【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.814「自分の言葉でコメントする選手が多くなればゴルフファンは自然と増えていくと思います」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
最近のトーナメント中継を見ていて思うのですが、ホールアウト後の選手インタビューがあまり興味深く聞くことができません。話を聞くほうも答える側も台本通りに話しているように感じるのは私だけなのでしょうか?(匿名希望・HC5・49歳)
わたし自身、トーナメント中継の解説席に座る立場にいて、プレー後の選手がインタビューを受けているシーンを見ていて、正直もう少しどうにかならないのかなと思うことも少なくありません。
直近の例でいうと、シェブロン選手権の解説をしていた2日目のラウンド後のこと。
今シーズンの出場4試合を連続で予選落ちしていた渋野日向子選手に対してインタビュアーが「初めての予選通過ですね」と質問をしていました。
これを見ていたわたしは思わず
「選手はみんな一生懸命やっている。ふがいないことも自分で十分わかっているのだから、こう言われると逆に沈んでしまいます。インタビュアーがそう聞くのもわかりますが、わたしだったら何と答えるだろう……。“うーん”で終わっちゃうかなぁ」
というようなことを話しました。
要するに、選手目線での感想です。
視聴者がラウンド後の選手に聞きたいのは、プレー中にその選手が何を感じ、どう考えていたかということだと思うのです。
ですが、失敗続きの結果に終わったプレー内容を、今すぐ冷静に振り返って話して、というのは非常に難しく正直言って無理に近い注文だと思います。
もちろん、ホールアウト後のメディア対応までを含めてが選手の仕事であることはわかっています。
しかし選手も血の通った人間です。
プロアスリートとメディアの理想の関係はいかにあるべきか。
メディアはスポーツファンの代表としてリスペクトを持ってアスリートと対等に接する。
スポーツ界の歴史上、過去には心ない報道でプレーヤーの尊厳を傷つけ、選手生命が奪われる問題に発展する事件も起こりました。
そして今、世の中にはおびただしいネット情報があふれる時代で、アスリートにとっても危険かつ難しい環境になっているわけです。
だとすると、できる限り選手は話の尾ひれがつかないような受け答えをしておきたい。
そう考え身構えたとしても不思議はないと思いますが、台本のような受け答えしかできないことは、それは残念なことではありますよね。
確かに、ツアーを転戦するプレーヤーたちの日常は、みなさんが想像する以上に忙しいという事情があります。
毎週、トーナメントが開催される都市を移動しながら、練習と試合を繰り返し、その間にイベントやチャリティなどに参加したりします。
トッププレーヤーになればなるほど需要は高まり、各種メディア、そして記者の囲み取材などがあります。
そのほかにもファンの方へのサインなどもありますから、全部こなすには1時間以上費やすことはよくあります。
ともすると、コースの練習場が閉まってしまい練習をしそびれる心配まで出てきます。
確かに「明日は自分のゴルフができるようにがんばります」とか、自分の言葉ではないいわゆる台本通りの受け答えをする選手は、わたしも好きではありません。
ですから、選手はなるべく自分の言葉でコメントする努力をしないといけないですが、聞く側もそれなりに勉強をしてきてほしいという選手側としての気持ちもあることをわかってほしいです。
選手側からの言い分が多くなってしまったことに関してお許しください。
今年のシェブロン選手権で韓国のユ・セヨン選手が引退し、そのホールアウト後のインタビューにはジーンとさせられるものがありました。
「ずっと夢を追ってきた旅が終わった」
彼女はそう表現していましたが、ここ数年のコロナ禍で家族と一緒にいる時間が多く、駆け回る生活以外の大切さに気が付いたのだそうです。
「これで飛行機の時間を気にしないで済む」とも語っていたのが印象的でした。
分かるなぁ……と感慨深く、思いを馳せるインタビューでした。
「選手は興味深い質問なら、きっと頭をひねりながらがんばって答えると思います!」
週刊ゴルフダイジェスト2024年5月28日号より