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【さとうの目】Vol.235 ダニー・リー「恐るべきマン振りと“ど根性”」

鋭い視点とマニアックな解説でお馴染みの目利きプロ・佐藤信人が、いま注目しているプレーヤーについて熱く語る連載「うの目、たかの目、さとうの目」。今週の注目選手は韓国生まれの31歳ダニー・リー。

ダニー・リーは、何よりその“ど根性”をたたえたい選手です。昨シーズンは公傷制度を使い、9月に約2カ月ぶりにツアーに復帰しましたが、その時点で出場できるのは4試合。シード獲得のランク125位以内に入るには289ポイントが必要でした。普通の選手なら下部ツアー行きを覚悟する状況です。しかも復帰戦はあえなく予選落ち。ところが復帰2戦目、残り3試合となったバミューダ選手権で考えられない“ど根性”を見せるのです。

この試合、単独2位がシード権獲得の条件。67、67で4位で予選通過を果たし、3日目は65で2位で最終日を迎えます。解説を担当したのですが、驚かされるというのかあきれるというのか……いや、彼のゴルフにはとにかく疲れさせられました。


優勝争いしながらバック9に入ると、12番でダボ、13、14番で連続ボギーを叩き、一気に優勝戦線から落ちていきます。リーのゴルフは、ほとんどの選手がレイアップを選択する場面でもドライバーを握ってのマン振りが基本。ダボを叩いた直後もドライバーを握り、「軽くポンと打って2位を狙えばいいのに」と思ったものです。

しかし、それが彼の持ち味なのでしょう。その後もドライバーをマン振りし続けます。そして15番から3連続バーディで、再び優勝戦線に舞い戻り、結局1打差の2位タイでフィニッシュ。この時点でポイント150位以内の準シードを手に入れます。そして続くマヤコバでは、37位で最終日を迎えましたが、64で7位に食い込み、なんと実質2試合でシード権を獲得したのです。

このシード権を確定したマヤコバでも、リーの“マン振り伝説”が生まれました。それは水曜日の練習場。同じヘッドを使っているビクトール・ホブランに「打ってみなよ」とドライバーを手渡されます。その1発目、リーがマン振りするとなんとシャフトが折れてしまったのです。しかし、ホブランは同じピン社のドライバーを使うジェームズ・ハーンのバックアップドライバ―を借りて試合に臨み、結果優勝、リーは7位でシード権を獲得……なんとも普通の感覚では想像もつかない2人です。

さて、リーはこれまで史上最年少記録を次々に塗り替えてきた選手でした。タイガーの記録を抜いての全米アマ優勝、世界アマランク1位。また史上2人目のアマチュアで成し遂げた欧州ツアー優勝。そしてプロ転向後は史上最年少でのWGC出場も果たしています。

もともと実績もポテンシャルも高い選手であることは言うまでもありません。アイアンのキレが抜群のオールラウンドプレーヤーです。18年からジョージ・ガンカスに師事し、「GGスウィング」による飛距離アップに着手。素振りを見ても大げさに地面を蹴り、ドライビングディスタンスは290ヤードから300ヤードに伸びました。いろいろなことが噛み合って、華やかに復活のスター街道を歩む年になるかもしれませんね。

「最近は飛距離獲得のためスピードドリルをひたすら繰り返し、美しいスウィングを壊してでも飛距離を取るという印象すらある。ここ2、3年のパットのスタッツが悪くなっている点も気になる……PGAツアーで生きていくのは本当に大変なことだと改めて感じます」

佐藤信人

さとう・のぶひと。1970年生まれ、千葉出身。ツアー9勝。海外経験も豊富。現在はテレビなどで解説者としても活躍中

週刊ゴルフダイジェスト2022年2月1日号より