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「いい子が多い」「発信上手」「チームで育つ」世界で活躍する“Z世代” 強さの秘密に迫る

ゴルフに限らず、北京五輪や他のスポーツを見ていても、アスリートの「変化」を感じるようになった。「Z世代」と呼ばれる現代の若手アスリートに共通する、競技への取り組み方や考え方について、専門家たちに分析してもらった。

PHOTO/Shinji osawa、Tadashi Anezaki、Hiroyuki Okazawa、Hiroaki Arihara

「Z世代」とは……
1990年半ばから2010年代に生まれた、25歳くらいから下の世代

アメリカで生まれた、世代を表す言葉。1960~70年代生まれをX世代、1980~90年代に生まれをY世代(ミレニアル世代)と呼び、XとYの次世代という点からZという名称に。この世代のキーワードに「デジタルネイティブ」「SNSを使ったコミュニケーションに長ける」「対人関係を重視するが他人からの評価を気にする」「自己実現や社会貢献に対する欲求が高い」「モノだけでなく体験も重視」「グローバル感覚に優れる」「ダイバーシティを尊重」「地に足のついた経済感覚」「親と仲がいい」などがある

SNSを懐に、志を胸に
デジタルを駆使し努力する

ゴルフに限らず、あらゆるスポーツにおいて目覚ましい活躍を見せる「Z世代」。旧世代アスリートとの違いについて、数多くのアスリートを取材してきたノンフィクション作家の平山譲氏はこう語る。

「デジタル技術革新が社会に急速な進化をもたらしていますが、それがアスリートにも起きているということではないでしょうか。たとえばプロ野球のキャンプでは、昔は『人を見て倣い、人に聞いて習う』師弟関係をよく見かけましたが、昨今は若い選手がコーチに自身のフォームを撮影してもらい、その場で動画を見て自己分析している姿も目立つ。無駄な失敗を繰り返さずに近道でき、迷うことなく単純明快に答えにたどり着けもします。

また、かつてはハングリー精神こそが勝利に不可欠とされ、高級外車や高級時計が大きなモチベーションでした。ところがハングリー精神が最も必要とされてきたボクシングでさえ、たとえば世界フライ級ユース王者の畑中建人選手は、元世界王者を父に持ちハングリーとは言えない。しかし『勝ったご褒美はメキシコ武者修行』というストイックさがしっかりある。安易にステータスに飛びつくことを逆に格好悪いとさえ思っている節もあり、ハングリー精神などなくとも過酷な減量に耐えてリングで殴り合いができるクールさに、特有のたくましさを感じます」

インタビューにも変化があるようだ。皆、しっかり話せるし、“いい子”が多いように感じる。

「我が強くないと勝てないと言われたのは昔の話で、若いトップアスリートには本当に“いい子”が多い。コンプライアンスが整った成熟した社会に育ち、無用な“炎上”を避ける良識があり、出る杭にはならない賢明さも備わっているからではないでしょうか。仲介者を挟まないSNSは、素直になれるし、言葉を熟考できるという利点もあるようです」


Z世代の象徴でもあるSNSの発達はアスリートにも影響をもたらす。

「昨年F1でデビューした角田裕毅選手は、相次ぐクラッシュで国内外のメディアから一時散々に叩かれた。しかしSNS上での彼は好きなファッションやゲームの話題を笑顔で発信。『SNSでファンから受け取る応援コメントを読んで力になった』と最終戦で表彰台目前の4位になるなど見事に復調。既存のマスメディアに潰されず、ニューメディアの自分にプラスになる声を拾える、新たな選択肢が強みになっているようです」

五輪を含め、約30種目のスポーツ中継を担当してきたアナウンサーでスポーツジャーナリストの島村俊治氏も、SNSの影響がインタビューで見られると語る。

「以前はマスコミから取材を受けることしかありませんでしたが、今はSNSを含めた通信の時代。逆に選手のほうから自分で発信する。普段から自分のことを平気で話すので、インタビュー慣れしています。また、受け答えもですが、全体的にいい子が多いと思います。昔は嫌な奴が強かったというわけではありませんが、自分のやり方に徹して人のことは気にしないという選手も多かった」

ただ、インタビュー上手で人には好かれるが、心に残る言葉は少ないかもしれないという。

「青木功さんは、優勝争いをして不運なミスで敗れたときに『しゃあんめえ』と言った。風や距離を考え抜いて選んだクラブでナイスショットをしたのに小さな窪みに当たって池へ入ってもコレ。彼がよく使う茨城弁ですが、ゴルフは自然のなかで戦うから『仕方ない』ということ。言い訳をしない。すごい言葉を出してくるなと思いました」

メディア側にも新しい世代が増えて、変わってきたのかもしれない。

「自分で売り込んでくるものにマスコミもすぐに飛びつく。記者が苦労して話を聞き出すということも大事だと思うのですが……私は、インタビューを拒否されたこともあるし、あれこれ悩んで謝ったうえで聞き出したこともある。今は、選手との垣根がないほうがいいという時代になりました。どちらが良い悪いではないのですが……ただ、SNSは使い方を間違えると、辛い思いをすることもある。昔の人は思いを外に出さなかった。出さなすぎたとも言えるかもしれませんが、野球なら野茂英雄やイチローなどはある種、孤高の感じでした。昔のプロゴルファー、ジャンボ(尾崎)にしても青木さんにしても、(岡本)綾子さんも人を寄せ付けないところがありました」

左から、ジャンボ尾崎、青木功、岡本綾子。伝説のプロも孤高だった!?「それがスターの条件でした。映画俳優なんかもそうです」(島村氏)「ハングリーが源泉。日本ゴルフ界が育てたなんてこれっぽっちもないでしょう」(三田村氏)

AKB的センター争い!?
「チーム」で切磋琢磨し自己研鑽

長年ゴルフ界を取材し続けてきたゴルフ評論家で僧侶の三田村昌鳳氏はこう語る。

「尾崎将司、青木功をはじめ、昭和は成り上がっていく時代。自我が強くて自分の『個』の力で切り開き、スーパースターにのし上がっていく。ところがゴルファーがアスリートと呼ばれる今は、大学とか、いわば『チーム』で育っていく時代。私見だが、JGA(日本ゴルフ協会)ナショナルチームのヘッドコーチ、ガレス・ジョーンズの影響が大と思う。フジィカル、マネジメント、すべて科学的、論理的手法で育てる。松山英樹はちょっと違うが、金谷拓実、中島啓太はその典型。女子も稲見萌寧、古江彩佳、小祝さくらもそう。

また、『チーム』として、世話になった人たちに感謝を忘れないし、基本的に同志で仲間なんです。金谷、中島など折り目正しい好青年。2人は今でもガレスにSNSで、アドバイスを英語でもらう。女子プロ界の今を見ると、AKBのセンターを争う競争に似ていると思う。センターは短期間なら誰にもチャンスはあるし、女子プロツアーも週替わりのセンター狙いに見えます」

辻村明志コーチ率いる「チーム辻村」(左)、目澤秀憲コーチ率いる「チーム目澤」(右上)、JGAナショナルチーム(右下)。「文字通り『チーム』として、時代の先端をいく技術やトレーニングの方法から準備の仕方まで論理的方法を教え込まれます」(三田村氏)

競技環境、教育面、身体能力…
あらゆる側面が変わった

Z世代の強さについて、島村俊治氏はこう語る。

「北京五輪は冬季で最多のメダルを取ることができましたが、7つの競技で幅広く取れたのも初めてです。土台は長野五輪や東京五輪にあると思いますが、競技環境、練習環境が整備されてきたのが一番の要因。指導体制も整ってきました。コーチも、心身をケアする担当者も、育成の仕方をしっかり勉強し、アスリートを尊重して自由にやらせる部分もある。昔は部活で『水を飲むな』というある種の精神論が戦時中からの名残であったり、スポーツというとスパルタというイメージでした。今は、医学的な考え方を持つべき時代です。ご両親の教育も変わった。スポーツが自然に身近にあるようにし、遊びのなかで覚えさせたり、楽しませることができる。スポーツに対する関わり方、しつけもしっかりしています。 

日本人の身体能力も上がった。ハーフの選手の活躍も大きい。世界的にも同様な傾向がある気がしますが、民族が融合すると素晴らしい能力の選手が出てくる部分もあります。また、2000年に入り“世界はひとつ”と言われたなかで、世界的な競技会の数が増え、スポンサーの資金面の援助も含め日本の選手が世界の大会に行けるようになった。昔は島国の日本から海外に行くなど一大決心でした。五輪を目指す選手だけでなく、野球やゴルフも含めたプロスポーツも同じ。いい時代になりました」

よきライバルであり仲間だと皆、口をそろえる。「『チーム』として切磋琢磨するから、選手達は『個』がありながら、周囲とも折り合う温厚さがある」(三田村氏)。デジタル技術や社会環境を味方に、好きなことに専念できるのも強さの秘密だ

旧世代にない強みは「3S」
「スピード・スマート・シンプル」

この時代に生きているのが「Z世代」なのだ。旧世代の固定観念がなく、世界の壁もひょいっと越える。平山譲氏はこう語る。

「たとえば日の丸をつけることは、国家の代表として国民の期待を一身に背負うことでもありました。スキージャンプの日本代表も『日の丸飛行隊』と呼ばれ、勝っても負けても結果には涙がつきもの。いい意味で個人主義が浸透している新世代は、期待を“背負わされている”のではなく、応援で“フォローされている”と受け取れています。小林陵侑選手は『多くの人が応援してくれている五輪を楽しみたい』と話して金メダル獲得後も笑顔でした。また、テレビを見ないどころか、そもそもテレビを部屋に置いていない若者も多い。テレビに限らず旧メディアと距離を置く若者たちには、戦後数世代に渡ってすり込まれてきた様々な常識やコンプレックスが継承されていないようにも思えます。サッカー日本代表はアジアで勝つことでさえ難しい時代が長く続き、たとえばサウジアラビア代表は旧世代にとって大きな脅威でしたが、今年のW杯最終予選で勝利した際に先発した田中碧選手は『アジアの中ではすごく強いチーム』としながらも、『今後日本サッカーを進化させていくうえでは世界のトップとやり続けないといけない』とアジアは通過点との認識です。

デジタル技術革新後の膨大な情報量による進化の『スピード』。成熟した社会環境による『スマートさ』。好きなことに専心できて煩わしい人間関係を堂々と回避できる『シンプルさ』。その『3S』が、旧世代にはなかったZ世代のアスリートの大きな強みでしょう」

現代のサムライスピリットで、Z世代はこれからもスポーツ界を席巻し続けるだろう。

週刊ゴルフダイジェスト2022年3月22日号より

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