【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.65「飛ばし時代に一石を投じる」
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
PHOTO/Tadashi Anezaki
昨季のベルンハルト・ランガ―はやはりすごいヤツだと思わせてくれました。プレーが遅いところは好きになれませんけど、64歳の誕生日に64でまわって、しかも、6度目のシニア年間王者になったのは、素直にすごいと認めなあかんと思います。
フューリックとかミケルソンとか“若い衆”がいっぱい出ておるツアーで64歳になっても頑張れるということに、頭が下がります。
一昨年、開催が秋にずれ込んだマスターズで最年長予選通過もしております。マスターズは1度優勝すると、生涯の出場権が与えられます。せやけど、選手というものは、「もうここで限界や」と思うと自分で幕引きするものです。
僕が大好きなトム・ワトソンが65歳のときに全英オープンに別れを告げたのも、やっぱり自分の限界を受け入れたからやと思います。
日本シニアオープンも昨年から日本オープンの歴代優勝者が出場できるというカテゴリーをつくってくれました。そういうわけで僕も予選会からではなくて、本戦から出場できるようになったのです。
そこで、やはり日本オープンの歴代優勝者の矢部昭さんに会おうたときに、「矢部さん、次のシニアオープンのときは、一緒に練習ラウンドしましょうよ。僕がスタートタイムを予約しておきます」と言ったら、「バカ言ってんじゃないよ。220ヤードしか飛ばないのに、そんなところにオレが出られるわけがないだろう」と言われてしまいました。
「僕だってキャリー230ヤードですよ」と言い返しましたけど、ショットメーカーの矢部さんなら、コースセッティング次第では、ひょっとすると、予選通過できるかもしれません。
正直に言って、矢部さんみたいな非力でも戦えるプレーヤーをお客さんに見てほしいと思うのです。
ランガ―の昨季のドライバー平均飛距離は272ヤードぐらいです。それが300ヤードを楽に超えるレギュラーツアーの選手がゴロゴロおるなかでマスターズの予選を通るのです。
ゴルフはボールが飛んだほうが有利です。せやけど、それだけがすべてではないのもゴルフです。
貴公子・ランガーはスゴイですわ
「『皆がウェッジでグリーンを狙うところで、自分はユーティリティやウッドを持たなければならなかった』みたいなことを言っておったそう。でも、マスターズの予選を通るんやからね!」
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2022年1月25日号より