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【インタビュー】星野陸也<後編>クラブに合わせてスウィングを変更も「一辺倒にはしない」星野流スウィング論

2024シーズンに欧州ツアーでポイントランク16位に入り、今季からPGAツアーに参戦する星野陸也にインタビュー。後編では、コロナ禍から取り組んできたスウィング改造の成果について語ってくれた。

PHOTO/Tadashi Anezaki THANKS/宍戸ヒルズCC

星野陸也 1996年生まれ、茨城県出身。6歳でゴルフを始め、水城高校を経て日大へ。中退し16年にプロ転向。18年にフジサンケイクラシックでツアー初優勝し、日本ツアー通算6勝。21年の東京五輪にも出場し、22年に賞金ランク2位となりDPワールドツアーへの挑戦権を得る。23年からは欧州を主戦場にし、24年のカタールマスターズで初優勝。

>>前編はこちら

ピンチにこそ
オタクの本領発揮!

さて、自称「オタク気質」の星野。クラブ、スウィングや体作りには徹底的にこだわる。

「基本全部自分で考えて、人に聞いたよいものは取り入れて、自分のものにしてきました」

以前より海外用にスウィングとともにクラブセッティングも何パターンか準備してきた。

「パターも芝質によって替える。感覚は変えたくないので、同じヘッドで重さ、ロフト、重心違いのものを数本作った。これで打ち方も変えながら調整します。スウィングもフルショットだけで5、6パターン作っていて。たとえば今まで背筋を使っていたのをお腹のほうを使って打ったりとか。芝質によってそれを使い分けたりします。これが、気胸からの調子の悪さのなかで生きました」

ピンチのときこそオタクの本領が発揮されるのだ。

業務用の鉛ロールを持ち歩き、全クラブに微調整で鉛を貼る。アイアンカバー仲間にはアーロン・ライがいるが、鉛仲間は「探してますがまだ見てないです」

コロナ禍で始めたスウィング改造も役立った。スウィングもクラブも進化していくなかで、自分の打ち方が古かったので思い切った。具体的な内容を聞くと、「ちょっと長くなるけどいいですか」と身を乗り出して、アツい言葉が止まらなくなった。

「(石川)遼くんも、ジョーダン・スピースも、タイガーも、結局皆スウィング改造をした。これにはクラブの進化があるんです」と重心距離とヘッドの運動性能の話をわかりやすくしてくれる。


「昔のヘッドは小さくて運動性能が足りないので、手を使って操作していた。重心距離が短いほうが手で返しやすいですし。昔の選手がベンチプレスを避けていたのも、手を返すときに胸筋が邪魔になるから。今はむしろあったほうがいいんです。今の大きいヘッドは後ろに重心を持ってくることで慣性モーメントが生まれて飛んで曲がらない。今、手を返すとヘッドが運動しすぎてブレ、加速を妨げる。だから手はなるべく使わずに体の回転を使ってジャンプ力と捻転差でスピードを上げるんです」

股関節が先に回転することで左に体重は乗りながら上体が右に残る。「ヘッドが閉じるのが早くなるのを防ぎます」

クラブ開発にも関わっているという星野。

「ただ大きいヘッドにすればいいわけではなく、スウィングのことも考える必要がある。僕の提案した重心位置は、今主流のものです。だから僕もスウィングを変えないと打てない。今までは少しスウェイして手を返し気味にやっていたのを、回転系で体を残しながら打つ感じにしています」

生まれ変わったらコーチになりたい。「クラブ職人だと細かくやりすぎて一生終わらない気がします。今までも悩んでいる人の話を聞いて上手くいったパターンも見てきたので、自信はあります」

星野説によると星野の2歳下くらいが新旧の分かれ目。中学からデカヘッドを使った世代は自然な“新スウィング”だという。

「僕は高校でいきなりデカヘッドになった。もうプロに近い感覚だからスウィングを変えないといけない。それには筋力、関節や肩の可動域も必要。だからトレーニングや体のケアも変わってきます」

しかし星野は、あくまで最新理論“寄り”にしているという。

「きっと、昔のスウィングでもある程度扱える、一段性能が上がったヘッドが出てくるはず。ライン出しに使いやすいなど、昔のスウィングのよさもあります。僕がゴルフを始めたきっかけがタイガーですし、だからPGAを目指した。タイガーはいろいろな球筋を打つし、そうすることでゴルフが楽しくなる。だからクラブやスウィングの研究、球筋なんかも自分で考えてやってきました。マックスで最新理論のほうに行きすぎないようにしています。今のスウィングは“一辺倒”に近くなるので」

この一辺倒ではないスウィングこそ欧州では必要だという。日本なら中断になるような“爆風”のなか、芝質で打ち方も変えなければいけない。

「僕は元のスウィングは7割消した。でも残した3割はバリエーションとして使っているんです」

欧州の選手やコーチに『僕のスウィングどう?』と聞いたり、選手を見たりして効率よいスウィングを追求。「参考にするのは体の動きやクラブの振り方の感覚が似ているX・シャフフェレやJ・トーマス、タイガーなど。リズム感はミケルソンも好きです」

アメリカでも
シードを取りたい

苦しみのなかで楽しみながら自分をコントロールした1年目。気合いで乗り越えた2年目。

「いろいろな流れや運があって。ダメなときもあったけど試合に出続けたから。やっぱり、地道なことをコツコツやってきたから、運の確率が上がるんだと思います」

星野のPGA昇格が決まったのは最終戦のドバイだ。

「最終日もジェットコースターみたいなゴルフで。実は数日間眠れないほどめちゃくちゃ緊張はしてて。当日の朝もそのまま……でもそういうときは意外と力を発揮できる。7番まで奇跡みたいな5アンダー。『きたっ! やるなオレ』という感じだったんですけど、マネジメントミスもあり17、18番と池、池で。本当にもうダメだと思ったけど、地獄から天国へ。でも、無理やりでも予選を通ってきたポイントが効いた感じですよね」

これも星野の言う「運の確率」なのか。それにしても、星野は自分の経験を楽しく面白く伝えてくれる。ここに書ききれない多彩なエピソードもある。経験を自分のなかで昇華できているからできることだろう。

実は“歴史オタク”でもある星野。「昔から世界史だけは得意で、クラスでもだいたい5位以内(笑)。試合はどの国もナショナルオープンという感じで開催されるので、コースもよい場所にあり、少し歩けばヨーロッパの歴史や文化がすぐそこにあるんです」

1年目は、プチ観光が気持ちの切り替えやリラックスにつながる時間となった。「いろんな食で文化を知ることもできた。その部分でも成長しましたね。文化が違えば、国によって食事の注文の仕方も違うし。いろいろな世界があるんだなあと。心も広くなったし、忍耐力もかなり付きました」

地球儀を持ち「いろいろな場所に行ったなあ」としみじみ。英語力もアップ。「英語にも国によってイントネーションがいろいろあるけどだいぶ慣れてきて、聞き取りは前よりわかるようになりました」

「チェコのプラハはめっちゃ綺麗でしたし、ベルサイユ宮殿もすごい。ルーブルも1日2日では回りきれない。エジプトではピラミッドやツタンカーメンも見て、ケニアではサファリで珍しいライオンに遭いました」

欧州ツアーですごいと思った選手を挙げてもらうと、「ジョーダン・スミス。スウィングが綺麗なんです。下が硬かったり芝が強かったりするときの打ち方や、風の乗せ方が素晴らしくて。ラスムス・ホイガードもポテンシャルはハンパない。最新理論のスウィングが出来上がっていて、なおかつバリエーションもつけてくる」とオタク解説に花が咲く。

練習器具は交流の道具にも

ストレッチなどで振り回していたら選手が寄ってくる。「欧州にはあまりこういう器具はないので。『野球のバットか?』なんて言って来ます(笑)」


さて、今年からPGAツアーの一員となり、夢の舞台に立つ。

「本当に楽しみでしかない。欧州に進出したのもそこを目標としていたからです。ただ、変に攻めすぎても仕方がないので、欧州と同じようにしっかり1試合1試合分析しながら、攻めどきのタイミングを見ながら、落ち着いてやっていきたい。優勝は当然目指しますけど、経験しないとわからないことも多いので、1年間しっかりプレーしてシードを取って次の年につなげられるようにしたいです」

このオフ、まずはしっかりと体作りをしてきた。

「アメリカではずっと連戦。スケジュールを見たらすごいですよ。いつ帰国するのって(笑)。欧州とまた芝は変わりますけど、日本と欧州ほどは変わらないのかな。クラブやスウィングの準備はいつも通り、行ってみて考えて。どういう地盤や芝が多いのかも見ながらですね」と“オタクパワー”全開で戦うことを誓ってくれたのだ。

週刊ゴルフダイジェスト2025年1月21日号より