【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.853「ゴルフ伝来から100年を経て日本人選手が世界で戦える時代になったことをうれしく思います」

米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
>>前回のお話はこちら
- 米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。 TEXT/M.Matsumoto >>前回のお話はこちら 日本の女子プロゴルフは、世界に羽ばたく選手が10人以上にも増えていますが、岡本さんがもし今、現役だったとしたら、現在活躍中のどの……
日本人は繊細だが大胆さに欠けるともよく言われます。その国民性はゴルフにとって有利なのでしょうか不利なのでしょうか。岡本さんは日本人の強みや日本人のゴルフ観について、どう思われますか。(匿名希望 ・HC5)
性格や好みは人それぞれで、育った家庭、学校、友だちなど後天的な環境から大きな影響を受けて人は成長していきます。
国民性とは言いますが、同じ国に育った人間がみな同じ性格や考えではないように、日本人の中にも違いがありますよね。
どこの国の生まれだから、どのスポーツが向いているということはないと思います。
それにゴルフという競技は、飛距離と正確性という二律背反が付いて回ります。
より遠くへ飛ばそうとすれば、精度を犠牲にせざるを得ない。
パワー系とセンシティブ系のせめぎ合いがあるわけで、完璧な両立は至難の業です。
精神的にも攻撃的なだけではスコアメイクが難しく、そこにこそゴルフというスポーツの難しさや魅力があるのだといってもいいでしょう。
体のサイズや強さだけが有利不利を決めるわけではなく、ひと昔前は「ゴルフは足が短いほうが重心が低くなるから上手い」なんて迷信めいたことも言われていました。
また、知的想像力や経験がカギを握ったりする部分もあるので、性格や特質だけで優位に立てるわけではなく、どこの生まれだからゴルフに向いている、ということは言えないとわたしは思います。
スコットランドはゴルフの聖地と言われるだけあって、1860年に始まった世界最古のトーナメントの全英オープンでは、その最初の大会から自国のプレーヤーが連戦連勝し、初めて外国のイングランド選手が優勝したのは、創設から30年がたった1890年のことだったみたいですが、グローバル化が進み、アメリカ、南アフリカ、オーストラリア、スペインなどこれまでチャンピオンを輩出した国は15カ国を超えています。
女子の場合、もっとも歴史の長い全米女子オープンで見ると、アメリカの優勝が一番多く、そのほかでは韓国、オーストラリア、スウェーデン、イングランド、ウルグアイ、フランス、タイ、フィリピン、日本など10カ国以上みたいです。なかでも1998年にパク・セリ選手が全米女子オープンに初出場で初優勝して以来、韓国選手の活躍が目覚ましいです。
家族ごと移住してゴルフに取り組む家庭や欧州からアメリカへの留学組のように大学の強豪チームで腕を磨くプロ指向派も少なくありません。
今後は日本でもこうしたケースが増えてくるのかもしれません。
1970年代「日本はアメリカのゴルフ界に比べて10~20年遅れている」と言われました。
それは技術レベルに限らず、プロトーナメント運営に関する事情、競技人口を含むゴルフそのものの社会的地位など、総合的な観点からの指摘でした。
ですが昨今は、若い選手たちが海外ツアーに挑むようになっており、さまざまな面でかつてのアメリカとのレベル差は確実に縮まってきています。
日本は移住や留学といったプロセスを経ず日本国内だけで強くなった選手が、米ツアーに挑戦して活躍をする時代になってきました。
竹田麗央選手が今季すでにツアー優勝を挙げていることもその象徴かもしれません。
日本では手順を重視して基礎練習を繰り返させるため応用力に欠ける、と言われることもあります。
確かにそうした傾向はあるかもしれませんが、だからといってそれがゴルフの指導法として間違っているとも言えないはずです。
基本に忠実で臨機応変な想像力が求められるのがゴルフなのですから。
ゴルフが初めて日本に紹介されてから120年余り。日本はよく欧米に追い付いてきたと言えるのではないでしょうか。
この100年間に日本のゴルフが果たした進化は決して欧米に負けていない。
それは間違いないとわたしは思います。
進化するかどうか、上手くいくかどうかは、向き不向きとは関係ない。
これからの日本のゴルフの進化に期待です。

「コツコツを積み重ねることができるのは最高のスキルだと思います」(PHOTO by Ayako Okamoto)
週刊ゴルフダイジェスト2025年4月1日号より