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自分は自分。ゴールは「走りながら考えていく」 香妻陣一朗が“LIV”を選んだ理由<後編>

今年からLIVゴルフにフル参戦している香妻陣一朗。アジアンツアーにも積極的に参戦していた香妻だが、海外での転戦生活は苦にならないのか、今後はどのようなプランを描いているのか。新たな戦いに挑む香妻の今に迫る。

PHOTO/Blue Sky Photos、本人提供

香妻陣一朗 こうづま・じんいちろう。1994年鹿児島県生まれ。2歳でゴルフを始め、姉・琴乃とともに腕を磨き、ジュニア時代から活躍。宮崎の日章学園高校卒業後プロ入り。20年に初優勝を飾り、22年に2勝目を挙げる。海外にも積極的に挑戦し続けている

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海外でも自然体で過ごす

香妻はこれまで、アジアンツアーなどにも積極的に参戦してきた。

「アジアが好きだから、ということだけではなく、いい場所でやりたいというのがあるんです。ただそれだけです」

さまざまな国で戦ってきた経験を、しっかり自分の血肉にしているのだ。

「ここ2、3年海外で戦って、自信はもちろんつきましたし、ゴルフ力が上がっていると思います。技の引き出しが増えたというか、いろいろなコースでプレーしたので、対応できることが多くなりましたね」

自分で戦う場所を作り、選べる状況に自分を置く。プロとしてそれが一番いいと確信している。


「僕はオフとかは必要ないので。長いオフを過ごすとゴルフが下手になっちゃう。やっぱり試合に出たいんです」

海外転戦での長時間移動や食事はあまり苦にならないという。

「長すぎるとしんどいかなと思うこともありますけど、他の人よりは対応できると思います。僕、ホテルでは何もしてないですよ。ジムがあることが多いので、筋トレをしたりするくらい。食事はキャディをしてくれる友人と行くことが多いですね」

海外遠征では、昔から仲が良い同級生が「一緒に行きたい」と着いてきてくれるのだという。

「英語は2人とも全然ダメ。ああ、最近は日常会話くらいなら大丈夫かな。でもインタビューなんかになるとダメですね。これから準備はしていきたいです」

時間があれば、近くの観光地も訪れたりする。

「ホテルやコースの近くに世界遺産があればタクシーで行ったりします。めっちゃ好きなんですよ。この間の(予選会)アブダビでは、モスクみたいなところに行ったりもしました。ただ見るだけで、お祈りはしていませんよ(笑)」

その場で調べてサッと行く感じ。ゴルフ以外のものでも楽しめてこそ、海外では戦えると、“海外挑戦の先輩”川村昌弘も言っていた。行きたい場所を聞くと、

「あります。サグラダファミリアです。今年、スペインの試合があるんですけど、場所が全然違うので行けないかなあ。ご飯は現地で美味しそうなものがあれば食べに行くし、あまりなかったら、外れナシのイタリアンに行きますね」

気張らず自然体で過ごせるからこそ、海外で戦えるのだろう。

もちろん、日本ツアーへの参戦も予定している。昨年は20試合に出場して賞金ランキングは45位。シード権を獲得した。アジアンツアーでも賞金ランク53位でシードを獲得している。

「日本でも意外と出られると思うんですよ。行ったり来たりします。LIVは年の後半はあまり試合がないので、日本中心になるかなと。アジアンツアーもあるので、大きな大会中心にそちらにも出たいです」

昨年、第一子が誕生した。長男のことを聞くと、「超かわいいです」と父の顔となる。

「ゴルフは本人がやりたいと言わない限りやらせませんよ。でも、(LIVに出るおかげで)子ども、家族との時間が取れるのはいいですよね」

これも、偽らざる気持ちだろう。

プロとしてのモチベーションは、稼ぐことにあるかと聞くと「もちろんです」ときっぱり。日本の開幕までに4試合。アジアンツアーにも1試合出場する予定だが、一体いくら稼いで帰国するのかも、楽しみである。

若い選手は上手い。
もっともっと海外へ!

LIVゴルフ参戦に関して、家族や周りに反対はされなかったのだろうか?

「僕の周りに反対する人はいませんね。まあ、そういう声があるのは知っていますけど、僕は全然気にしていません」

実際、嫌な声も確かに聞こえてはきたという。

「直接ではないですけど、SNSなどで言われたりすることはけっこうありました。でも、人が思うのと自分が思うことには、違うこともあるので……全然関係ないですよね」

SNSを中心とした“外野”からは、“嫌な声”も聞こえてきたというが、本人は気にしていないという。自身の信念と、周りの支えがあるからだ

もちろん、応援してくれる仲間も多い。プロ仲間は、先陣を切った香妻に続け、と皆思っているに違いない。


「昨年末は浅地(洋佑)くんに会ったかな。頑張ってと言ってくれましたね。きっと、みんな行きたいと思いますよ」

今シーズンの目標は、LIVゴルフのシード権獲得にある。

「けっこうハードルは高いと思います。賞金ランキングの半分以内くらいに入らないといけない感じですから」

そして、香妻の将来的な目標は、今年のLIV挑戦によって変わってきたという。

「走りながら考えて行く感じになっています。今はこれで自分のゴルフもよくなってきているので。もちろん、海外のメジャーに出場して勝ちたい思いもあります。マスターズで優勝するとか。それも、走りながら、のなかにあると思っています」

今、世界のゴルフ界は動いている、それに関しても「面白くなってきていると思います」と。力強く言う。

「でも日本はまだまだ。こちらも盛り上げていきたいですね。僕が海外で活躍して戻ることも大事だと思います。それに若い選手たちは本当に上手い。僕より全然上手いと思うので、もっともっと積極的に海外に出ていってほしいです。それが日本のゴルフ界のためにもなると思うんです」

日本ツアーの賞金ランキング3位以内の資格を使っての欧州挑戦や、欧州でポイント上位に入りPGAツアー参戦という“久常ルート”を作った久常涼の活躍にも頼もしさを感じるという。

「アジアンツアーも今年QTを受ける選手が増えましたよね。アマチュア優勝した杉浦(悠太)くんなんかも。ああいう姿勢がいいですよ。アジアンツアーもめちゃくちゃレベルは高い。日本よりも高いんじゃないかと思います」

12月の試合で優勝したタイの19歳のデンウィット・ボリブーンサブなど、タイを中心に強い選手が続々出てきているという。

「でもアジアンツアーには、ベテラン選手もたくさんいます。年末のサウジでは、(ヘンリック・)ステンソンと2日間回りましたけど、やっぱり上手いです」

12年の全英オープン覇者、H・ステンソンとの2ショット。同じチームの選手はもちろん、往年の大スター、メジャー覇者たちも気さくに対応してくれるという

タイガー・ウッズに憧れて育った世代だという香妻。「皆タイガーをマネしていました」。しかしLIVゴルフには、タイガーと戦っていたプロたちも多くいる。まだまだ学ぶことは多い。

新たなステージは、稼ぐ場所だけではなく、自身を成長させる場所でもあると感じている。

実は香妻、大阪でインドアシミュレーションゴルフのスタジオ「Jホリック」を監修。下の階がトレーニングジムで、工房もあるという。現在は後輩にレッスンなどを任せて、こちらも順調に動いているという。これもゴルフをさまざまな角度から見始めた流れのなかにある。

今年で30歳の節目を迎える香妻陣一朗。プロゴルファーとしての自分の道は自分で切り開く――その強い信念が、しなやかな行動を支えている。

22年の開幕戦、東建ホームメイトカップで2勝目を挙げた香妻。LIVゴルフで腕も磨いて、日本ツアーでも我々に、面白いプレーを見せてくれるはずだ

週刊ゴルフダイジェスト2024年2月27日・3月5日合併号より