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タイガーが奇跡の復活劇を演じたあの日、オーガスタで何が起きたのか? 杜に潜む女神の采配とは?

2019年4月タイガー・ウッズはスポーツ界最高とも謳われる復活劇を演じマスターズで5度目の優勝を果たした。1打差の2位タイに入ったブルックス・ケプカはその日を「クレイジーな1日だった」と振り返る。そこにあったオーガスタの女神の采配とは?

19年マスターズはタイガー・ウッズが「オーガスタの魔女」に愛されていることがわかる最終日だった(写真/姉崎正)

10月の終わりケプカは練習場で球を打ちながらゴルフパーソナリティ、ダン・ラパポートのインタビューに応え2019年のマスターズ最終日に起こった出来事を語った。

「あの日は予想外のことが起こり続けました。12番に差し掛かったところでトップの(フランチェスコ)モリナリが確か3打リードしていたと思います。上位争いしていた僕はとにかく追いつかなくてはならなかった。(12番パー3の)ティーショットは9番アイアンの完璧なショットでした。それが風のいたずらだか何だか池に捕まってしまった。しかも皆が同じ時間帯に立て続けにミスを連発したのです」

追いかけなければならない立場なのにダブルボギーを叩いたケプカ。だがそれは彼ひとりではなかった。上位にいたほぼすべての選手が池にハマったのだ。

イアン・ポールター、トニー・フィナウ……。首位を走っていたモリナリに至っては12番で池に打ち込み、さらに15番パー5で3打目をグリーン手前のクリークに落としトップから陥落した。

「そう、皆が次々と池に打ち込んだんです。タイガー以外、全員がね」

19年マスターズの途中経過リーダーボード。12番ホールの欄を上から見ていくと上位陣が軒並みスコアを落としていることがわかる(写真/姉崎正)

それは何か人間の手が及ばない領域での出来事に思えた。

それでもケプカは踏ん張った。12番のダブルボギーのあとすぐに13番でイーグルを奪い返し優勝戦線に踏みとどまった。

だがタイガーが13番、15番、16番でバーディを奪い最終18番を迎えたときには、バック9の猛チャージで急浮上したザンダー・シェウフェレ、15番から3連続バーディを奪ったダスティン・ジョンソン、そしてケプカを2打リードしトップに立つ展開だった。

2ストロークのマージンが意味するもの。それは18番をボギーで上がれば十分に勝てるということ。奇跡の復活劇のフィナーレはボギーだったが、ケプカら3人に1打差で勝ちきったタイガーは激しいガッツポーズを繰り出した。

「悔やまれるとした15番のイーグルパット。(同組の)ポールターのパットの転がりを見て真っすぐ狙ったけれど、張り替えたばかりのグリーンのせいか全く違うほうに転がってしまった」と上がり3連続パーに終わったケプカのマスターズ優勝の夢はお預けになった。

再び彼にグリーンジャケット獲得のチャンスが訪れたのは2023年。初日から3日目まで首位を快走し最終日はジョン・ラームを2打リードし完全優勝目前だった。

ところが序盤から歯車が狂いボギーがかさんでラームに逆転を許すと8番ではティーショットを木立の中に打ち込み茫然と立ち尽くすシーンも。13番で23ホールぶりのバーディを奪い反撃を試みるも最後はラームに4打差をつけられ、最終日に『65』をマークしたフィル・ミケルソンとともに2位タイで終戦した。彼にとってはオーガスタの女神の采配を恨めしく思った1日だった。

23年マスターズ、最終18番ホールのバーディパットが外れたブルックス・ケプカはフィル・ミケルソンと並んで2位タイで終戦した(写真/岩本芳弘)

「あの日のことは思い出すだけで気分が悪くなります」と肩をすくめ苦笑いを浮かべたケプカ。全米オープンは連覇で2勝、全米プロは連覇を含む3勝。しかしマスターズではこれまで見えないものの采配に翻弄されてきた。

自宅の壁面いっぱいにディスプレーされたトロフィーケースには数多くの戦利品が飾られているがその中央は空いたまま。そこにはグリーンジャケットが飾られる予定だ。

オーガスタで勝利の女神が彼に微笑む日はいつ訪れるのだろうか?

文/川野美佳

米サンディエゴ州立大学留学を経て1990年代から「週刊ゴルフダイジェスト」「Choice」を中心に執筆を開始。主な翻訳書に『タイガー・ウッズ私のゴルフ論』(テレビ朝日)『タイガー・ウッズ:もうひとつのインサイドストーリー』(日本ヴォーグ社)『ブッチ・ハーモンの勝者のゴルフ: タイガー・ウッズを育てた名伯楽』(小池書院)など。ジャック・ニクラス、ゲーリー・プレーヤー、トム・ワトソンなど海外のレジェンドゴルファーへのインタビューを多数行っている

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