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【さとうの目】Vol.225 ローリー・マキロイ「涙を流して強くなる男」

鋭い視点とマニアックな解説でお馴染みの目利きプロ・佐藤信人が、いま注目しているプレーヤーについて熱く語る連載「うの目、たかの目、さとうの目」。今週の注目選手は、先日20勝目を挙げ永久シードを獲得したローリー・マキロイ。

PHOTO/Blue Sky Photo

ザ・CJカップで、永久シードの権利を得る、節目の20勝目を挙げたローリー・マキロイ。PGA史上39人目の偉業です。それにしてもマキロイは、つくづく“涙を流して強くなる選手”だと思います。

思えば19年、ロイヤルポートラッシュで開催された全英オープンでまさかの予選落ち。68年ぶりの母国開催とあって、涙の記者会見が印象的でした。しかしその後の20年は10試合で優勝2回、ベスト10は8試合、予選落ちなしという圧倒的な強さを見せ、年間4勝でフェデックスランキング1位に輝きました。全英の結果からか「これからのオレを見てくれ。もっと強くなります」的な鬼気迫るゴルフを見せてくれたものです。

その後、コロナ禍での中断、また再開されても無観客試合が続き、なかなか調子が出なかったのですが、ようやく調子が上がり始めたのが東京五輪くらい。アイルランド代表として、銅メダルを競う7人のプレーオフまで残りました。しかし9月のライダーカップ。最終日のシングルスには勝ったものの、そこまでなんと3連敗。チームにまったく貢献できなかったとして、ここでも男泣きしたのです。


コリン・モリカワと争って勝ったザ・CJカップでの優勝会見ではこんなことを言っています。「今でもライダーカップのことを思い出す。あの後の2週間、ボクはいろんなことを考えた。そこには誰か他の人になろうとしている自分がいたんだ。そして自分自身でいること、自分であることが大事だということに気がついた」

今にも泣きそうなコメントでした。いい意味でライダーカップの惨敗を引きずっているのです。そして、この悔しさは、19年の全英オープン後と同じように、さらにすさまじいゴルフを見せてくれるきっかけになる予感がします。

できれば来年のマスターズまでは、この悔しさを引きずってくれればメジャー5勝目、生涯グランドスラムが実現するのでは……などと、個人的に想像して楽しんでいます。

それにしても天才と呼ばれ19歳でプロ転向、メジャーにも勝ち、32歳で20勝を挙げたマキロイでも、他の選手を意識し、また他の選手のようになりたいと頭の片隅に浮かぶものなんですね。3月のアーノルド・パーマー招待で、マキロイは、こんなカミングアウトをしています。この試合、優勝したのはブライソン・デシャンボーですが、マキロイはその飛距離を意識するあまり、調子を崩したと。

中堅選手となり、ツアーに若く強い選手がどんどん出てくる。よく、よい選手の技を見て盗め、などと言われる一方で、他人を見すぎてはいけないとも言われます。すごいプレーヤーが集まる世界でバランスを保ちながら自分の世界を構築することの難しさをマキロイの優勝で改めて感じました。

「かつてのマキロイは飛距離の出るドローボールを武器にショットで他を圧倒するというイメージでしたが、昨年のウェルズファーゴや今回のザ・CJカップでの優勝は、どちらかというとグリーン周りやパットのパフォーマンスのよさで勝った。最近はフェードボールも多用するようになり、30代になってマキロイのゴルフが少しずつ変化してきているようです」

佐藤信人

さとう・のぶひと。1970年生まれ、千葉出身。ツアー9勝。海外経験も豊富。現在はテレビなどで解説者としても活躍中

週刊ゴルフダイジェスト2021年11月16日号より