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一番よくないのは“比較”すること。「違いを認め、個性を伸ばすことが重要です」【強いきょうだい大研究】<後編>

岩井姉妹やホイガード兄弟など、近年“きょうだいゴルファー”の活躍が目覚ましいが、きょうだいとも活躍できるのは、親やコーチなど、周囲の環境も大きい。伸びるきょうだいの共通点について、識者たちに話を聞いた。

PHOTO/Hiroyuki Okazawa、Tadashi Anezaki、Shinji Osawa、Yasuo Masuda

岩井姉妹の下の弟・光太(日大3年)も昨年ナショナルチームに所属したトップアマチュア。姉たちの背中を追って「世界を目指す」。3きょうだいはとても仲が良く、刺激し合っている

>>前編はこちら

「気兼ねなく相談できる。いい目標にもなる」

日章学園ゴルフ部監督
菊池美幸さん

22年の「緑の甲子園」で史上初男女ペア優勝を飾った日章学園。監督19年目となる菊池先生によると、「来年入ってくる選手を合わせてきょうだいは17組います」

きょうだいで同じ競技をするメリットを、「近くにいるので悩みなどを気兼ねなく相談できることでしょうね。いい意味でライバル的な感じです。ただ、親御さんの目を気にするようになるとよくない。姉はダメ、妹はダメと“いい悪い”で比較されると劣等感が生まれてしまいます。ただ、今の親御さんに、そこまで比較したりする方はいませんね」

先生自身は同じ部活にきょうだいがいても、特別に気は使わないという。

「ただ今の時代、上下関係がゆるくなっているなかで、きょうだいがいると遠慮がなくなり呼び捨てになったり、より関係がゆるくなりがち。私は、先輩には必ず敬語を使わせるようにしています。そうするとそれぞれに自覚ができるんです。あまりにフランクになりすぎると、逆に雰囲気が悪くなってしまいます」

比較ではなくルールを徹底する。常に目標を持ち、生徒たちと多くのミーティングを重ね強いチームを作ってきた菊池先生だから受け入れられる。

「上のきょうだいを見て同じ競技に取り組む子は多い。いい目標になるでしょう。でももし仮に実力に差ができてきても、親御さんや私たちがしっかりすること。きょうだいというだけではなく、私は生徒のいろいろな面を総合して見ます。結果があまり出なくても人として応援したい選手はたくさんいますから」


「嫉妬心や劣等感を生まない、公平な子育てが大切」

メンタルコーチ
赤野公昭さん

プロゴルファーだけでなく、アスリートや経営者のメンタル面をサポートする赤野氏。

「昔は『平等』に育てることがよいとされていたんです。一律に同じように育てるイメージです。競技でいうと、コーチのスキルに選手が合わせるというやり方です。でも今は『公平』に育てることが大事。それぞれの個性に合わせて、という時代になってきています。きょうだいでも当然個性は違います。ですから、親でもコーチでも、そのスタイルや教えを押し付けようとすると、その子に合う、合わないが出てくる。でも昔は、きょうだいだから同じところに居続けないといけなくなったり、あげく比較されるようになることも多かったですよね」

この比較が一番よくないのだという。

「比較すると劣等感や嫉妬心が生まれ、それはマイナスのほうに働く。上達も妨げますし、きょうだいの仲も悪くなります。親の愛を奪い合ったり、そもそもゴルフが嫌いになったりするんです」

ここで岩井姉妹を例に出す。

「岩井姉妹もプレースタイルなどは違います。でも、本などでコーチの永井哲二さんの言葉を読むと、絶対に否定しないそうですね。そして自ら考えることを大事にし、自身の強みを自分で伸ばしていこうとされている。今は、ほめて育て、1人1人の自己肯定感をどれだけ高められるかが大事ですから。また、永井さんのようなコーチにあずけたお父さんの選択も素晴らしい。共通して必要な体力作りは徹底的にさせたということですが、あとはコーチに任せた。コーチングスタイルもずいぶん変わりました。子どもの潜在的な強みを引き出すようにすると、たくましさが生まれてくる。そういう子たちは強くなる。個人としてゆるぎないものができると、他人と比べないから仲も良くなるしお互い高め合える。岩井姉妹のコメントを聞いてそう感じます。きょうだい仲がいいのは子育ての仕方が上手いから。経営者でもきょうだいで骨肉の争いになるパターンが昔はよくあった。子ども時代が大事。大人になって修復はしづらいのです」

特に個性の違いが際立っているきょうだいが活躍しているように思えると赤野氏。

「昔の尾崎3兄弟はそうでした。スウィングもプレースタイルも生き方も違った。それがよかったのでしょう。きょうだいだからと変に似せようとするとおかしくなります。それにお互い成功したほうがいいに決まっていますから」

「孤独な競技のなかの心強さ。比較は絶対しない」

埼玉栄ゴルフ部名誉監督
橋本賢一さん

強豪、埼玉栄のゴルフ部を率いて41年。その間、今平周吾や菅沼菜々、そして岩井姉妹も指導し、退職後はジュニアアカデミーを主催する橋本先生は語る。

「メリットは心強いこと。ゴルフは孤独でメンタル的な要素も非常に大きな競技です。きょうだいで同じところでプレーする安心感は大きいと思います。僕の元にもきょうだいで来た子は多いですね」

どちらかの成績がまったく振るわなかったことはないと言い切る。

「僕の教え子に仲の悪いきょうだいはいませんよ。実は、3きょうだいで、真ん中の子が別の学校に行ったことがあります。それは性格的な面を鑑みての親御さんの判断でした。長男はどんどん引っ張っていくタイプで、弟はそれにメンタル的に負けてしまう可能性があるので別の学校がいいと。個性を理解して判断された親御さんは素晴らしいと思いました。一番下の子はまた埼玉栄に入ってきましたけれど」

指導する立場の人間を信じられる子どもは伸びると橋本先生。

「もちろん、信じさせることも教師の力。そのため私自身が多くを学び伝えるようにしてきました」

そして、生徒たちの比較は絶対にしないし、したことはない。

「岩井姉妹は二卵性の双子ですけど不思議ですよ。顔も違うし、スウィングも性格も違う。でも一緒に強いですね。以前は姉のほうが運動神経もよかったし飛びました。でも妹は負けず嫌いで鍛えて今は飛距離も同じくらいになった。親御さんは両方に気を使っています。それはとても大変だけれど大事なこと。弟のこともきちんと気にかけていますし、1人だけでいいということはまったくない。それを周りにも受け入れてもらえるようにされています。私自身、きょうだいではないけれど教師をしていた父親と比べられてすごく嫌だった経験がある。先入観なく接すること。生徒たちの周りには平気で比較する人もいるんです。そのときはすぐ『そんなことないから全然気にするな』と、1対1で話をして気持ちを盛り上げます」

週刊ゴルフダイジェスト2025年11月11日号より