【ゴルフに運はつきもの。】Vol.14「キャディさんの言いなり(?)で勝ち取った5年ぶりの優勝」
最強のサラリーマンとしてアマチュア時代に輝かしい成績を収め、49歳でプロ転向した“中年の星”こと田村尚之プロ。群雄割拠のシニア界で気を吐く異色プロが、自身のゴルフについて、そしてシニアツアーの裏側について語る。
ILLUST/Masahiro Takase
読者のみなさ~ん、やりました! 私、「ファンケルクラシック」で優勝しました。なんと5年ぶりの優勝ですか。でもまさか優勝できるとはねえ。
というのも今シーズン、シニアツアーはそれまで6戦消化して、私は20位以内に1回も入れてなかったんですから。背中に持病があって、春先はどうしても満足にクラブが振れないんですが、今年は右目の乱視も進んだので、サングラスを度入りのものに替えましてね。そのせいか、グリーン上でラインを読むと、よく見えるんだけどどうしても右側が高く見えてしまうんです。真っすぐのラインでも全部フックラインに見えるんですね。それでだいたいパッティングはカップの右に外していました。
開幕2戦目のノジマカップでは、初日一緒にラウンドした渡辺司さんからラウンド後に、私のボールがグリーン上で全部右に打ち出されるから「田村、パター打った瞬間に残念なお知らせだよ!」っていじられまして、トホホ。
その初日は、18ホール全てパーオン、それもほとんどがピン筋、それで35パットで70ですから(パー5の2オンあり)。パットが普通なら66か67のはずなんですよ。
それでファンケルクラシックでは、今までずっと付いてくれていたハウスキャディの鈴木美穂さんが昨年結婚退職されていたんですが、帯同キャディとして来てもらって、私はグリーン上でラインを読まないことにしたんです。これがドンピシャでした。
実は彼女、開催コースの裾野CCに入社して3年目に独り立ちして、ファンケルクラシックでキャディデビューする際、誰に付いてよいかわからず、キャディマスターさんに「誰に付いたらいいですか?」って聞いたらしいの。そしたらキャディマスターいわく「去年プロになった田村さんが真面目そうだしいいんじゃない」と、私を推薦してくれたらしいんです。マスター、お目が高い! それから毎年、ずっと私にハウスキャディとして付いてくれていたんです。幸いだったのは、今年はコロナ禍もあってか、キャディバッグは担がずに共用カートに載せることになったので、専業主婦で体力が落ちたであろう彼女でも務まったということなんです。
それでラウンド中は、ほぼ彼女の言いなり。パッティングのラインはもちろん、1打ビハインドで迎えた最終日18番の2打目地点で、「スプーンでも届くかなあ?」とレイアップも考えていた私に「何言ってるんですか、ここまできたんですよ。狙わないと!」」とハッパを掛けてくれましてね。それで腹をくくれたんですね。
まあプレーオフで優勝パットを決めた瞬間は飛び跳ねてしまいましたが……、よく覚えてないんです、すみません。あとで水巻さんに言われました。「田村、1回目の優勝も2回目の優勝も、俺と回ったときだろ。感謝しろ!」と(笑)。本当にそうなんです。水巻さん、ありがとうございます。なんかあるんですよね。運というかなんというか。続けて、「あのキャディさん、ラインはもちろんだけど、それ以上にお前のことをよく知っていたよな」って。さすが水巻さん、よく見てらっしゃる。
そういえば、可愛がっていただいている円楽師匠が「昔、水巻プロがアメリカツアーに挑戦するとき、なんかニックネームが要るだろう、っていうことになって、俺が“スプリンクラー”でいこう、って言ったのよ」と言われてました。どうして!?
スプリンクラーって、水をまくから……お後がよろしいようで。
田村尚之
1964年6月24日生まれ。「日本ミッドアマ」2連覇、「日本アマ」2位などを経て49 歳でプロへ転向。2016年「富士フイルムシニア」でツアー初優勝
月刊ゴルフダイジェスト2021年11月号より