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【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.860「西郷選手のプレーオフ 筋書きがないドラマとはまさにこのこと」

米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。

TEXT/M.Matsumoto

>>前回のお話はこちら


シェブロン選手権で西郷真央選手がプレーオフでメジャー優勝を達成し、試合展開も相まって大変興奮いたしましたが、解説をされていた岡本さんのご感想をお伺いしたくよろしくお願いいたします。(匿名希望・49歳)


西郷選手の快挙達成には言葉も出ない感動を味わいました。

3日目は濃霧でスタートが1時間半以上遅れて全選手がホールアウトできず、最終日はメジャー最多5人で争うプレーオフにもつれ込むなど、連日の長期戦で正直疲れました。

でも、面白かった! 特に最終日の試合展開には心底シビレました。

トップでスタートした西郷選手は前半首位をキープしていましたが、10番、11 番のボギーで後退して、圧倒的な飛距離を誇るアリヤ・ジュタヌガーン選手がトップに立つ。

タイ出身の彼女は2016年にメジャーチャンピオンに輝き、中学生だった西郷さんがこの優勝に刺激を受けた憧れの存在だったそうです。

ジュタヌガーン選手は、1打リードの通算8アンダーで迎えた18番パー5でも飛距離を武器に2オンを狙いグリーンをオーバーして奥のラフに。


ボールはバミューダ芝の密集にやや沈み、そしてグリーン面は速く下っているため、繊細なショットが必要となる状況でなんと、ヘッドが上手く抜けずにボールは10センチも動かないチャックリ。

彼女自身も何が起きたか分からないほど、やや動揺していたと思います。打ち直したアプローチは、カップ下3メートルまで転がり、返しも入らずなんとボギーに。

3打目を打つ時点ではわからなかったですが、結果的にパーを取っていたらジュタヌガーン選手が優勝していたということ。本当に何が起こるかわかりません。

今度は西郷さんのドラマがここから始動することに。

私は言いました。

「目を閉じていていいですか?」

西郷さんが18番グリーンで3メートルのバーディパットを打とうとする瞬間のこと。

決めなければプレーオフ進出できない状況で見ていられない心境でした。

そしてこれを沈めて7アンダーとして、ジュタヌガーン、イン・ルオニン、キム・ヒョージュの3選手のメジャーチャンピオンに加えて、ツアー未勝利のリンディ・ダンカン選手と西郷さんの5人によるプレーオフ。

わたしも10年以上解説席に座ってきて何回もプレーオフの経験がありますが、5人で争うケースを見るのは初めてでした。

18番パー5を使ったプレーオフ1ホール目。

スタート前、5人でパー5をプレーするのでそう簡単には決着は付かないと思っていたら……。

ダンカン、キム選手はレイアップをしましたが、西郷、ジュタヌガーン、イン・ルオニンの3選手が2オンを狙う状況。

そして、イン・ルオニン選手が完璧ショットでピン奥4メートルに2オン成功。

この時点でイン・ルオニンが圧倒的優位。

イーグルを決めて勝つ、もしくはバーディで他の選手と並びネクストホールになるかと思うのが普通の考えかと。

ダンカン選手は3打目をミスして脱落、3オンのキム選手もバーディパットは決まらず。

ジュタヌガーン選手はグリーン奥からのアプローチで3メートルに寄せるが外してパー。

イン・ルオニン選手のイーグルパットは、下りのラインでしたが3メートル近くオーバー。

そして返しのパットも外して、まさかの3パットでパー。

グリーン奥から1メートルに寄せていた西郷選手のバーディパットが最後に残り、これを沈めてメジャー優勝となりました。

5選手がセカンドショットを打ち終えた段階でこの状況を誰が予想できたでしょうか。

まして、22歳ながらメジャー覇者でツアー5勝しているイン・ルオニン選手が、あの状況で3パットするとは選手たちも思ってなかったと思います。

まさに筋書きのないドラマで興奮しました。

優勝スコアは2桁アンダーと思われていましたが、そうはならなかったのは硬く締まってアンジュレーションのあるグリーンとメジャー特有の難しいピンポジションにあったと思います。

そんな状況でも自分のショットを必死にコントロールしようとした西郷さんの辛抱強い奮闘が光りました。

彼女は最近の若手女子プロの中ではやや地味めなのかもしれませんが、純粋で高い目標を見据えている姿勢は心からリスペクトできます。

ただ、これで彼女の周囲の環境は激変するでしょう。

試合に出るたび、アメリカの地元局の取材を受けてからプレス会見、それから日本のマスコミ対応で、普通では考えられないほど毎回毎回同じ質問を繰り返されるため、神経がおかしくなることもありますが、メゲないでほしいと思います。

そうした変化がこれまで以上何倍にも成長させてくれると思うからです。

わたしならインタビューの受け答えを「AI西郷」を作って任せちゃうかも(笑)。

これからも頑張れ、西郷どん!

「スポーツってどうして人をこんなに興奮させてくれるんでしょうね!」(PHOTO by Ayako Okamoto)

週刊ゴルフダイジェスト2025年5月27日号より