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【さとうの目】Vol.239 マット・ジョーンズ「倉本さんより早い!」超高速プレーの41歳

鋭い視点とマニアックな解説でお馴染みの目利きプロ・佐藤信人が、いま注目しているプレーヤーについて熱く語る連載「うの目、たかの目、さとうの目」。今週の注目選手は、セントリートーナメントの決勝ラウンド2日間で23アンダーという猛チャージを見せ3位に入ったマット・ジョーンズ 。

松山(英樹)くんが優勝したソニーオープン前週のセントリートーナメントは、記録づくめの大会でした。これまでのPGAツアーの最多アンダーパーは、03年の同大会でE・エルスが記録した31アンダー。これを今年の大会ではC・スミスが34アンダー、J・ラームが33アンダー、そしてマット・ジョーンズが32アンダーと、3人が記録を塗り替えました。

今回紹介するのは最終日にコースレコードの61で回り、3日目の62と合わせ決勝で23アンダーを出したジョーンズ。これもPGAの記録。若い選手が出しそうな記録ですが、これを41歳のおじさんが成し遂げたのですから驚きです。


紹介したいのは、その驚異的な爆発力ではなく、誰もマネのできない超高速スピードプレー。ボールの後ろに立ってからアドレスに入り、ボールを打つまでの時間が約4秒(SNSで計測を見ました)。ボクも興味本位から練習場で同じリズムで打つのですが、何度か経験したことのある「スピードゴルフ」の感覚というか……いや、スピードゴルフでも、つい自分なりのルーティンが出てしまうもの。しかしジョーンズの場合、クラブヘッドをボールの後ろにセットしたら、ワッグルもなしにそのまま打つ早業です。何度チャレンジしても、彼と同じタイミングでは打てたことがありません。

誰もが「そんなに急がずに」とか「もっと丁寧にやろうよ」とアドバイスするスピード。実際、コーチに何度か直されそうになり、直すのを試みたこともあったようですが、結局、このスピードが合っていると、自分のスタイルを貫いてきました。このスタイルが注目されるのは、プレーファストが叫ばれる時代の影響もあるのでしょう。ある意味時代の最先端。歳を重ねるほど考えることや悩むことが多くなって、打つまでに時間がかかるようになるもの。しかしジョーンズは、邪念が入る余地もない早業で、41歳で何も考えずに打つことができることにうらやましい、と興味をそそられるのです。

名門、アリゾナ州立大出身で、オールアメリカンにも選出されました。01年にプロ転向、14年にヒューストンで念願の初優勝を果たすも、2シーズンでシード落ち。40歳近くになって、もう終わってしまうのかと思いきや、じわじわシードを取り戻し、昨年は7年ぶりにホンダクラシックで2勝目を挙げました。難コースのうえに風が吹いたこともあり多くの選手が慎重に時間をかけるなか、ひとりポンポンと簡単にプレーしているように見え、サラッと5打差で逃げ切りました。フェアウェイを外し、林で後ろの木が邪魔なような場面でも、ほとんど素振りもせずに打つ姿には驚かされました。このスピードは言葉ではいいづらいのですが、「倉本(昌弘)さんより早い」というのが、同業者には一番納得してもらえるようです。

ドライバーは飛ぶほうですが、正確というタイプではなく、むしろグリーン周りが上手い。ちなみにショートゲームも超高速。今後、優勝争いが増えると、その脅威のプレースピードも多く見られるようになるかもしれませんね!

A・スコットそっくりの美スウィング

「非常にオーソドックスで美しい。フォロースルーからフィニッシュにかけての動きは、同じ歳でジュニア時代からのライバルでもあるアダム・スコットにそっくり。スコットも勝ったヒューストンオープン、オーストラリアンオープン、ホンダクラシックを制し、キャリアまでスコットを追いかけているかのようです」(PHOTO/Tadashi Anezaki)

佐藤信人

さとう・のぶひと。1970年生まれ、千葉出身。ツアー9勝。海外経験も豊富。現在はテレビなどで解説者としても活躍中

週刊ゴルフダイジェスト2022年3月1日号より