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【インタビュー】金谷拓実<後編>「諦めずに積み重ねてきたものが、最後は助けてくれました」

PGAツアーの予選会を突破してツアーカードを手に入れた、金谷拓実。新しいスタートラインに立つまで、金谷は何に苦しみ、どう乗り越えてきたのか。改めて、「金谷拓実らしさ」に迫る。

PHOTO/Tadashi Anezaki、Yasuhiro JJ Tanabe

金谷拓実 かなやたくみ・1998年広島県呉市出身。広島国際学院高2年時に日本アマ、東北福祉大1年時にはアジアパシフィックアマを制し、2年時にはプロツアーで優勝し世界アマチュアランク1位に。20年プロ転向。日本ツアー7勝、アジアンツアー1勝

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  • 昨年の日本ツアー賞金王、金谷拓実。PGAツアーの予選会も突破し、満を持して世界に羽ばたく。PGAツアーに参戦する直前の金谷に話を聞いた。 PHOTO/Tadashi Anezaki、Yasuhiro JJ Tanabe 金谷拓実 かなやたくみ・1998年広島県呉市出身。広島国際学院高2年時に日本アマ、東北福祉大1年時にはアジアパシフィックアマを制し、2年時にはプロツアーで優勝……

自分の気持ちに真っすぐ
向き合い続けてきた

20-21年に賞金ランク2位、23年には3位となった金谷。「賞金王」の重みを、年々感じるようになっていったという。

「23年に賞金王を取れなくて、昨年は結局ヨーロッパの試合に出られなかった。2位だとまた同じようなことになるかもしれないから取れるときに取っておかないと。(終盤は)自分のプレーで変えられるくらいの差しかなかったので、本当に一生懸命やっていました。一試合一試合、一打一打が勝負だと思っていました」

今年最大のライバルとなった2歳下の平田憲聖は、金谷がかねてから「本当にトータル的に上手い」と言っていた選手だ。

「クールに見えてガッツもあります。本当にいい選手。でも憲聖も初めての経験で最後はすごく難しかったんだと感じた。苦しかったんだろうと。自分もそういう思いは前も、その前もしていたから」

最終戦、日本シリーズJTカップまで続いた熾烈な賞金王争い。制したのは金谷拓実だった。

しかし戴冠した当日、喜ぶ暇もなく、夢への挑戦のためPGAツアーQスクールへ出発。

セカンドステージは、距離は長くないがグリーンがトリッキーなコースで行われた。1度だけの練習ラウンド後に本番。周りからレベルが高いと言われていたので気を引き締めていった。初日はよくなかったが、焦ることもなくプレーできた。4位でファイナルへ。

「結果的に、試合勘があるままファイナルまでプレーできたのがよかったのかもしれません」

ファイナルでは出場権獲得の5位以内を意識せず上だけを目指してプレーした。池が多くてティーショットでプレッシャーがかかるホールが多いコースだった。

「でも昨年はドライバーがずっとよかったので、そこは自信を持ってプレーできました」

結果3位に入り、5位タイ以内に与えられる25年の出場資格を得た。

もちろん、ずっと苦しかった。賞金王争いから6週間、緊張の糸が切れたことはない。

「特に最終日の後半は、1打変わればすぐに順位も変わる状況だった。でも、夏にあまりいいプレーができなかったときにすごく練習して、その積み重ねたものが助けてくれたかな。パッティング練習で『〇球入れる』など、決めたことを終えるまで絶対やめなかった。誰よりも練習しよう、逃げない、と。ずっと自分のなかで根性、根性……と思っていました。プレッシャーがかかったなかでやっぱり助けてくれるのは練習ですね」


「パットは、(ガレス・)ジョーンズコーチと日本でキャンプしたときにも指摘された本当に基本的なこと、構えやフェースの向き、ストロークを確認。アイアンは目指していたパーオン率が上がったのもよかった。体幹トレのおかげでもあります。ドライバーもスタッツには出てないけど、スピードは上がって飛んでいました。全体的な手応えはあった」

金谷は努力を「自分らしいプレー」の土台にしていく。そして神様は、努力が好きなのではなく、努力する人が好きなのだろう。

ホールアウト後にあふれた涙は、金谷が取り組んできた気持ちに比例する。

「プロ転向して、メジャーに出たり、チャンスをいただきPGAやヨーロッパ、アジアの試合に出させてもらったけど、上手くいかないことのほうが多かったですから。そのときに諦めなくてよかったなあと。今はLIVゴルフができたり、国内でプレーすることも職業としては悪い選択なんかではない。でも、やっぱり自分の気持ちにきちんと真っすぐ向き合ってやり続けてよかったなあと思いましたね」

「もしも」と言うのは野暮だが、もし、コーンフェリーの出場権しか得られなかったら?

「可能なら、ヨーロッパと両方に登録してプレーしたらいいのかなと。その状況で受け入れてやろうかなと思っていました」

「アクセプト」して
「アジャスト」する

昨年のテーマは「ワクワクする・人と交流する」だった金谷。まだ知らない国で楽しみながらプレーすることを目標にしていたが、欧州の試合に出られず、その機会を失った。その代わりに咋夏に出てきたテーマがあるという。

「キャディ(ライオネル・マティチャック)さんが夏くらいからずっと言っていて……」

金谷の相棒となって4年目となるライオネルさんは、真面目でとてもいい人だ。

「でも厳しい(笑)。僕がいろいろなことを思って浮き沈みがあったとき、『アクセプト』という言葉がすごく響いたんです。物事の状況、ゴルフ場もそうだし、もちろんヨーロッパに出られないことも、しっかり受け入れてアジャストしていくことがテーマになりました」

「アクセプト&アジャスト」。まさにゴルフそのもの。原点回帰だ。

「キャディさんは、たとえばボールがフェアウェイに行ったのにディボット跡に入っていたら怒るような選手がすごく嫌いなんです。そういう選手は結構います。そこでプレーが終わるわけでもないし、そこからどうするかということがすごく必要だから、受け入れる」

ゴルフはその繰り返しだ。

「僕にそういうときがあると『アクセプト、アクセプト』と言われます。実は最初は『エンジョイ』と言っていたんですけど、ムリに笑顔を作るなどではないんです。僕に伝わってないと思ったのか、携帯の通訳機能を出して『アクセプト』を選んだ(笑)。ヨーロッパにも、なぜ出られないんだというより、恵まれた一試合一試合に集中していくことが大事だと思えるようになりました」

「アクセプト&アジャスト。一つ一つが勝負です」

英語にもずいぶん慣れた。通訳を付ける予定はない。「インタビューには英語で答えたいんです。YouTubeで錦織さんなどのインタビュー動画も見ています。優勝したときに言うフレーズは決めていますけど、恥ずかしいので秘密です。ふふふ」

そういえば、金谷拓実はよく、本に書いていたり人が発する「言葉」に反応する。自分の心に刺さる言葉があると、それをモットーにするのだという。

「もう一つ、キャディさんのいい言葉があるんです」と笑いながら金谷が続ける。

「子どもに話すことなんですけど、0+0は0のまま、でも0+1は1、1+1は2、2+1は3……急にはできないけど、これをあと300日やればいいとすごく言うんですよ。0のままでは何にも変わらないと」

これらの言葉もまた、「自分らしいプレー」を作る土台となる。

「0+0は0のまま。この言葉も響きました」

キャディのライオネルさんは信頼する相棒だ。国際免許は持っているが運転は基本任せるし、1日3杯飲むほど大好きだったコーヒーも彼の助言でやめた。「ビタミンCが取れるオレンジジュースに変えて初の6連戦でも疲れなかった。試合中はアミノ酸も取っています」

「あとは、今さらなんですけどNETFLIXで『ラストダンス』を見たんです。最初は10話までバーッと見て、そこからは毎朝好きなシーンを何度も繰り返し見て」

マイケル・ジョーダンとシカゴ・ブルズの黄金期のドキュメンタリー作品だ。

「4話で負けた後にお父さんが言った『ジャスト・ワン・ゲーム、ワンス・バイ・ネクスト・イヤー』。このシーンやセリフが自分のなかにあります。9話でも、負けたインタビューで、何がダメだったと考えずに自分のできるプレーをしたらいいと。マイケルでもやっぱりそういうふうに言うんだなとか。こうして切り替えているんだろうし、それだけの自信があるからそういう言葉が出るんです。そして、10話のラストショットを打った後、会場のエネルギーが吸い取られていったようなシーン。僕も打つ前に、それを吸い取れるくらい集中して打とうって(笑)」

トレーニングも後半変えた。

「体幹をすごく意識してやっていました。パワーを付けても、体幹がしっかりしていないとブレて曲がってしまう。一昨年も左に曲げるミスが多かった。昨年アイアンがよかったのはそのおかげかもしれません」

ずっと課題にしている飛距離も、確実に伸びていると体感している。「実は試合中も週に2回くらいずっとスピードスティックを振っていたんです。脳が“できる”状態になり、限界を外してくれるから、その後9Iとドライバーで打ってトラックマンで計測すると、ボールスピードとかが5マイルくらいアップする。これも積み重ねです」

一打一打、ひとつひとつ…

さあ、いよいよ夢の舞台だ。ここからまた、夢を目指していく。

「本当に、どの大会にも出られることが嬉しいから。スケジュールも組めるし、何でも楽しいですよ。ふふふ。コースはほぼ初めてです。でも、(BS)ジャパネクストで常に見ていましたからね(笑)」

楽しみな試合はフェニックスオープンだという。

「まだ出場権はないけど、やっぱり出たい。松山(英樹)さんも優勝しているし。あの16番なんか、いいですよね。アメリカのギャラリーは本当に楽しんでいるイメージ。ゴルフをそこまでしなくても、僕らが野球を見に行くような感じで。オープンに楽しむ人を見るとすごく嬉しい気持ちになります」

課題はたくさんある。

「全体的にレベルアップしないといけない。本当にすごい選手の集まりだし。でも一日一日成長し続けること。昨年の初めはアメリカで戦うなんて思ってもいなかったから。ちょっとずつの積み重ねが気付かないうちに成長につながっているんです。もちろん初めてのことばかりで難しいこともあると思うけど、そのなかでしっかり受け入れて、それにアジャストして馴染んでいくことです」

キャディと2人、現地のマネジメントスタッフのサポートも受けながら転戦していく。

「最初は探りながら。食べ物も全部受け入れて(笑)。ス―パーもあるし、困ってもなんとかなると思っていますから」

今、海外を目指す日本選手が増えた。“金谷ルート”もその一つになるだろう。

「でもやっぱり、松山さんの影響が大きいです。松山さんと同じ舞台に立てるのはすごく嬉しい。もちろん松山さんもこれから勝負する相手になるんですけど」

もともと子ども好きな金谷。子どもたちへのメッセージもある。

「人それぞれ目標は違うでしょうけど、プロゴルファーを目指す子なら、マスターズに勝ちたい、世界一になりたいとか、その気持ちはすごく大事に生きてほしいなと思います。途中で結果が出なかったり、現実が見えてきたりすることもあるけど、諦めずにその気持ちに向かって真摯に取り組めば、チャンスは絶対に出てきます」

経験を積んだ金谷の熱量を含んだ言葉がきっと、子どもたちの目標となる。今の目標は?

「優勝もしたいし、シードも取りたい、そのためには、一つ一つの試合が勝負。今までやってきたように一打一打を大切にして一生懸命やることが大事だと思います」

大谷翔平で有名になった9マスシートを金谷も使っている。

「僕が書いて持っているものは、2025まで有効期限があるんです。真ん中はけっこう大きな目標ですから、言いません(笑)」

その目標を山の頂上として、今自分がどのあたりにいるかと聞くと、「やっとスタート地点の山の麓にいるくらいです。ここからが勝負ですから」

金谷拓実は、今回のインタビューで「一打一打」「一つ一つ」を何度も繰り返した。それは自分に言い聞かせるもう一つのおまじないのようでもあり、「自分らしさ」を積み重ねるための確固たる支えのようでもあった。

「昔から好きな漢字。一打一打、誠実に」

今年の目標。当面、日本の試合に出場する予定はない。「9月くらいまでは試合に結構出られそうです。アメリカは大きな試合の裏の試合もありますから」。時間があればNBA観戦にも行きたい。「レイカーズファン。兄貴が見ていたので。最近のバスケ、1人が60点くらい取る時代だからすごいですよね」

週刊ゴルフダイジェスト2025年1月28日号より