【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.62「グリーン読みの楽しみを奪わないでほしいんです」
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
PHOTO / Masaaki Nishimoto
あるプロアマでまわったときのことです。いかにもベテランという雰囲気のキャディさんがつきました。
1番ホールでグリーンに乗ったところからキャディさんの解説が始まりました。
「ここは、芝目が右からきているから、最後のところはフックします。右カップいっぱいを狙ってください」
僕は何も聞いてないんですよ。まあ、ベテランやからグリーンのことはよう知ってることはわかりました。
一緒にまわっておったアマチュアの人は「はい、ありがとうね」と言うとりましたけど、僕はそういうのを聞きとうないんです。大きなお世話なんです。
その解説がずうっと続いて、6ホール目ぐらいに、僕がパットを打つ番になったときに言ったんです。同伴者に聞こえないように小声で「選手が聞いたときだけ、おっしゃっていただけますか」と。
そうしたら、ベテランキャディのプライドが傷つけられたと思ったのか、ムッとされてしまいました。ラインを読まんと仕事してないと思っとるんでしょうね。
せやけど、僕としてはありがた迷惑なんです。何でかというと、選手が「左カップいっぱいのスライスや」と直感で思ったことを、「カップ1つスライス」とか裏切るようなアドバイスになっておることもあるんです。
自分の技量に応じた見立てしかゴルファーはできないんです。
しかも、プロゴルファーかて、手嶋多一みたいに、ガツンとラインを殺して打つタイプもおれば、ジャストタッチでしか打てへん者もおります。
手嶋くんかて、カップの向こうの下り傾斜がきつければ、ガツンとはいかんかもしれんし、「これ入れれば優勝や」というときなら、ガツンといくかもしれんのです。
キャディとしてはベテランかもしれんですけど、しょせんアマチュアはアマチュアです。
来年からPGAツアーではグリーンのアンジュレーションを詳細に書いた図面を使うのを禁止するそうやけど、大賛成です。ついでにヤーデージブックも禁止してほしいぐらいです。
感性を働かせるのもゴルフの楽しみ。楽しみを奪わんでほしいですな。
「グリーンの読みというものは僕の問題やし、僕の楽しみでもあるんです」
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2021年12月28日号より