【インタビュー】米澤蓮「ゴルフは楽しいけど苦しい、楽しいけど怖い…でも飽きない」

今週、国内男子ツアーがいよいよ開幕。今年注目のプロ4人に、オフの過ごし方、ゴルフへの向き合い方、今年の目標をインタビュー! 2人目は、昨年2勝を挙げブレイクした米澤蓮。
PHOTO/Hiroyuki Okazawa、Hiroaki Arihara、Tadashi Anezaki、Shinji Osawa

「ゴルフはもちろん
人間性も見てほしい!」
米澤蓮は、クールでとても大人びて見える。
「子どもの頃から結構変でした。今でもよく、変わってるねと言われます。たぶん、物事に対して独特な感性というか見方がある。ずっと物事を斜めから見続けてきた。だからやっぱり考える力も人より鍛えられるし、想像力もあるほうだと思います。考えなくてもいいことが頭に浮かぶから、いいのか悪いのかはわらないけど、いつも『本当にそうなの?』と感じてきたし、そう思えば実際調べてきた。それを積み重ねてきたんです」
面白い自己分析である。
現在、ホテルや交通の手配から、ビザの手配もスポンサーとの契約まで自分で行う。英語も堪能だ。
「英語もやらなければいけないという“現実”です。自分の強みは自分が一番わかっている。他の選手にないものを言語化して伝える。すると経営者の方にも刺さるんです。成績だけを売りにしても響かない。大変ですよ、でもチャレンジの1つです。どこにコストを払うか。簡単に言えば、今は、通訳を自分でやって、ビジネスクラスに乗るほうが自分のためだと考える。僕、だいたいがケチなんですよ。価値があるものなら100万円払ってもいいけど、ないものには1円も払いたくない」
プロゴルファーをビジネスととらえ、何にコストを割くか、真摯に考える。
家族は誰もゴルフをしない。運動神経がよかったわけではない。頼る人もいなかった。ずっと1人で取捨選択してきた。しかしそれが、「考える」という、ゴルフにも人生にも必要な原動力となった。
「もちろん、いろいろな人からアイデアはいただきます。でも、そればかりやっていると、自分で考えなくなってくるんです。困ったら聞けばいい、というスタイルが僕はすごく嫌いなんです」
現在、コーチと呼べるのはJGAナショナルチームのガレス・ジョーンズ氏だ。「毎日スウィング動画を送って確認したりはしません。まず自分で考え、わからなかったら聞く。それは子どもの頃から変わらないスタイルです」

2勝した昨年を評して「トータルで見たら95点くらい」。初優勝は運に助けられ、2勝目は自分のしたいゴルフで勝てたという。
「そこからはあまりよくなかった。やっていることは変わらないんですけど、無意識に自分の求めていることが変わっていた。もう1勝したいと勝つことしか見ずにやるから波の激しいプレーになったんです。でもそれはプロとしてやっている以上は仕方がない」
だから今年は、その波の幅を抑えることが課題になってくる。そこが修正できれば、もっといい位置に行けると考えている。
「スタッツは全体を見ますけど、すべてではない。ただ、単純な指標として前年に比べて悪い部分はどうにかしたい。ティーショットをフェアウェイに打てるようにするとパーオン率も上がってくる。オフにもそこに取り組んで、すごく手応えがあります。クラブもだし、技術的なところも。近づきたいと思ってやっていたスウィングがここ何年かで一番いいんです」
トラックマンなども取り入れているが、数字だけを追わないようにしている。
「あくまで数字、こちら側の意図は反映されていない。スウィングに関してはデータ派には絶対行きたくない。でもゴルフゲームとしてはデータを取り入れたほうがいいと思っています。スコアという部分においては絶対嘘はないから、ショットデータみたいなデータを入れるべきです」
大学生の終わり頃からパッティングイップス気味に。乗り越えてはいないという。
「いろいろ試したけど大きくは変わっていません。結局、自信を持てたら、また入るようになる。ゴルフのゲームにおいて、パッティングが唯一入るか入らないかの2択。グレーな結果がない。でもショットはグレーがある。曲がったけど、次打てるよね、という。毎回白か黒か突きつけられるからそのダメージは大きいんです」
しかし、自身の武器がショートゲームだという考えは変わらない。パワー、飛ばしに突き進むゴルフ界も“斜め”に見る。
「一般的なトレンドがそうなだけで、皆がやってるから自分もやろうが一番ダメ。そういうことも子どもたちに伝えたい。SNSもネットもそう。毎日流れてくるものは、本当にそうなのかと、考える力を持ってほしいと思います。その力がないと、皆が右に行ったから右に行くという選手になってしまう。もちろん、左には落とし穴がある場合もある。そこに落ちたときに、皆の意見は半分くらいは合ってるんだなと思えるか、ですよね」
地元東北への思いは強い。地区連盟のジュニア強化合宿に参加したり、岩手で個人的にジュニアレッスンを企画したり、出身の盛岡中央高ゴルフ部を見たりしている。
「本業に支障のない範囲です。こっちも結構楽しいんです。いい刺激になるし。ジュニアの数も減っている。いい選手を輩出するにはまず数を増やさないと。プロとして、優勝してキャリアをステップアップしているが、地元に帰ってくれば、近所のおじいちゃんたちにとって僕はずっと可愛い孫なんです。どんなところでプレーしていようが関係ない。そういうところがすごくいい。だから自分も子どもたちに対して何かしたいと思うんです。これは僕が欲していた場。僕自身、教えてくれる人もいなくてすごく苦労した。子どもたちって一緒に時間を過ごしているだけで、クエスチョンが浮かんでくる。その気付きが大切。こちらから教えることは一切ないから聞いてくる。それが一番いい」

優勝後、地元の練習場に行っても適度な距離感を保ってくれる県民性だという。「控えめで、全然ガツガツ感がない。練習場でも声をかけたいけど、邪魔しちゃいけないと思う人のほうが多いんです。でもすごく応援してくれているなっていうのは伝わってきます」
目標は、「結果的なところでは賞金王です。日本以外でプレーするチャンスがあれば行きたい。焦りはないです。人それぞれの個性や道があるから、自分にはどういう道があるか、自分に合っているものは何だろうということは常に考えながらやっている。チャンスが来たらどこにでも行く身軽さは持っています」
ゴルフは大好きだが、プロゴルファーは楽しくないらしい。
「アマチュア時代のほうが純粋にゲームを楽しめていた感じはあります。お金とかいろいろなものが付いてくると様々な要素が入ってきて、それが寂しい……でもやりがいはありますよ。ゴルフは楽しいけど苦しい。楽しいけど怖い。でも飽きないです」
自信はない、と言い切る。だからこそ、物事を斜めに見続けて、正解を探していくのだろう。
「でも、自信がないから、ちゃんと練習もするし準備もするんです。心配や不安も僕にとって大事。海外で通用するという感覚はない。どんな国でもやっていけるメンタル的な自信はあるけど、競技力はあるのか、いつも考えています」
自分をも斜めに見て分析し続ける。それが米澤蓮というプロゴルファーの強みであり魅力なのだ。
週刊ゴルフダイジェスト2025年4月22日号より