交流している若手経営者に「やったほうがいい」とすすめられて始めたけど、「これだ!」という方向性を決めなくていい。いろいろな人と会って、そのコミュニケーションのなかから仕事につながっていくものが出てきたりするし、人としての可能性が広がると思っているんだ。

時松 すごいですね。僕なんかそういう発想はできません。

矢野 まだゲンちゃんは、若いから今のままでいいけど、やっぱり年齢的なものもあるんだと思う。怪我をして、ゴルフが上手くいかなくなったときに、ツアー一本でやっていくのは……まあプロスポーツは全部そうだけど、もしダメになったら、やっぱり身動きが取れなくなる人が多いじゃない。だけど、いろいろな人と会って話をしているうちに、ツアープロの価値っていうものは、結構社会的に高いと思うようになったわけ。

時松 ツアープロの社会的価値ですか。

矢野 そういうものを発信するためにも、ユーチューブはどんどん更新したほうがいいと思う。

時松 はい、わかりました。

週刊ゴルフダイジェスト2022年3月29日号より