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勝みなみの勝因は前日練習で修正したパッティング。日本女子オープンの熱戦を塩谷育代が解説

2日目が台風で順延となり、月曜日決戦となった今年の日本女子オープン。最終日に独走した勝みなみが5月以来の5勝目、初のメジャータイトルを獲得した。ベテランと若手が争った難コース・烏山城CCでの熱戦を、塩谷育代プロに振り返ってもらった。

PHOTO/Tadashi Anezaki

解説/塩谷育代
しおたにいくよ。愛知出身、83年プロ入り。ツアー20勝、1995年日本女子オープン(宇部CC)覇者。現在もシニアツアーに挑戦しながら、セッティングや解説の仕事で大忙し

今年の日本女子オープンは、優勝スコアがイーブンパーくらいになるセッティングで考えられてきましたが、2日目に台風16号がきた影響で、予定していたグリーンのコンパクションとスピードが出ませんでした。金曜日にあれだけ雨が降ると、グリーンが止まるようになり、スコアも出ましたね。

距離もあり(6550Y・パー71)、土曜日からは雨の影響でフェアウェイもランが出ずにドライバーショットも止まる状況だったので、さらに長く感じたと思います。コースが乾いてきてグリーンが硬くなり、ランが出るようになったのは最終日の昼くらいから。こういう状態を含めてコースを攻略し、すべてが噛み合い、試合を制したのが勝みなみ選手でした。

井上誠一さんの設計である烏山城CCは、基本的にグリーンは小さく砲台。だから、セカンドショットは上からキャリーできちんと乗せてこられる選手じゃないと太刀打ちできない。飛距離の出る選手はセカンドで短い番手を持てるので有利です。あとは、飛距離が出なくてもフェアウェイウッドの得意な選手が上位に残っていました。

17番は3日目バーディゼロ
超難度の上がり2ホール


17番(490Y)、18番(400Y)の難しいパー4がキーでした。初日からボギーとダボのオンパレード。17番はしっかり球筋を決めて風を計算していく必要がある。ドローヒッターは右のクリークを頭から消して思い切ってクリークに近い右サイドに打ち出していく勇気が、フェードヒッターは左のOBを消して思い切って山裾に打っていきフェアウェイセンターに戻してくる勇気が必要でした。

35Yの打ち下ろしということもあるので、瞬間的に体が突っ込んだり切り返しが早くなってしまいがち。いかにいつもと同じタイミングで自分の球筋を信じて打てるか。勇気が持てないと、中途半端な振りになってミスになったり2打目からの距離が残る。飛ばない選手が「刻む」と決めたほうが逆に気が楽になっていたかもしれません。

18番は、3日間400Yのティーを使いました。最終日だけ、ピンポジが左手前の池に近い場所だったので前のティーを使い、逃げずにピンを狙わせる要素をつくっていました。セカンドからずっと打ち上げでグリーン手前側に傾斜があり、グリーンの左から3分の2はキャリーで届かないと池に入るんです。確実にいくなら右手前からの寄せでパーをとるか、距離の出る選手ならピン方向を狙っていけますが、上の段にいくと難しいパッティングが残る。最終日は、勝選手の独走で、17、18番もあまりプレッシャーがなくなってしまいましたが、逆に言えば、そこまでにスコアを伸ばした勝選手がよかった。とりたいパー5では確実にバーディをとっていましたから。

あとは、グリーン周りを刈り込んでいて落とし所を間違えるとすぐに転がり落ちていく。特にテレビ画面からは芝が短いので楽に寄せられるように見えますが、短い逆目で結構引っかかるんです。上田桃子選手の3日目・14番のアプローチでのミスはコレ。ヘッドを上から入れようとするとチャックリします。上手くバウンスを使ってヘッドを抜いてこないと難しい。フェアウェイも順目と逆目がはっきりしていて、逆目だとアイアンの抜けにすごく影響があり繊細な判断が必要でした。

最大の勝因はパッティング

そんななか素晴らしいプレーをした勝選手の勝因は、3日目の試合後の練習で修正してつかんだパッティングです。前日、勝つ選手が練習を終えた頃にはすでに真っ暗。「今日はパターがいまひとつ、筋1つ違ったね」と言ったら、「少しだけ顔の上がりが早かったのを修正しました。明日はバッチリです」との答えが。確かに3日目の映像と合わせてみると、最終日のほうが少しだけ頭が残っている。この修正されたパッティングが、1番、2番のパーセーブにもつながったと思います。ここがすべてかもしれません。ボギー、ボギーでもおかしくなかったですから。どちらかに賭けたくなるラインを真っすぐめに狙って入れていました。

これで3番からは少しずつティーショットも修正されました。最初はドライバーショットが右に出ていてトラブルになったり。緊張もあったでしょう。西郷真央選手もですが、スタート時は地に足がついていない感じでしたから。

ストロークはいいけど1筋違っていたパッティングを修正できたことで、リズムがよくなりました。逆に、優勝争いをした皆さんは、ショットはよかったですがパットが入らなかった。上田桃子選手なんかあと4つくらい伸ばせた感じ。西郷選手もショットはよく、パットもしっかり打てていた。終始安定していたので勝ってもおかしくない条件はそろっていましたが、勝選手がそれ以上でした。流れもつくれた。3日目の水切りショットで助かった“ラッキー”のいい流れを、最終日の1、2番で切らしませんでした。

勝選手は今年の5月、全米女子オープンに行く前にリゾートトラストレディスで優勝しました。あの試合は私がセッティングしたんですが、フェアウェイもグリーンもマウンド主体に設計されている、池も絡む本当に難しいコース。グリーンも小さい。烏山城と同じで「狙う場所が小さいと、飛距離は最大の武器になる」。あの試合も9アンダーで優勝しました。

勝選手は、以前からショットメーカーでパッティングが上手い選手という印象。アドレスで背中が少し丸くて張らないからテークバックがスムーズになる。体を上手く使い、スウィングアークが大きい。支点から一番遠いところにヘッドの重さがあり、遠心力が大きいので飛ぶ。一時期、上半身の力がつきすぎてバランスが悪いと感じていましたが、トレーニング内容を変えたのでしょう。やわらかく筋肉を使えるようになりました。

4日間のFWキープ率は80.3%、パーオン率は72.2%。「スウィング中、両ひじの間隔、手元と体の距離が同じ。右ひじも体の近くを通って大きく体を使って最後まで振り抜く。素晴らしいです」

井上さんのコースはティーショットにあまり圧迫感はないのですが、落とし所のバンカーの配置が絶妙。マウンドを主体とした設計で、奥の景色とマウンドが重なったときの距離感が難しい。セカンドでは、少しずつ上がってくるコンパクションに対応する番手選びが大事でしたが、キャディの大矢真一さんと一緒にしっかり選択して、縦の距離もばっちり合っていました。最終日の11番のバンカーショットなんかにも安定感がありました。

女子オープンは
自分の成長を確認できる舞台

それにしても勝さんの最終日のプレーは驚異的でした。最終日はアンダーパーが結局5人しかいなかったことを見ても、難しかったんですよ。そこで5アンダーですから!

最近の若手選手は本当にレベルが上がっています。ドライバーの弾道が違う。強くて高くて。使っている道具がパーシモンとは違うし、私たちの頃はユーティリティなんてなかった。たとえばこのコースは3Iなんかでやると通用しないでしょう。実際、私が今プレーしたら、ボギーペースで、1つ2つパーをとって、ダボが3つくらいで90台ですよ(笑)。アマチュアも優勝争いに加わってくるのが最近の傾向ですが、今回ローアマチュアを獲得した竹田麗央選手は、びっくりする飛距離でしたね。

道具の進化で、体全体で頑張って振らなくても、軽く振って遠くに飛びます。小柄な選手でも飛びます。また、強い世代が続くのは、皆で切磋琢磨できるのもあるし、JGAのナショナルチームや地区の強化選手に選ばれて、ジュニア時代から技術だけでなくメンタルやマネジメントも勉強しながらやってきた成果だと思います。これからも続きますよ。最近、ゴルフを始める若い人たちも多いですし、日本選手の世界での活躍が影響力を与えているとも思います。

女子オープンというのは、誰もがその頂点を目指してやっている、全員のモチベーションが高いなかでの試合。そして難しいごまかしのきかないセッティングで、自分の成長を確認する舞台なんです。1年前より何が成長したか、また来年に向けた課題が見えてくる。

他の試合のセッティングなら、運が悪かったとか、今週は入らなかったとかで片付ける選手もいますが、そんな言葉は通用しない。勝選手は、15歳でアマチュア優勝し、プロに入っても同世代を引っ張ってきて、追い抜かれたりもしましたが、やっぱり努力してきたものが今回出たんだと思います。そうしてそれが運も呼び込むのがゴルフというものです。

アマだった5年前、2日間で12オーバーしたコースで今回は14アンダーで優勝。「とにかく楽しかったですね。最終日最終組は緊張もしますし追いかけられる立場。粘って粘ってスコアを伸ばし切ったことに成長を感じた1日でした」(勝)

オーガスタ女子アマに勝った梶谷翼さんに試合後話を聞いたら「自分が今までやってきたのはゴルフじゃなかったと初めてわかりました」と。何も考えずにバーンと打って遠くに飛ばすだけではこういうセッティングでは通用しないというのがわかったんだと思います。自分の足りないものを認めざるを得ない。だからこそ、今の課題が見えて成長していける。

今年も各選手がさまざまに感じたことを糧にして、また来年、この舞台で成長した姿を見せてくれるのだと思います。

素晴らしい戦いを見せてくれた選手たち

上田桃子

狙ったタイトルで2位タイ。「4日間ショットは素晴らしかった。パットが入らなくなり3日目の後半ショットが乱れましたが、最終日はさすが、修正してきた。でもパットが入らず……」

西郷真央

最終組で回るも2位タイ。5回目の2位だが初優勝も近いはず。「ずっと安定していて優勝してもおかしくなかった。機械のようにピタッと止まるフィニッシュは精度の高いショットの証し」

西村優菜

2日目63で回った西村。「最終日は組全体でプレーが遅いと注意を受けて焦ったようで、そこから崩れました。ゴルフはピンと張りつめた糸が切れると凧のように飛んでいってしまいます」

竹田麗央

ローアマを獲得した竹田。「叔母の平瀬真由美プロによると、幼少時から遊び感覚でクラブや野球のバットを振り自然に当てて飛ばす能力がついたのではと。167㎝と体格もよく今後が楽しみです」

週刊ゴルフダイジェスト2021年10月26日号より