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阿久津未来也“勝てるゴルフ”へ<後編>「100点よりも100%」高い目標に向かって進んでいきたい

今年6月のミズノオープンで、プロ10年目のツアー初優勝を挙げた阿久津未来也。「変化」への熱望、勝てそうで勝てない時期を経て、30歳で勝利をつかんだ。2年半前から師事するドラコンプロの山﨑泰宏は何を伝えてきたのか、話を聞いた。

PHOTO/Tadashi Anezaki、Hiroyuki Okazawa、Hiroaki Arihara

山崎泰宏 やまざき・やすひろ。1969年生まれ、長野県出身。高校までは野球に取り組み、スキー指導員の資格も持つ。33歳でドラコンを始め競技に出場する傍ら、ツアープロ含む多くのゴルファーをレッスン。日本ドラコンシニアチャンピオン7回
阿久津未来也 あくつ・みきや。1995年生まれ、栃木県出身。3歳でゴルフを始め、作新学院高を経て日大へ。4年時に日本学生優勝。16年にプロ転向し、21年初シード獲得。25年ミズノオープンで初優勝。24年からJGTO選手会の副会長としても活躍

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点から線へ
「入射角」が適正に

178cm、83kg。ドラコン選手として決して大きくはない山崎。

「それでスピードを出して飛ばしているから、トレーニングを含め、何かスウィング理論があると思われる。僕のクラブの使い方などは独創的な部分があるんです」

しかし、飛ばすことは入口で、教えるプロには、もっと幅広いことを伝えていくという。

「未来也くんを最初に見たとき、スウィング中にフェースの向きが右や左を向きエラーが起こると思った。子どもの頃からセンスでやっているので意外に自分で気づかないんです。まず、フェース面の安定を心がけようと。そして、クラブが上から入りすぎることが一番悪いクセに見えた。ダウンブローの入射角をゆるくするようにトラックマンで測りながら行う。選手は感覚でやっているので、実際に数字を見ると納得してもらえることも多い。でも、数字がいくつかは大事ではない。行き過ぎた数字を説明して、どうするか考えていくんです」(山崎)

「一番変えたのは『入射角』。ダウンブローがきつくなってくるとどんどん悪いほうにいく。それを変えるために、テークバック、クラブの使い方、面の管理、体の使い方……いろいろ試行錯誤していきました。すると入射角も変わった。僕はデータを見るとすごく気になっちゃう性格です。でも確認しながら打つことも必要かもしれません」(阿久津)

スウィングはまだ完成していない。しかし、取り組んだ翌年から結果が出始めた。

「クラブを上から刺さなくなり、ボールに対して“点”でヒットしていたのが今はゆるやかに“円軌道”で打つのでミスになりにくいんです」(山崎)

これにより、いろいろな球を打てる土台が整った。これが幅広いマネジメントにもつながる。

「何がなんでもフルスウィングするのではなく、置きにいったり、球を低く打ったり。ドライバー1本で同じ球を打つのではなく、いろいろな引き出しを持っていたほうがいい。“球種”を覚えると攻め方も1つではなくなります」

「ボールをゾーンでとらえらるようになり、大きなミスが減った。ボールを点でとらえることは難しく、大きく曲げる原因になったりします」


全英オープンの練ランでは、山崎が大好きなホアキン・ニーマンと一緒になったという。

「ニーマンは自分の理論とかぶる。アームローテーションを使わず、ナチュラルに上げて体との連動で振っていく。スウィング中にシャフトがゆるまないことが最高に好きです」(山崎)

「ニーマンを見てザキさんの言っていることに説得力が増しました。自分でもその動きができますから、僕たちにもスッと入ってくる」(阿久津)

世界ナンバー1のS・シェフラーに対しても、「彼の足の動きはマネできないと言うけれど、ボールに対してエネルギー効率を与えるインパクトゾーンは確かなものだし、彼は球が飛ばないのでインパクトで全体重をボールにぶつけることが足の動きになっている。クラブの動かし方は僕の理論と同じで『インパクトで右手は下で後ろ』。それにフェース面のコントロールの仕方がすごく上手い。勝つためにしっかり準備と練習を重ねているのだと感じました」

右手が下で後ろ。シャフトがゆるまない。「縦コックは使わずに、右腕を長く使うことでボールに対しての距離が変わりにくく、大きなアークのまま振れる。しかも、筋肉だけでスピードを出していません」

1つのことを
ブレずにやり続けられる才能

「プロになって最初はシード選手になることが目標で、20-21シーズンにランク27位で初めて取れた。でもツアーでの優勝も目標に掲げていた。初優勝まで10年という年月が長いのか短いのかはわからないけど1つホッとしました」(阿久津)

阿久津は、ここ2年で上位争いに顔を出すようになったが、「“気づいたら”の2位、3位が多くて。昨年やっと最終組や1つ前の組でボードを見ながら優勝を意識して回れた。この経験が間違いなくプラスに働いています」

ここに関しての山崎のアドバイスは、「常に上位にいることが大事。ドラコン大会も同じですけど、優勝する人は2位も3位も多い。するとラッキーもあったりして、そのうち優勝がつかめるんです。さらに言うと、勝っていなくてもシード権をずっと取れる“強さ”ということもありますから」

ミズノオープンでは、風が強いなかでの決勝ラウンド。

「昨年は3、4日目で押し負けているような感じもありましたけど、(優勝した)ミズノでは、緊張感はあっても、心配やネガティブな感じはほとんどなかったです」

今まで取り組んできたことが、結実した初優勝だった。

前半、パットの不安要素が増しショットにも影響した。「地元のクラフトマンに相談してピン型からL字型に替えた。線を合わせたり構えも変えてよくなりました」

「僕と出会ってからは、もうこれだけは絶対にやろうということをブレずにずっとやり続ける。真面目に練習しますね」とは山崎の阿久津評だ。

周りから“いい人”だと言われる阿久津は、自身をゴルフにはあまり向いてないという。「もっと楽観的に考えていけたら。周りを気にしてしまうし。よくゴルファーはB型がいいと言いますよね。ちょっとうらやましいです」

しかし、コツコツタイプである一面は、ゴルフ向きとも言えるのかもしれない。「自分なりに1つ1つクリアにしていく。これが、僕が後輩やジュニアに伝えられることかもしれないですね」

トレーニングにも“コツコツ”ぶりが出る。「ザキさんにアドバイスをいただいたことをやっていくしかできない。自分なりに少しは考えてやってはいますけど(笑)」

今、スリークオーターショットの練習が土台となっている。

「体を使って打つ感じになれる。脱力感も含めて、動きがつながってスウィングに流れが出ます。つながりを生むことがテーマです」

「一度に多くのドリルに取り組めるタイプではない。1つのことをずっと意識しながらやっていくしかできない」(阿久津)「常に同じドリルをスウィングのバロメーターにしたほうがいいんですよ」(山崎)

土台はできた
日本のメジャーで勝ちたい

阿久津は今、自分が変化することに恐怖はなく、むしろより積極的に取り組めるようになった。

全英で予選落ちした翌日もさっそく、山崎と課題を得た。

「悪くなると球の高さが出なくなる。全英では低くてよかったけど、日本ではもう少し高い球が必要。打ち出し角をきれいに高く出してスピンを入れていくことです」(山崎)

「高いボールを打つため、目線が変わる頭の傾きに注目。10月くらいを目標にやっていきたいと自分から言いました。日本オープンで勝ちたいんです」(阿久津)

アイアンを新しくしよう、また何か感覚を変えてみようかなどという決断もパッとできるという。

「優勝したスウィングでいいと言われたらそれまでだけど、ミズノでも反省点や課題があったし、全英に出て欲が出て、もっとこうしたいというものもあった。結果が出ないと、ミズノの優勝は偶然だったなんて言われるかもしれないけど、もう一度、秋の大きな大会でバーンと行きたいので、今から取り組みます。稼げるときに稼げ、という考え方もあるかもしれない。でも、もっと高い目標を持ってやりたいですね。今の目標はもう1勝です。海外ツアーで戦いたいと言いたいですけど、それよりも日本のメジャーに勝ちたいです」

尊敬する大学の先輩、堀川未来夢のYouTubeチャンネルの常連ゲストでもある阿久津。そこで、ミズノでの優勝シーンが取り上げられた。

「今年のツアー選手権での堀川先輩、負けたけれど、記憶に残る試合でした。あのグリーンの舞台に立ちたいと思っています。若い選手はたくさん出てきているけど、プロ人生を仮に20から50までと考えると、折り返しは35歳だから、まだそこにも到達していない。ザキさんは70歳で300ヤード飛ばすと言っていますし。僕の最近の好きな言葉はマンガにあった『100点よりも100%』。その感じで、進んでいきたいですね」

ツアーで仲良しの大学の先輩、堀川はミズノ優勝時の“水かけ”に不参加。「後輩に負けた悔しさがあったはず(笑)。性格も真逆でゴルフもかなわないけど、尊敬しています」

週刊ゴルフダイジェスト2025年9月9日号より