Myゴルフダイジェスト

会員登録
  • ホーム
  • プロ・トーナメント
  • 【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.865「今年の全米女子OPは土壇場での1打の重圧を考えさせられる興味深い内容でした」

【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.865「今年の全米女子OPは土壇場での1打の重圧を考えさせられる興味深い内容でした」

米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。

TEXT/M.Matsumoto

>>前回のお話はこちら


今年の全米女子オープンは、難コースで最後まで優勝争いがオモシロイ展開でしたが、岡本さんはテレビ中継の解説席でどのようにお感じになられましたか。(匿名希望・HC12)


試合会場のエリンヒルズを見て感じたのは、コースの中に木が一本も立っていないことでした。

視界を遮るものがない広い風景の中にうねる地形が続きバンカーも132個もあるそうです。

どんな展開になるのか、伝統ある全米女子オープンの舞台としてはある意味で異色なコースに期待感が高まりました。

初日が終わって驚いたのは上位11人のうち4人を日本勢で占めていたことでした。

ただ、フラットなところが見当たらないほどのフェアウェイ、深いラフ、硬く締まって速いグリーン、厳しいピン位置と、幾重にも重なる難関が待ち構えるコースでは、やはりスコアが全体的に伸び悩んでいました。

アメリカ中西部、ウィスコンシン州東南部の内陸に位置するエリンヒルズは2006年、起伏豊かな元湿地帯に設計された比較的新しいパブリックコースだそうで、2017年の全米オープンに続きナショナルオープンの舞台に選ばれました。

コースセッティングについてもUSGAならではの点も数多くありました。


フェアウェイバンカーの縁を長く密集したラフが守るように取り巻いている点やパー5で2オンが可能な距離に設定しながら、砲台グリーンからこぼれるとどこまでも滑り落ちていくように斜面が短く刈り込まれている点など数え切れません。

プレーヤーは毎ホール、点と点を綱渡りしていくような戦術を強いられました。

わたしは女子の公式戦にもこうしたタフなセッティングが導入され、それが当たり前になってきたことと、それに耐えうる現在の選手レベルに、大きな誇りと頼もしさを覚えます。

竹田麗央選手が最終日の5番ホール、バンカーの横から打った第2打がシャンクしたのも、厳しいセッティングの副産物でしょう。

なかでも優勝したマヤ・スターク選手の最終日最終ホールは興味深いものがありました。

それは、パー5で3オンに失敗したマヤ・スターク選手が見せた第4打の狙い方。

かなりシビアなピン位置であったこともありましたが、残り約30ヤードの距離をピンを狙わず刻んだのです。

普通では見られない究極の選択を見た思いがします。

わたしはこの時、日本人のキャディだったら、この1打を犠牲にする提案をしただろうか?

という疑問が頭に浮かびました。

極限の状況では、1ストロークと引き換えにボギーをもぎ取る選択肢がある。

そんな教えも存在するのではないかと考えさせられました。

こうした発想や選択は、メジャー大会の経験を積み重ねる中でしか生まれてこないものなのかもしれません。

普通は言わないという断りを入れて、このコースに挑んだ選手たちは「やけくそ」な気持ちで打つことも、ときにあったのではないかと想像して言いました。

それほど過酷なセッティングであったとも言えるので、選手たちの気持ちもわからないこともないと思ったりもしました。

目まぐるしくて予測がつかず、まったく気が休まらない4日間の解説になり、わたしも疲れました(笑)。

ちなみに優勝したスターク選手は、アニカ・ソレンスタム選手の主宰するアカデミー出身の25歳でした。

日本人選手も今年から米ツアー初参戦の竹田選手や岩井千怜選手、そしてメジャーのシェブロン選手権では西郷真央選手が、初優勝しました。

そして今大会、日本人選手は21名出場して10人が予選通過、トップ10に3選手が入りました。

日本人選手の健闘というより、もういまはそれが不思議なことでない、というレベルまで高まってきたと言えると思います。

「最後の1打まで食らい付く人をゴルフの神様はきっと見ていてくれていると思います」(PHOTO by Ayako Okamoto)

週刊ゴルフダイジェスト2025年7月1日号より